表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/156

第153話 :「絶望の中に咲く、小さな希望という名の花」

 ルリエの消失は、これまでにないほど俺を打ちのめした。彼女が残してくれた宝石は、まるで希望の欠片みたいに握りしめられていた。


 みんなも俺の落ち込みに気づいて、心配して寄ってきた。


「瑛太さん、大丈夫ですか? 何が起きたのか、わかりますか?」と美月が優しく訊ねる。


「俺もよくわからないよ、美月。全部があまりに急すぎて、状況を整理する暇もなかったんだ」俺は力なく答えた。


「ルリエ先生は、あのまま消えちゃったの? もう会えないの? それともいつもの投影が終わっただけなのかな?」凛が問いかける。


「凛、君も気づいてるだろ? 今回は違うんだ。ルリエの(霊素)はもう消えちゃってる。たぶん、戻っては来ない――」と俺は簡潔に事実を伝えた。


 その言葉を聞いて、三人の表情は一気に重くなった。やっぱり、みんな程度の差こそあれルリエのことを好いていたんだ。梓は現実を早くに受け止めるタイプらしく、問いを投げかけてきた。


「で、瑛太。これから私たち、どうすればいいと思う?その手の宝石を学院のどこかに持っていけば、道が開くんじゃないの?」


 俺はその言葉でようやく将来のことを考え始めた。ルリエはもういない――ここに留まる意味は薄い。そこで俺は手の中の宝石を詳しく見てみることにした。


「そんなことはないと思う。鑑定したけど、この宝石は(霊石)みたいだ。特別な効果を持つ魔石ってわけじゃないよ」その言葉を放った直後、学院内部が大きく変わり始めた。


「みんな、しっかりつかまって!地震だ!」誰かが叫ぶ。


 館内が激しく揺れ、粉塵が舞い、壁に亀裂が入り始める。揺れには収まる気配がなく、周囲にはさっき俺たちが入った迷宮の設計が次々と姿を現していった。壁の内部には非常に細い蒼い回路がびっしりと隠されており、その中を絶え間なく魔力が流れている。


 そして、すべての魔力回路が交わる一点に、ひとつの人影が浮かび上がった――まさか、ルリエだ!!


「ルリエ! そ、そん……違うだろ! お前の身から霊素が全然感じられないんだ。いったい誰なんだよ!!」


 その影がはっきりすると――そこに立っていたのは、ルリエに瓜二つの人型ロボットだった。全身は明らかに鉄の装甲で覆われ、関節は球体ジョイントで繋がれている。服だけが普通の布地に見えるのが、かえって不気味だった。


 機械音が冷たく響く。


「GTIA-01、ルリエ。導き任務は完了。訓練モード、正式終了。これより最高難度、S級試練へ移行。鍛錬成果の検定を開始する――」


 やっぱり、本物のルリエじゃない。学院の最終試験、ってやつか。説明が終わるや否や、あのロボットは手に握った魔杖を振り上げ、戦闘態勢を取った。周囲の空間から四つの属性の槍が百を超えて出現し、俺たちめがけて全方位から飛んでくる。


「ちょ、ちょっと待ってください! なぜいきなり戦闘になるのですか! しかも最高難度って何なのですか!」美月が叫ぶが、ロボットは機械的な声で淡々と続ける。


「この試練はGTIA-01ルリエの設定による。チュートリアル終了後、自動起動するプログラム。説明終了、試練開始――」槍の一斉飛来。間一髪で梓が叫ぶ。


「くそっ、いきなり攻撃だ!(アースウォール)!」


 梓は土の魔法で球状の壁を生み出し、俺たちを包む盾を出した。直撃を防ぐには十分だった。突如の事態に、妙に冷静になった自分がいて、俺は皆に声をかける。


「よし、落ち着け。これがルリエの望む試練なら――戦おう。ルリエに誇れる生徒だってところを見せてやろうぜ。試練、突破できるはずだ」皆が頷く。


「いいわね、瑛太君が言うなら行くよ」凛がそう言いながら、装備を身につける。何週間ぶりかに完全武装の凛を見ると、ちょっと懐かしい気分になる。


 外からは、梓が作った土の壁を槍が叩き付ける音が続々と聞こえてくる。各自、体内の霊素を使う準備をする。正直、面倒だ。霊素は魔法みたいに一瞬で使えるスキルじゃないから、扱いは手間取る。


 そのとき、俺の手の中でルリエが残した霊石がじんわりと光り始めた。俺は慎重に霊素を注ぎ込む。するとその霊石と微かなリンクが結ばれ、視界に妙な映像が浮かんだ。


 ルリエの方角――そこに、白くきらめく小さな破片群がゆっくりと消えていくのが見える。あの破片たちと、この霊石には確かな繋がりがある。


 ――ま、まさか。ルリエは、まだ完全には消えていないのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ