第137話 :「会話のたびに深まる謎、先生の正体は、AIのデータか、それとも魂の残滓か」
休憩の時間がせっかくあるんだし、腹ごしらえでもしようって話になった。俺たちはルリエ先生が出て行く前のタイミングで、ダメもとで質問してみた。
「先生、ここって飯作れるのか? せっかくだし、休憩中にみんなの分を用意してやりたいんだよ。やっぱ食わなきゃ成長できねぇだろ? みんな成長期なんだしさ!」
俺の問いかけに、ルリエ先生は相変わらず優しく微笑んで返してくれる。
「ふふっ、瑛太君は本当にみんなのことをよく考えているのね。実は学院の調理室を使えば、昼食を準備できるわよ。もしご飯を食べたいのなら、次の(霊素実践授業)の前に、家庭科の授業を先にやるのもいいんじゃないかしら?」
「へぇ? いいのか? そりゃ助かるな。……にしても、授業の予定ってけっこう柔軟なんだな」俺が感心すると、ルリエ先生は満足げにうなずいて言った。
「もちろん問題ないわ。だって、あなたたちはここで常識や歴史、ルナリア聖教の教義、そして霊素の扱いをきちんと学び終えるまで卒業できないんだもの。授業は生徒たちの希望を踏まえて調整するのが、先生の責任なのよ」
……人道的っていうか、生徒本位っていうか。異世界の学院って意外と人間味あるな……と思ったところで、俺たちは引っかかるワードを聞いてしまった。
「えっ……学び終えるまで外に出られないってことですか!?」
美月が勢いよく声を上げた。……そういえば、美月は最初から妙に「ここを出たい」って雰囲気を出してたよな。そんなにここが嫌なのか?
「そうよ、美月ちゃん。あなたたちは才能ある《霊素操縦者候補》なんだから。社会の安全のためにも、自分の力を正しい信念のもとに使えるようにするためにも、しっかり学んでもらわなくてはならないの」
ルリエ先生の言葉に、美月の顔がわずかに引きつった。……なるほど、彼女はこの学院での授業そのものに抵抗があるんだな。もちろんルリエ先生もそれに気づいたようで、表情を鋭くした。
「どうしたの?美月ちゃん、授業内容に疑問でもあるの?……“信念”という言葉を聞いたとき、顔がとても曇ったわね」
「えっと……他の授業はまぁいいんですけど、その……私たちって、絶対にその“聖教”を学ばなきゃいけないんですか?その、いわゆる“聖教”って……一体何なんです?」
美月は嫌そうに吐き出すように言った。俺は一瞬で察した。――美月が引っかかってるのは、そこか。だが、美月って女神様を結構慕ってたはずなのに……なんで“聖教”だけは嫌なんだ?
「……あぁ、やっぱりあなたたちはまだまだ無垢で純粋なのね。じゃあ少しだけ教えてあげるわ。聖教の正式名称は“ルナリア聖教”。あなたたちが学ぶのはその教義、そして女神様が人々に望んでいることよ。……そうすれば、二度と過ちを繰り返さずに済む。世界が再び悲劇や狂気に沈むこともなくなる」
まただ……。ルリエ先生は、過去の話になると必ずこの悲しげな顔をする。過去に一体何があったんだ……?
これまでの情報を合わせると、聖剣が関わったという世界大戦、悪魔の遺言は「終刻の禍神」に尽くせなくなったことへのものだった。
その「禍神」という字の中の「神」は、まさか本当に神様のことなのか?ルナリア女神の他に、まだ別の神がいるってことか?この世界って、ルナリア女神が唯一神なんじゃなかったのか??どうにも話がおかしな方向に進んでいる気がするぞ!
「……わ、分かりました。先生がそこまで言うなら、嫌々ですけど……その授業も受けます」美月は渋々と折れた。
「よかったわ、美月ちゃん。それはとても大切なことなの。女神の言葉、世界の教訓、そして二度と繰り返してはならない人間の罪……それらを無視してはいけないの。――さぁ、次の授業も決まったし、今は休憩の時間よ。先生はみんなの邪魔をしないわね」
ルリエ先生はそう言い残し、静かに姿を消した。
でも、それがまた気になるんだ。ルリエ先生は、あの世界を分けた大戦に、一体関わっていたのか?それとも、本当にただのAIなのか?
俺たちを褒める時、子供を褒めるようにプログラムされた感が露骨なんだ。だけど、(昔あったこと)の話をする時だけは、先生の素の表情、悲しい雰囲気、苦しい感情が、すごく人間臭くてな...。後悔の念がひしひしと伝わってくる。
先生、一体あんたは何者なんだ?