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第148話 :「異世界の友人は、心の年齢が5歳」

 俺たち四人は、聖女の物語を最後まで聞き終えた。正直……なんか、胸の奥がじんわり温かくなる話だった。この世界って、何でも戦って解決するわけじゃないんだな。そう思うと、少しだけ救われた気がした。


 そんな余韻に浸っていると、美月がすっと手を挙げた。


「ルリエ先生、聖女さまの偉大さはよく分かりました。でも……聖女さまの使っていた神聖魔法って、瑛太さんのとは少し違うように感じます。瑛太さんは詠唱もなく使っていましたし、悪魔には効果があるのに、不死者には効かないのはどうしてなんでしょうか?」


 美月がそう尋ねると、ルリエ先生はいつものように柔らかく微笑んで、ゆっくりと答えてくれた。


「それはね、神聖魔法というのは【霊素】を操る最高位の術なの。女神さまが人々に与えた、最も純粋で崇高な力……普通の魔法とはまったく別の存在なのよ。瑛太くんの使っているものは、たまたま『魔法』という言葉を使っているから似ているように見えるだけ。実際には、構造が少し違うの」


 先生はそう言うと、少し懐かしむように遠くを見つめた。その横顔には、わずかな哀しみが滲んでいた。……まるで単なる物語の説明じゃないような、そんな表情だった。


「なるほどな。でも、この話の中じゃ、神聖魔法でどうして〈負化大地〉が癒えたのかは書かれてなかったよな。それって、僕たちが今学んでる【霊素】と関係あるのか?」


 凛が鋭く問いかける。あいつらしい、まっすぐで回りくどさのない質問だった。

「もちろん関係あるわよ〜」ルリエ先生は小さく笑って、軽やかに答える。


「みんな、少しでも早くここを卒業したいんでしょう? なら、神聖魔法の下位版――“聖魔法”を目指すのが一番早いの。正の属性を持つ子たちにとっては、ぴったりな道よ。それに、コツさえ教えればスキルがなくても聖魔法は使えるようになるのよ〜」


 ……ん? 今の言い方、なんか引っかかるな。


「先生、それって……じゃあ、瑛太は違うってこと?だって不死者の彼、もう神聖魔法を使えるのに。それでも「負の霊素」の扱い方を学ばなきゃいけないの?」梓が、俺の代わりにその疑問を口にした。


「その通りよ〜」と先生は微笑んだ。

「普通の人なら、神聖魔法を覚えた時点で霊素を操るのは簡単になるの。でも瑛太くんの場合、身体に二種類の霊素が宿っているでしょう? だから彼の霊素は自動的に“正の霊素”として扱われてしまうの」


 ……なるほど。そういうことか。俺の中に二つのエネルギーがあるから、バランスが違うんだな。


「さぁ、みんな。今日はここまでにしましょう。明日からは【霊素】の操作方法と聖典の読解を学びますよ〜。それじゃあ――授業、終了♪」ルリエ先生はそう言って、光の粒となって姿を消した。


 気づけば、もう何時間も経っていた。


「……まぁ、先生の言う通りだな。飴の件は今日は諦めとこうぜ。今日の進み具合からして、一番早く覚えそうなのは凛だろ」俺がそう言うと、なぜか全員が一斉に怒り出した。


「ちょっと瑛太さん!それって、私たちが凛より劣ってるってこと!?」

「そうよ! いつの間にそんなに凛ちゃんびいきになったの!? 不公平すぎるでしょ!」


 美月と梓が、同時に頬をぷくっと膨らませて詰め寄ってくる。凛はというと――顔を真っ赤にしながら、俯いたあと、ちらりと上目づかいで俺を見上げてきた。その仕草が、なんというか……反則級に可愛かった。


「その……みんな、ちょっと落ち着けって。凛が上手くいくのは、前に神社で手伝ってたことが多かったからだろ? 聖剣術だって、その信仰心の延長で転生の時にスキルとして引き継いだわけだし。だから信仰がある分、そりゃあ他より順調になるってだけだよ」


 怒っていた二人にそう言うと、少しだけ納得したようで、ようやく矛を収めてくれた。


「よし、みんな落ち着いたな。……じゃあ、こうしようぜ。聖典に早く慣れるためにも、今夜は俺が“寝る前の読み聞かせ”でもしてやるよ」


 そう口にした瞬間、なぜか三人の反応が――異様に騒がしくなった。視線を交わしながら、こそこそと内緒話を始める三人。


「読み聞かせ……? それって子どもにしてあげるみたいなことじゃない?瑛太さんが、私たちの子供にお話を読んであげる……ふふっ、なんだか素敵ですね」

「寝る前に瑛太君の声を聞きながら眠る……うん、悪くないわね」

「瑛太の腕の中で、耳元で物語を囁かれて……そのまま眠りにつくなんて……天国、かも……」


 三人で何かを相談するようにひそひそ声で盛り上がってるけど……遠すぎて何言ってるか全然聞こえねぇ。気になって、俺は恐る恐る口を開いた。


「な、なぁ……冗談で言っただけなんだけどさ。もし嫌ならやめとくよ?俺、別に寝る必要もねぇし。同じ部屋にいる理由もないだろ?」その言葉を聞いた瞬間、三人はピタッと会話を止め――同時に俺の方へ駆け寄ってきた。


「だ、だめですよ、瑛太さん! そんなこと言わないでください! もしかしたら、寝る前にお話を聞かないと、勉強の効率が落ちてしまうかもしれませんよ!」美月が力強く叫び、続けて凛まで訳のわからないことを言い出す。


「そうだよ瑛太君!ていうか、なんで離れる必要があるの!?まさか猫とかリザードマンとか狐とか……そういう種族の方が興奮するタイプなの!? 違うよね!?」


「はぁっ!? 誰がそんな性癖持ってるか!!」……ったく、俺をなんだと思ってんだこいつ。俺は絶対に変態じゃねぇからな! 寝てる奴に変なことなんて、絶対しねぇよ!そして最後に、梓が腕を組んで真面目な顔で言った。


「いいから瑛太。寝る前に聖典を読んで、私たちのそばにいなさい……もしかしたら、これも油断させるための学院の罠かもしれない。なら、一緒にいた方が安全でしょ?」


 ……まぁ、言われてみれば、それもそうだな。この妙な学院じゃ、どんな仕掛けがあるかわからねぇ。


「わかったよ、わかった。そんなに言うなら読むって。とりあえず飯食って、落ち着いてからにしようぜ」そう言うと、三人は嬉しそうにうんうんと頷いた。


 ――そして食事を終えたあと。俺は寝る前の一時間、聖典の物語をゆっくりと読み上げた。ページをめくるたび、三人の呼吸が穏やかになっていくのがわかる。


 最後の一節を読み終える頃には、美月も、凛も、梓も――安心したように静かに眠っていた。

 その寝顔を見ながら、俺は小さく息をついた。


「……まったく。結局、保育士みたいになっちまったな、俺」

皆さま、こんにちは。


聖女の物語をお読みいただき、いかがでしたでしょうか。もし楽しんでいただけたのなら、本当に嬉しく思います。


現在は再び瑛太たちの視点に戻り、しばらくは決戦の前後あたりまで進む予定です。その後に再び澪の物語へと戻ることになります。


この物語が皆さまの心に少しでも感動を届けられたなら幸いです。「何事も力だけで解決するわけではない」というのが、僕のささやかな願いでもあります。


もしお楽しみいただけましたら、ぜひ評価やブックマークをしていただけると嬉しいです。皆さまのご感想をお聞かせいただけるのを、心より楽しみにしております。

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