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第124話 :「《勇者編》恋バナをしようとしたら、なぜか藤原の話で盛り上がる」

「では……真白さんが憧れていらした新田さんのお話でもいたしましょうか? どうですか? 最後には王国であんなことになってしまいましたけれど、私たちはまた王国へ戻ることだってできますし……この聖国での見聞を終えたあと、少し寄り道をして会いに行くこともできますよ?」


 わざととぼけたように、そんなことを聞いてみました。


 すると真白さんは、あからさまに大きなため息をつきながら目をぐるりと回しました。……どうやら気持ちは私と同じようですね。


「澪、あいつの話はもうやめよ? 確かに顔はすっごくかっこよかったし、バスケもめちゃくちゃ上手かったからちょっと特別に見えただけ。でも今の私は、別の意味であいつを特別視してるんだよ。悪い意味でね」


「ふふ……そうですよね。あのとき王国に行かなければ、きっと彼の本性なんて分からなかったでしょう。真白さんが最後まで告白なさらなくて、本当に良かったです~」


 からかうようにそう言うと、真白さんは少し苛立った様子で返しました。


「澪、だから本当に好きだったわけじゃないってば。ただちょっと気になってただけなの。……でもさ、女の子が危険な目に遭ってるのに、しかも知り合いなのに、平気で突っ立って見てるようなやつを好きになんて絶対無理だよ。それに澪は、あのとき全身傷だらけになるまで必死で戦ってくれたのに、あいつは横でヘラヘラ笑ってただけ。……ほんっと最低のやつ」


 真白さんが急に声を落として、吐き捨てるようにそう言った瞬間、胸がちくりとしました。普段は元気いっぱいの彼女がこんな風に低く話すのは、気分がよくない証拠です。


「ハハハ……ごめんね、ごめんね。真白さんがああいう人を嫌いだって分かっていましたのに……つい冗談を言ってしまって。本当にすみません。そうですよね、高慢で人の気持ちを軽んじるような人なんて、絶対に嫌ですよね」


 素直に頭を下げると、真白さんの少し膨れていた頬もようやく落ち着きを取り戻しました。


「別に澪に怒ってるわけじゃないから安心して。……ただ、あいつを思い出しただけで腹立つんだよね。あのへらへらした顔とか、勝手に馴れ馴れしく名前呼んでくるところとかさ。あいつ、断ってもないのに女の子を下の名前で呼ぶんだよ。ほんっとキモい!」


「……あ、それは分かります。それ、私もありました。ほとんどお話ししたこともないのに、急に“澪”なんて呼んできて。私は一度も許した覚えがありませんし、正直、どう返せばいいのか困ってしまいました」


 ふたりで顔を見合わせて、小さく笑い合いました。やっぱり共通認識なのですね。……新田さんが見た目ほどの人気者でいられるのは、顔立ちのおかげだけかもしれません。


「本音を言えばさ、藤原の方がずっとマシだと思うんだよね。藤原は冷たそうに見えて、実は真面目に自分の意見を口にするタイプだし。振り返ってみると、新田より藤原の方が私、よく話してたかも。藤原って意外と女の子の話題にも付き合ってくれるんだよね」


「ふふ、そうですね。藤原さんはああ見えて、とても空気を読んでいらっしゃる方ですし、人との距離感も分かっている方だと思います。……そういえば、新田さんとよく口論になっていらしたでしょう? よく見ていると、毎回のきっかけは、新田さんが凛さんを下の名前で呼ぶからなんですよ」


 私が観察していたことを口にすると、真白さんは「やっぱりね!」とでも言いたげに大きくうなずきました。


「そうだよね。凛は男の子と接するのが本当に苦手だから……。思い返すと、新田は少し無神経だったと思う。凛があんなに困ってるのに、しつこく近づこうとするなんてさ。藤原があいつの注意を逸らそうとしてたから、二人はよく口論してたんだね。」


 真白さんがしみじみとそう言いました。


「ええ、たぶんそうだと思います。だからこそ、美月さんや凛さんは藤原さんのそばにいると安心できるのでしょう。藤原さんは、きちんと二人を見ていらっしゃる方ですから……。って、あれ?どうして私たち、恋バナのはずがいつの間にか藤原さんのお話になっているのでしょうか?」


 せっかく「恋愛の話をしましょう」と言い出したのに、気づけば藤原さんの話ばかりです。


「はははっ。だってさ、よく考えたら、私たちって親しくしてる男の子なんていないでしょ?だから恋愛話なんて盛り上がるはずないんだよ。……で、一番近しい男の子って言えば、藤原じゃない?」


 真白さんの言葉に、私はしばらく考え込みました。……たしかにそうかもしれません。王国でのあの騒動のときも、ほとんどの男子は私たちを助けようとはしませんでしたから。


 改めて振り返ると、私たちのクラスは男子と女子の間に深い溝がありました。男子は男子で固まり、女子は女子で固まる。男女が一緒に行動するなんて、ほとんどありませんでした。


 例外があるとすれば……やっぱり藤原さんと美月さんたちくらいでしょうか。私が考え込んでいると、真白さんは話を続けました。


「……なんていうかね、藤原の話を出したのは、ちょっと懐かしくなったからかも。最近、眠ってるときにたまに夢に出てくるんだよ、藤原とか美月たちが。……あの人たち、この異世界にはいないのに、どうして夢に出てくるんだろうね」


「えっ、真白さんも……ですか? 実は私もなんです。最近よく夢に藤原さんが出てきて……。でも、なんて言えばいいか……夢の中の藤原さんって、人間じゃないような……」


 うまく言葉にできずにいると、真白さんが即座に口を挟みました。


「骸骨、でしょ? しかも最近は……ゾンビみたいになってる」


「えっ!? 真白さん、どうして分かるんですか!?それに……夢の中では藤原さんは美月さんたちと一緒に迷宮を冒険していませんでしたか? 罠だらけの場所で、いろんな魔物と戦ったり……でも、なんて言うか、美月さんは、その」


「「美月さんが猫になってた!」」


 ふたり同時に口にしてしまいました。顔を見合わせた瞬間、胸の奥がぞわっとしました。まるで不思議な糸でつながれているみたいに、私たちの夢が重なっていたのです。


「「凛さんはトカゲに! 梓さんはキツネに!!」」


 次の瞬間、声を揃えてしまい、今度こそ本気で驚きました。どうしてこんなことが……。


「藤原さん……美月さんたちと、とても仲良くしているように見えましたよね?」


「うん!でもさ、美月と梓は、迷宮の中でも藤原をめぐってケンカばっかり!」


 私たちは同時に悟りました。これは、ただの夢じゃない。……きっと、何か意味がある。


「「これって……一体どういうことなんですかっ!!!」」


 声が重なり、篝火に弾けて消えていきました。

 どうして私たちは、異世界に来てまで――家族よりも先に藤原さんの夢ばかり見てしまうのでしょう。

 まるで、運命にからかわれているみたいです。

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