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第114話 :「まさかの強敵は、ゴブリンでした。この世界、舐めてました」

 梓の風魔法は止まらなかった。竜巻のように渦巻く風が、結界めがけて十秒にも渡る連続攻撃を続け――ついに結界を打ち破った。


 結界が破れると、護衛を務めていたゴブリンたちは狼狽し、だが白いローブのゴブリン(どうやらボスらしい)は冷静そのものの顔で俺たちを眺めている。


 《鑑定完了。魔導師ホブゴブリン。Bランク魔物。人族の児童程度の知性を有し、膨大な魔力と魔力特化のスキルを保持する個体。召喚術、元素魔法、結界魔法の行使が可能。》


 他のホブゴブリンは詳細鑑定が追いつかなかったから、そいつらは普通のホブゴブリンってことだろう。


 ボスは余裕綽々に部下を指揮し、十体のホブゴブリンが俺たちを包囲し始めた。ボスが一振りすると、複数の魔法陣が現れ、その中からさらにホブゴブリンが呼び出される。


 しかし、今回の召喚で現れた敵は、一筋縄ではいかない相手だった。来たのは剣士、騎士、弓手、格闘家――職業バリエーションに富んだ連中だ。どうやらここは本気の殲滅戦になりそうだ。


「……奴ら、容赦しねぇつもりだな。皆、制限なんか気にせず全力でいくぞ!」


 俺は躊躇なく(従者召喚)を発動した。進化のせいか、このスキルの運用法が増えている。今は二通りの使い方があるんだ。


 一つ目は魔力を消費しない代わりに、召喚獣は十分しか存在できない方式。二つ目は魔力を使って召喚する方式で、もしその魔物が死ななければ再召喚できる。


 ここでは即戦力が必要だから、俺は一つ目を選んだ――魔力を消費せずに呼び出す方法だ。出てきたのは、あの《傲慢の悪魔》だった。


 あの悪魔の魔石は俺が食ってないのに、なぜかリストに入ってるのは、あの《夢幻の呪石》が何かしら関係してるからだろうな。今回は二番目の方式じゃなく、一時召喚で出して戦わせる。


「悪魔、重力領域を展開して、奴らにデバフをかけろ!」

「ぐあああああ!!」


 以前、俺たちが受けた“重力増加”を逆手に取って、今回は敵にかける側にした。範囲でかけられるから狙いを定める必要もなく、近づいてきたホブゴブリンの動きが一気に鈍くなった。


 その“鈍さ”が奴らの最大の綻びだ。


「凛、遠慮すんな。手加減不要、叩き潰せ!(セイクレッドエンチャント)」


 俺は凛に指示を出し、彼女の刀に聖の属性を付与した。凛は聖剣術を扱うから、聖属性の加護があれば心の準備が整わなくても比較的容易に技を出せる。


「ありがとう、瑛太君。僕の仲間を傷つけさせはしない!(聖の双連撃)」と凛は低く叫び、連撃を放つ。


 だが、狙われた護衛のホブゴブリンが防ぎ切った。凛の得意な居合は、奇襲や一撃必殺を狙う際にこそ真価を発揮する。


 俺たちはDランクの魔物、Cランクの敵と真正面でやり合えば不利なことも多い。だが、ここには俺の召喚獣がいる――それがあれば凛も一体くらいなら押し切れる。


 美月と梓は(ツインフュージョン)を準備している。二人の魔力を掛け合わせる合体魔法だ。俺がやるべきことは一つ。


「悪魔、動けないやつらを全部、美月の前に集めろ!」


 そう、敵の召喚獣やたまたま美月の前にいる四体の護衛を一箇所にまとめて、まとめて殲滅する作戦だ。あのボス――魔法に精通してる相手が、俺たちに簡単に好き勝手させてくれるはずがねぇ。


 案の定、そいつは片手を高く掲げ、その掌にいくつもの火球を生み出した。そして容赦なく、美月たちめがけて放ってくる。


 ……だが、そのために俺はここに立ってるんだ!


「梓、盾を寄越せ!」


 梓は詠唱しながら(投影)のスキルを使える。今回は、俺に大盾を投影してもらうしかねぇ。受け取った瞬間、その大盾を振りかざし、美月たちに迫る魔法を次々と叩き落とした。


「瑛太さん……っ! 助かりました!」


 美月の声が、焦りと安堵を混ぜて響く。だが、ボスは自分の魔法を防がれて、露骨に顔を歪めた。次の瞬間、そいつの手に現れたのは一本の杖――。


 捻じれた古木で作られ、先端には巨大な深紅の宝石が埋め込まれている。まるで世界を燃やし尽くすような、古代から受け継がれる純粋な魔力がそこに宿っていた。


 その杖の先が俺を指した瞬間、空間に数百の魔法陣が浮かび上がる。火球、水球、風球、石塊――。


「数で押し切れるか試すってか……。上等だ!」


 俺は叫び、神聖魔法を展開する。(聖なる結界)


 精神力の消耗を抑えるために、美月と梓の周囲だけに結界を張った。前後は無防備……つまり、俺が壁になるしかねぇ。


 四方八方から襲いかかる魔法が、嵐のように盾へと叩きつけられる。衝撃が腕を通して全身に響く。押し返されながらも、俺は必死で踏ん張り、美月たちの前に立ちはだかる。


「っ……! まだ、倒れるわけにはいかねぇ……!」


 勝つために。守るために。絶対に負けるわけにはいかない!見た目は派手だが、一つひとつは初級魔法ばかり。威力は大したことねぇ……けど、数があまりにも多すぎる! 完全に防御に徹するしかなかった。


 それでもなんとか凌ぎ切った瞬間――ボスの笑みがひきつり、次に展開したのは中級魔法。空中に次々と浮かび上がる無数のスピア。


「っ……ファイアースピアかよ……!貫通力が桁違いなんだよな、あれ……」


 数百本の槍が俺を狙い定める。美月と梓の詠唱が完成するまでには、もう少し時間がかかる。


「クソッ、どうする……! この状況……!」


 俺の手のひらに汗が滲み、背筋に冷たいものが走った。

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