第144話 :「《勇者編》信仰と信念、私たちの認識は一新された。神の教えは迷信ではなく、異世界での正しい選択なのか?」
なるほど……。本当に初めて聞きました。
私たちは普段、信仰のことなんてほとんど話題にもしません。というのも、皆さん基本的には宗教に対して冷淡だからです。
むしろ、現代社会に生きる人は誰もが少なからず自然主義的で、「世界は神に創られたもの」だなんて、信じる人はあまりいませんでしたから……。
「澪、起きたのですね。何を話していたのですか?」梨花さんが興味深そうに声をかけてくださいます。
すると私が目を覚ましたのを見て、他の皆さんも集まってきてくださいました。せっかくなので、私は宗教や信仰、女神さまについてどう思っているのか、皆さんに尋ねてみたのです。
「私はね、この世界には輪廻転生があると思ってるの。だからこそ、人は悪いことをしてはいけないのよ。そうしたら次の世で報いを受けちゃうもの。いわゆる“善因善果、悪因悪果”ってことね。それ以外の教えは……正直、あまり気にしてないの」真白さんが、落ち着いた声でそう答えました。
「うちは宗教の話なんて全然しなかったし、私自身もどちらかといえば唯物主義者ね。世界が女神に創られたなんて信じていなかったわ。でも……この世界を実際に見て、しかもまるでゲームみたいなシステムが存在しているのを考えると……ルナリア女神が創造したって言われても、妙に納得しちゃう自分がいるのよ」梨花さんが少し苦笑しながらおっしゃいました。
「私の家はカトリックなんだけど、私はあんまり信仰深くはないの。『いいことをすれば天国に行ける』とか『悪いことをすれば地獄に落ちる』とか、そういう考え方はどうしても受け入れられないわ。私は人に善意を示したいから、いいことをするの。より良くて、誰にでも優しい世界にしたいって思うからよ。決して概念に縛られて仕方なく行動するんじゃないの」エミリアさんは、はっきりとした口調でそう語られました。
――三人の考えを聞いて、私は少し胸が詰まってしまいました。
だって、私はもともと家庭が本当に貧しくて……信仰や思想なんて考える余裕すらなかったのです。
家族みんなが毎日必死で生きていて、私は学校が終わればすぐにアルバイトへ行き、帰ったら弟や妹のために夕食を作って家事を片づけて……。
最後に残されたわずかな二時間で宿題を終わらせ、必死に勉強をして成績を保たなければ、特待生としての学費免除が取り消されてしまう。
そんな日々を繰り返す中で、この世界の起源だとか、信仰を持ってどう生きるべきかだとか……考える時間なんて、あるはずがなかったのです。
でも、ちょうど今は聖国からの救援を待つしかない状況。だから今夜は、私たちの信念や価値観について、じっくりと語り合うことになりました。
「ねえ……皆さんは、この世界をどう思っていらっしゃいますか?私たちがここに来て、もうすぐ二ヶ月になりますよね。日本での生活が恋しくなったり……女神さまにここへ連れて来られたことについて、何か思うことはありますか?」ふと気になってしまい、私は皆さんに問いかけてしまいました。
「私はね、日本と大きくは変わらないと思うの。ただ、ちょっと危険が多くなったくらいで……でも、みんなと一緒なら何も文句なんてないのよ。だから、私は女神さまのことを嫌いじゃないわ。むしろ、その教えを実際に試してみたいって思うくらい!真面目に聖典を読むとね、女神さまって本当にすごく現実的で、理にかなっているのよ」真白さんは、少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにそう話してくださいました。
「真白さんは、本当に前向きでいらっしゃいますね……。では、梨花さんはどう思っていらっしゃるのですか?」私が尋ねると、梨花さんは少し考えてから、こう答えてくださいました。
「この世界って、本当にぎりぎりで保っている感じがしますわ。だって、三日に一度は魔物の襲撃に遭ったり、(負化大地)のような危険に巻き込まれたりしていますもの。女神様が、わざわざこんな危ない場所に私たちを連れてきたことには……正直、不満もあります。でもですね、こうして皆さんと一緒に困難を乗り越えられること自体は、とても幸運なことだと思います。」
梨花さんの言葉は、どこか胸に響くものでした。だから、私は自分の考えを少しだけ口にしてしまいました。
「その……女神さまは、本当は世界にあまり干渉なさらないお方なのだと思うんです。きっと、世界がもう限界に近づいていたから、私たちをここへ呼ばれたのではないでしょうか。……だから私も、皆さんと一緒にこの挑戦に立ち向かえることが、嬉しいんです。……エミリアさんは、どうですか?」
「私は今の生活、とても気に入っているわ。もう誰にも強制されないし、退屈なパーティーに出席する必要もないし……知らない人と縁談なんてさせられない。そういうものから解放されて、本当に楽なの。だから私は女神さまに、とても感謝しているのよ。それに、この世界の信仰は地球のものよりずっと確かだと思う。だって、これは物語じみたおとぎ話じゃなくて、本当に“神”が存在しているんだもの。そんな状況で神さまを信じないほうが、よっぽど不自然でしょう?」
エミリアさんの言葉からは、ずっと縛られてきた貴族の家から解き放たれた喜びが感じられました。そして……確かに、彼女のおっしゃる通りだと思います。
この世界において女神さまを信じるということは、きっと正しい認識なのでしょう。
ですから、今日は信念とか信仰みたいな話で、とても遅くまで話し込んじゃいました。こうして一日が終わったとき、私は仲間の皆さんの考え方を以前よりも深く知ることができたのです。
今日の対話は、私自身に「信仰」というものを改めて考えさせるきっかけになりました。この世界においては……むしろ女神さまを信じないほうが不自然なのかもしれません。
だって、「信じるだけで強くなれる(聖魔法を習得できる)」のだとしたら――信仰を持たないことのほうが、愚かな選択なのではないでしょうか。