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第136話 :「先生に矛盾を突いたら、AIがバグったのでスルーしてみた」

「だからみんな、さっきの話を聞いて(負化状態)が完全に理解できたでしょうね。惑星が(負霊素)を欠くと、まるで病気のようにあらゆる手段を尽くしてその栄養を補おうとするのよ」。ルリエ先生はそう言った。


 まぁ、俺にはそれがどうして起こるかは理解できた。


 この世界のエネルギーは(正霊素)と(負霊素)のバランスが取れていることが大事なんだろう。どちらか一方に傾けば、星は不足した(霊素)を補うために変異を起こす――そういうことだ。


「でも先生、(負化大地)は上にいる生き物をアンデッドにできるのに、どうして彼らは他の生物を襲うんですか? ほら、瑛太も大量の(正霊素)を持つ生物を殺したり食べたりしたい衝動はありませんよね?」と美月がそう尋ねた。


 確かに、俺がこの異世界に来てからというもの、食欲も眠気も性欲も一切湧かない。典型的なアンデッドだ。


 くそっ、せっかく肉体を手に入れたってのに、人間を象徴する三大欲求が一欠片も戻らないなんて、全然兆候がない。悔しいったらありゃしねぇ。


「私の見るところ、今の瑛太君は(食屍鬼)に近い状態よ。この種の魔物は通常、生きている人間を襲って死体を貪るけど、瑛太君は進化を経て食欲を失ったんでしょう。進化によって魔物は自らの弱点を改善できる。だから瑛太君はおそらくスケルトン族から進化したのね!」とルリエ先生は答えた。俺のスキル(森羅万象)が示していたこととまったく同じだ。


 しかもルリエ先生は俺の初期種族までいきなり推測しやがった。この世界では情報格差がこんなにも露骨に出るものなんだな。たった数言で敵のことがわかるなんて、正直ちょっと恐ろしい。


 するとルリエ先生は、俺が知らなかった俺の(霊素)についての詳細を付け加え始めた。


「それに、瑛太君は本当に特別な子よ!実は非常に稀な魂だけが(正霊素)と(負霊素)を同時に有することができるの。先生、こんな生徒を教えるのは初めてで、非常に興奮しているわ。先生は全力であなたを教えますからね!」


 ルリエ先生は目を輝かせてそう告げたが、俺の胸の内にはある疑問がこびりついていたので、率直にぶつけてみた。


「ルリエ先生、どうして俺がこの二種類の(霊素)を持っているってわかったんですか? それに、さっき先生は生きている命は(正霊素)を放ち、不死の類は(負霊素)を放つって言いませんでしたか? なのに俺の体には(正霊素)があるって、どういうことですか?」


「その点については……」ルリエ先生はそう言って、そこで言葉を失った。数分の間、ぽかんと宙を見つめている。待ちきれなくなって、俺は気遣うように声をかけた。


「えっと、ルリエ先生、どうかしたんですか? 急に黙ってしまって。なんで俺が(正霊素)と(負霊素)を同時に持っているんですか?」


 しかし――ルリエ先生の様子はどんどんおかしくなっていった。目が赤く染まり、瞳が素早く泳ぎ始め、言葉を断片的に紡ぎ出す。


 《エラー、エラー……生物は同時に二種類の(霊素)を保持できない。システム内部に保存された資料と矛盾を検出。自己再鑑定を開始……異常なし……それでも同一個体内に二種類の(霊素)を検出。》


 やべぇ、ルリエ先生、バグってるのか? 自分の言ったことに矛盾を感じてるのか? どうして自分が言ったはずのことが矛盾して見えるんだ?


 最初はただ目をきょろきょろさせていただけだったのに、今は狂ったかのように首を振り、手足をばたつかせ始めた。だんだん理性を失っていくみたいだ!!


 ルリエ先生は、数分ほど奇妙な沈黙ののち、まるでバグから抜け出したかのように上半身を前に倒し、まるで脚のストレッチでもしているみたいな姿勢を数分も保っていた。


「なぁ、どうするよ? 先生、壊れちまったんじゃねぇの? 完全にフリーズしてるみたいだぞ」俺は不安げに皆へそう問いかけた。


「それなら逆にちょうどいいじゃないですか? ただのAIだと思ってここを出ちゃうのはどうでしょう?」美月がそう提案する。でも俺には、どうしても彼女がただのAIには思えなかった。


 俺たちが他の意見を出そうとした瞬間、ルリエ先生はふいに上体を起こし、あの最初に見せてくれた優しい先生の顔に戻った。先ほどまで露骨に漂っていたAIっぽさは、跡形もなく消えていた。


「瑛太君、心配はいらないわ。先生はあなたが(正と負の霊素)を上手に扱えるように、しっかりと教えてあげるからね。それで……さっきあなた、何か質問していたわよね? 先生、ちょっと聞き逃してしまったみたい。もう一度言ってもらえる?」


 まるで何もなかったかのように装ってるが……正直、怖すぎるだろ。俺は小声でみんなに相談した。


「瑛太君、ここでさっきの質問はやめておきなよ。またバグっちゃったら面倒だ」凛が俺にそう釘を刺す。


「そうそう、今は流しておこうよ。その疑問は未来に絶対分かる時が来るって。まずは力の扱いを覚える方が先でしょ」梓まで凛の意見に賛同するのかよ。


 ルリエ先生は俺たちを見つめ、少し首を傾げると、口をきゅっと結んで寂しそうに言った。


「瑛太君、やっぱり先生に言いたくないのね? 先生もさっき聞き漏らしてしまったのが本当に残念なの。授業中は、どんな些細な質問でも積極的にしてほしいのよ。先生はできる限り答えるつもりだから……お願い、もう一度だけ聞かせてもらえないかしら?」


 その悲しげな表情を見ていると、俺の方が悪いことをした気分になってしまった。だから俺は、適当に別の質問を投げてごまかすことにした。


「いや、大したことじゃねぇんだ。ただ、授業がちょっと長くなってきて飽きただけでさ。実技っていつから始まるんだろうなーって思っただけだ」


「なるほどね。確かにもう三時間近く、みんな真面目に授業を受けてくれているものね。本当に偉いわ。それじゃあ、ここで三十分休憩を取りましょう。その後で、いよいよ霊素を操る実践に入ります。……はい、それでは授業はここまで」


 下校のチャイムみたいな言葉を聞いた瞬間、俺たちは反射的に立ち上がっていた。こういう時はやっぱり梓が仕切る。


「起立、礼! そして——」

「「先生、ご指導ありがとうございました!!」」


 皆は自然に声を合わせていた。異世界でこんなことをするのは初めてなのに……どこか懐かしい。


 俺がこっそりみんなの顔をうかがうと、案の定みんなも同じように、くすぐったそうな笑みを浮かべていた。やっぱり、懐かしいんだよな……あの頃の教室の空気が。


「まぁまぁ、みんな本当に礼儀正しいのね! 先生の方こそありがとう。先生は三十分後に戻ってくるから、それまでごゆっくり休んでちょうだい」

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