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第132話 :「《勇者編》すぐに撤退すべきなのに、気づけば敵に包囲されていた」

「よし、合図と共に全員後退する! 一刻も早く(負化大地)から離脱するのだ。その前に――エイトソン殿、そなたは一人の聖騎士を伴い、私の馬に乗って強行突破せよ。我が愛馬は群を抜いて速い!」


 突然の命令に、私は思わず息を呑みました。そして、一瞬でその真意に気づきました。


「その目的は……聖国へ、この事態を知らせに行かれるのですね。必要なのは、やはり――」エイトソンさんが言いかけた時、聖騎士が強い口調で言葉を継ぎました。


「そうだ!聖女、あるいは聖子を派遣していただくのだ!これほど急激に拡大する(負化大地)は、最上級の脅威だ! 放置すれば必ず聖国にまで及ぶ! 何としてもここで食い止めねばならぬ!」


 エイトソンさんは黙って頷き、一人の聖騎士と共に馬へ飛び乗ると、そのまま黒き大地へ突入していきました。あまりに急な展開に、私は声を張り上げてしまいました。


「ま、待ってください! エイトソンさんと聖騎士さんのお二人だけでは、あまりにも危険です!あそこには不死者が溢れているのですよ!? 命を落としてしまいます!」しかし、年配の聖騎士はただ小さく首を振り、静かに言いました。


「勇者様、彼は見た目に反して高位の祭司でございます。単独でDランクの魔物を討伐できるほどの力を持つ者……道を切り開くことは可能です。我らの務めは、今ここで生き延びること。どうか、後退に専念を!」議論をしている余裕はありません。私は唇を噛み、彼の言葉に従って後退を開始しました。


 真白さんも梨花さんも、朦朧とした意識の中で必死に足を動かしています。けれど、彼女たちの身体は限界に近く、一歩一歩が重そうで……その姿を見るたびに胸が締めつけられました。


 聖騎士の方々も同様でした。皆が汗を滝のように流し、頭を押さえて苦痛に耐えている姿は、見ていられないほどでした。


 それでも、ようやく三分ほど歩いた頃――私たちの前に、出口となる境界線が見えてきました。


 あと少し……そう思った瞬間、目の前に新たな絶望が広がりました。無数の不死者が、私たちを囲むように集まってきたのです。


 ゾンビ、骸骨、狼の形をしたもの、人の姿を残したもの、かつて魔物であったであろう異形のもの……。次々と影が迫り、退路を塞いでいきました。


「……邪魔を、しないでくださいっ!」


 私は思わず叫び、両手に魔力を集中させました。水の魔法で敵を薙ぎ払うつもりでした。ですが、その行動を年配の聖騎士が鋭い声で止めました。


「勇者様! 攻撃はなりません! 申し上げたはずです!(負化大地)の原因は不死者の不足!もし更に数を減らせば、事態を悪化させかねぬ! 下手をすれば再び(急速負化)が起こるぞ!」


「っ……もし再び(急速負化)が起こったら、この領域はさらに広がってしまうのですか!?」


「すぐに拡張するとは限らぬ。しかし保証はできん!ここは連邦の地、不死者が極端に少ない地域なのだ。つまり……大地は長きにわたり(負属性)を渇望していた。これ以上刺激すれば、さらなる負化を招くやもしれん……!」絶望の色を帯びた声で、彼は吐き出しました。


 敵を倒せば、逆に大地を広げてしまう――。そんな理不尽があるのでしょうか。残された時間は、あと二分ほど。ここから脱出しなければ、皆が倒れてしまいます。


 けれど、真白さんも梨花さんも、もう限界でした。彼女たちは無意識に足を運んでいるだけで、私の声すら届いていないようでした。


 そして周囲を囲む不死者の群れは、じりじりとこちらへ迫ってきます。私はただその姿を見つめ、身体が震えるのを抑えられませんでした。


(……どうすればいいのですか。助けたいのに、手が出せないなんて……こんな絶望があるなんて――)


 私たちは、本当に袋小路に追い詰められてしまったのです。

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