第131話 :「《勇者編》負化の大地に呑まれ、行き着く先は死。早くここから脱出しないと!」
闇に呑み込まれた瞬間、私は完全に取り乱してしまいました。思わずぎゅっと目を閉じましたが……何も起きません。
恐る恐る瞼を開けてみると、辺りは漆黒に染まっている以外、特別な変化は見当たりませんでした。ただ――自分の身体が少し重くなり、呼吸が圧迫されているような息苦しさを覚えました。
それでも動ける……そう思い、周囲へ視線を移した時、心臓が凍りつきました。皆が、倒れていたのです。
真白さんは口から泡を吹き、胸を押さえ苦しげにもがいています。梨花さんは地面に膝をつき、必死に呼吸を繰り返しながら涙をこぼしていました。エミリアさんに至っては――もう意識を失って横たわっていました。
「み、皆!?エミリアさん、エミリアさん、どうか目を覚ましてください!!」
私は慌ててエミリアさんを抱き上げ、必死に肩を揺さぶりました。けれども彼女は何の反応もなく、まるで命を失ってしまったかのようでした。震える手で鼻先に指をかざすと、かすかな呼吸が感じられ――胸を撫で下ろしました。
「大丈夫です……皆、どうか安心してください。私が……必ず皆さんを助け出してみせますから!」そう心の中で強く誓った瞬間、年配の聖騎士が叫びました。
「全員!勇者様の周囲に集まれ!(神聖護盾)を展開する!」
「「了解!!」」
号令と共に、十名の聖騎士が私たちを取り囲み、一斉に詠唱を始めました。数秒後、神々しい光の護りが私たち全員を覆い、天井まで包み込むように展開されました。
すると、真白さんと梨花さんの表情が少し和らぎ、呼吸も落ち着きを取り戻してきました。
「真白さん、梨花さん……無事ですか?」
「澪……あんまり無事じゃないよ。長い間高熱にうなされてたみたいに、頭がガンガンして、身体が熱くて吐きそうなんだ……」真白さんは力なく笑いながら答えました。
「私は……まるで魔力を吸い尽くされたような感覚です。息をするのもつらくて……身体の芯から疲弊していくようで……」梨花さんは苦しげに震えながら声を絞り出しました。
そして、エミリアさんはいまだ目を覚ましません。この場で最も重症なのは、間違いなく彼女でした。
「なぜ……なぜ私だけは平気なのですか!?どうして皆だけがこんなにも苦しんで……エミリアさんまで倒れてしまうなんて……!」私は思わず年配の聖騎士へ問い詰めました。
「(負化大地)に踏み込んだ者の症状は、人によって異なります。勇者様は抵抗力が強いため、まだ大きな不調が出ていないのでしょう。私ですら呼吸するだけで精一杯なのです。我らの張った護盾は、この地が我々の魔力を吸い尽くすのを防ぐためのもの……魔力を完全に奪われれば、最期は死です。」
その説明を聞いて、私はようやく理解しました。皆が苦しんでいるのは、魔力を無理やり吸われているせいなのですね。
「ならば……一刻も早くここを離れなければなりません。私が皆さんをお連れします!」
私は決意を込めてそう言い、エミリアさんを背負い、真白さんと梨花さんを両脇で支えました。聖騎士の方々は護りを維持するので手一杯で、彼女たちを助ける余裕はありませんから。
「勇者様のおっしゃる通りです。ですが(神聖護盾)が持つのは五分が限界……それまでに脱出しなければなりません。馬はもう使えませんが、せめて馬車だけでも回収していただけますか?」
馬を諦めたのは、その体格が大きすぎるからでもあります。私たちには人数に限りがあり、馬まで守り切れるほど大きなシールドを張ることができません。私自身、この選択には心の中で反発を感じていますが、今はそんなことを言っている場合ではありません。
「はい……お任せください!」
私は手を伸ばし、心の中で「インベントリ」と唱えました。すると、馬車は光に包まれて私のスキルに収まりました。……本当に、インベントリという能力は便利です。
私は頷いて聖騎士へ合図を送り、次の行動に備えました。
「ありがとうございます。馬車には重要な情報と物資が積まれていますので、回収しなければなりません。回収が済み次第、撤退の準備をしましょう。」