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第128話 :「霊素の真実、そしてバランスを失った世界は破滅へと向かう」

 ルリエ先生は、まるで美味しい飴を口にしたあとのような、甘くて親しみやすい笑みを浮かべた。


 ただの映像のはずなのに、不思議と安心させられて、心地よさすら覚える。……これがこの異世界の技術力が異様に高いせいで、AIが人間そっくりに作られてるからなのか。それとも――ルリエ先生は、本当にただのAIじゃないのか。


 そんな疑念が胸をよぎる中、授業は続いていく。


「霊素は、この世界に存在するすべての根源的なエネルギーなんですよ。生きとし生けるもの、そして死者でさえも、霊素によって形作られているのです!」


 彼女が両手を掲げると、その手のひらに二つの図が浮かび上がった。


 ひとつは光と生命を象徴する金色の光球――太陽を模したマスコットに「正霊素」と記されている。

 もうひとつは闇と死を象徴する紫色の渦――月を模したマスコットに「負霊素」と記されている。


「正霊素は霊素を消費することで創造や成長の力を与えるもの~。植物が花を咲かせたり、動物が繁殖したり……そういう営みを支えるのです。」


「負霊素は、老いたものや死んだもの、壊れたものを回収し、霊素へと分解し直して循環へ還す役割を持っているのです。」


 童話を語るように優しい調子で説明していた彼女は、次の言葉を口にしたときだけ、ほんのり悲しみを滲ませた。


「だからね、正霊素は太陽、負霊素は月――どちらも大切なんです。霊素に善悪はありません。子どもたちの感情と同じで、自然の一部なんですから。負の感情がすべて悪だというわけではなく、すべての事象に善し悪しがあるのです。」


 ……その言葉は、まるでこの世界でかつて何かがあったことを暗示しているようだった。負霊素――つまりアンデッドが、かつて魔物扱いされた……そんな歴史が?俺が疑問を抱いていると、ルリエ先生は続ける。


「だからこそ、先生からもう一つだけお願いがあります。みんな、アンデッドの子どもたちと仲良くしてください。さっき通ってきた(迷宮回廊)も、正霊素の子と負霊素の子が協力し合わなければ突破できませんでしたよね。――それを通して理解してほしいのです。誰もが大切な命であり、ただ違うエネルギーを学んでいるだけなのだと。」


 声はいつものように優しく穏やか。なのに、その表情は悲しみに満ちていて……正直、見てるこっちの胸が締め付けられた。どうして、そんな絶望した顔ができるんだよ。


「せ、先生……それって、まさか瑛太さんのことを……?」美月が目を見開いて、俺を見つめてきた。


「だろうな。……アンデッドなんて、他にいないし。」俺は自分の手を持ち上げ、死人みたいに白い肌を見下ろして、苦笑するしかなかった。


 ルリエ先生は明るい声で授業を続ける。


「中には、アンデッドの子たちの外見を怖がったり、暴力的だと誤解する子もいます。でも、それは負霊素に対する思い込みなんですよ~。本当に大事なのは、心が優しいかどうか、違いを受け入れられるかどうかです。だって正霊素の人だって、暴力的な子はいるんですから~」


 声色は前向きそのものなのに、その表情は悲しみを隠しきれていなかった。俺たち全員が、それに気づいていた。


「……ルリエ先生。さっき言った“アンデッドを嫌う子がいる”っていうのは、この学院での話? それとも一般的な常識のこと?」


 凛が眉をひそめて問いかける。もっと正確な意味を確かめたいんだろう。


「そうですね……。過去には人間の子どもたちが、不死族や魔族の友達と遊びたがらないことが多々ありました。そして、その気持ちを卒業まで引きずってしまうと、社会に出ても同じ感情を持ち込み、さらなる対立を生むことになります。それはとても良くないことなのです。」


 ルリエ先生は少し困ったような声でそう答えた。その時だった。


 梓がふいに自分の尻尾をぴんっと掲げた。彼女は本当にあの仕草が好きだよな。


 一見すると真面目そうな顔――でも、俺には分かる。わざとらしくイタズラっぽい表情を浮かべて、ルリエ先生に向かって言い放った。


「せんせ~、でもあたし、アンデッドなんて嫌いだよ~。瑛太なんて見た目も怖いし、死体みたいな臭いするし、もしかして人を食べちゃうかもしれないじゃん~」


 子供っぽい声色で、わざとらしくそう言われた瞬間――胸がちくりと痛んだ。今までなら気にも留めなかったはずなのに、どういうわけか……。機能していないはずの涙腺がじんわり熱を帯びて、今にも涙が零れそうになった。


 ……やべぇ。梓の冗談だって分かってるのに、妙に堪える。

 凛も美月も、同時に驚いたように目を見開き、揃って梓を睨みつけた。

 その顔は「冗談でもそんなこと言っちゃダメだろ!」と無言で告げている。


「安心してよ、瑛太。あたし、ちょっと試してみたかっただけ。……彼女がどう【反応】するか。だってさ、本当にAIなのかどうか、まだ分かんないじゃん?」梓は俺の耳元に顔を寄せ、小声で囁いた。


 ――そういうことか。


 そして、ルリエ先生は期待通りに反応を返してきた。泣く子をあやすような、柔らかい笑みを浮かべて。さっきまでの悲しげな雰囲気なんて跡形もなく消え失せていた。


「ん~、梓ちゃん。自分の気持ちをちゃんと口にできるのはとても素晴らしいことですよ~。きっと昔のお話や絵本の影響で、アンデッドを怖い存在だと思い込んでいるのかもしれませんね?」


 彼女はすっと近づき、指で“OK”のマークを作ってみせる。


「でもね、アンデッドも梓ちゃんと同じ命。違うのは“どの霊素に適応しているか”っていう部分だけなんです。霊素のバランスが崩れたら、この世界自体がおかしくなってしまいます。だからね、瑛太君と過ごしながら、アンデッドをもっと知っていってほしいなぁ。いいですか?」


 梓はいたずらっぽい笑みを引っ込め、真剣な顔でその言葉を受け止めていた。そして、ルリエ先生は続ける。俺を庇うような調子で――だが、その中に気になる単語があった。


「……“バランスが崩れる”?」


 俺は思わず口を開いた。


「先生、もし霊素のバランスが取れなくなったらどうなるんだ?霊素って、そもそも生き物が放ってるエネルギーなんだろ?それがどうして世界全体に関わるんだ?」


 ルリエ先生は楽しげに、わざとおどけたように笑って答える。


「瑛太君、好奇心旺盛ですね~!とっても良い質問です。実はですね……もう少し正確に言うと、アンデッドが放っているのは大地から吸収した“無属性の霊素”を、自分の魂の奥で“負霊素”に変換したものなのです。もし世界に正霊素ばかりが満ちて、負霊素が足りなくなったら――世界は自分で均衡を取り戻そうと“行動”を起こすんです。」


「その“行動”が、混乱を招くってことか?」


「その通りですよ、瑛太君。もし正属性の生命体ばかりが負の生命体を拒絶すれば、多くの弊害が出てきます。だからこの星は、自ら霊素の均衡を取り戻すために強制的な手段を選ぶんです。その一つが――《負化大地》なんです」


 そう言ったルリエ先生は、ぞっとするような笑みを浮かべた。俺たちは息を呑み、背筋に冷たいものが走る。


「《負化大地》……それがどういうものなのか。これからみんなにお話しますね~。しっかり聞いてくださいよ~」


 まるで子供向けの授業のはずなのに、その口ぶりは妙に怪しくて、耳を引き寄せずにはいられない。俺たちは思わず前のめりになって、彼女の言葉に集中していた。

皆さま、こんにちは。


最近は連続して多くの章を更新してまいりましたが、どうか楽しんでいただけておりますと幸いです。


近頃は仕事が忙しい関係で、もし土日のお昼に更新を行った場合、その日の夜九時に定刻どおり更新できない可能性がございます。ですが、土日にはなるべく二度更新できるよう努力してまいります。


物語に関しましては、皆さまもお気づきかと思いますが、これからの展開は澪の視点から直接体験していただく形となります。やはり古代の物語ばかりでは、あの迫り来る脅威を実感しづらいと思いますので……。


どうぞご期待いただけますと幸いです。評価やブックマークに加えていただけましたら、大きな励みになります。

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