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第127話 :「ルリエ先生がAIかどうか、授業で観察してみないと」

「ねえねえ子どもたち、ここまで聞けばわかるでしょ?(魔力)は確かに魔法を使うためのものだけど、それは一部にすぎないの。魔力ってのは生体から放たれるエネルギーで、魔法やスキルってのはその魔力を無理やり使って何かを起こしてるだけなんだよ。魔力を自分のものにできれば、咒文も詠唱も魔法陣も要らない――想像したことをそのまま形にできるんだから」


 ルリエ先生が指をパチンと鳴らすと、頭上に(魔力)という文字がふわりと浮かんだ。


「なるほど。つまり熟練度が十分なら、詠唱や魔法陣を使わずに魔法を発動できるってことか。じゃあ(精神力)ってのはどういう位置づけなんだ?」


 魔力の話を聞いて腑に落ちた俺は、続けて精神力について訊ねた。


「(精神力)についてはね――それは(世界システム)が《霊素》の存在を隠すために、システム内部で使っている用語にすぎないのよ。瑛太くんが『精神力』という単語を知っていたってことは、二つの意味を示しているの。ひとつは、瑛太くんが霊素を扱えるってこと。もうひとつは、瑛太くんが鑑定系のスキルを持っているってことね」


 ルリエ先生の口からそんな真実がさらりと出てきて、俺は少し驚いた。スキルの有無が一言でバレるなんて……。


 俺がまだそのことを消化していると、ルリエ先生は授業を続けた。頭上に(精神力)が浮かぶが、その上に大きなバツ印が付けられて、さらに大きく「霊素(レイソ)」の文字が現れる。


 でもルリエ先生! なぜシステムがそんなに重要なことを隠すのですか? 世界システムって女神様が作ったのではありませんか? 女神様が私たちを騙すなんて、考えられません!


 美月が感情的に問いかける。俺も同じく疑問だった。女神が世界を欺くなんて、俺は信じたくない――むしろルナリア女神はそんなことをするタイプじゃないはずだ。


 ルリエ先生は柔らかく笑って、でも表情がほんの少し曇った。声のトーンも少し変わる。


「それはね、過去にいろいろなことがあったの。だからシステムの内部情報のいくつかは隠蔽されたのよ。女神さまがそうしたのは、騙すためじゃなくて世界を守るための取捨選択なんだ。みんなに『精神力』って概念を信じさせる方が、世界の安定に都合が良かったのよ」


 その説明を聞いて、ルリエ先生の口調がいつもの朗らかさからちょっと重く、そして切なげに変わったのがわかった。ホログラムの顔がふと困り顔になる――そんな不思議な違和感が胸に残った。


「もし隠さなきゃいけないことなら、どうして今わざわざ僕たちに教えてるんだい?矛盾してるじゃないか?」凛がそう問いかける。ほんとにコイツはこういう直球な質問が好きだよな。


 けど、ルリエ先生は一瞬で表情を切り替え、またさっきみたいにテンション高めの教師モードに戻った。


「それは当然のことですよ! 私の仕事は、生徒のみんなを正しく教育することですからね! 全員が自分の霊素をうまく操り、社会に害を与えない立派な学生になるために――だからこそ皆さんはここにいるんでしょう?」


 そう言って、にこっと笑顔を作ると、彼女は二つのマスコットをふわりと宙に浮かせた。


「(正霊素)――そして(負霊素)。これこそが全ての根源です。きちんと学ばないと世界を脅かしてしまいますよ! だから心を込めて学びなさい!それが、責任ある大人に成長する唯一の道なんです!」


 俺たち四人はしばらく黙り込んだ。そのとき、横の座布団でゴロゴロしてた梓がのそのそ歩いてきて、俺の肩にあごを乗せながら耳打ちしてきた。


「ねぇ瑛太、なんか感じなかった? このAI、ちょっと変じゃない?」


「梓の言ってるのは……ルリエ先生がたまに見せる人間っぽい部分と、今みたいに作られたAIっぽいやり取りのギャップのことか?」


「やっぱりそうなんだ。瑛太が言葉にしてくれたから、あたしもやっとその違和感がわかったよ。」


「理由はまだわからないけど……俺たち、ちゃんと注目しておいた方がいいな。あの悲しそうに見える表情、あれがきっと人間性の部分だろ。」


 俺がそうまとめた瞬間、ルリエ先生がツカツカと近寄ってきて、頬をぷくっと膨らませながら、ちょっと拗ねたみたいに言った。


「もう、子供たち! おしゃべりが好きなのはわかりますけど、今は授業中です!そんなことしてはダメですよ! はい、自分の席に戻りなさい、梓ちゃん!」


 そう言うや否や、ルリエ先生が手をひらりと振ると、梓の体がふわっと浮かび上がって、そのまま席へと戻されてしまった。


「ごめんなさーい先生!でもあたし、本当に我慢できなくて……瑛太とおしゃべりしたかったんだもん!」


 梓はわざと子供っぽく装ってそう言った。きっと、このAIに対しては子供っぽく振る舞うのが一番だと思ってるんだろう。


「ふふ、素直に謝れる梓ちゃんは偉いですねぇ~。でも今は授業に集中ですよ~。休み時間になったら思いっきりおしゃべりしていいですからね! はい、それじゃあ基本を理解したところで、正式に授業を始めましょう!」


 ルリエ先生は一見するとすごく優しい先生なんだけど……ところどころで明らかに変わる部分がある。いったい何が彼女を揺さぶっているんだろう? 本当にただの教育用AIなのか?


 ……俺の勘が告げてる。ここはただの授業用ステージなんかじゃない。ルリエ先生の裏には、絶対何か秘密がある。


 だから今は合わせてやる。――その違和感を突き止めるためにな。

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