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第110話 :「信仰の神を教えたのに、「もうダメだ」と皆に言われる。なんでだよ!」

 みんなが目を覚ましたあと、俺は興奮気味に自分の発見を伝えた。それから一行は、指し示された道を進んでいく。手掛かりを掴んだおかげで、全員の空気が一気に明るくなった。


 道中、自然と会話も弾みはじめる。


「そういえば、手掛かりが見つかって本当に良かったですね。瑛太さんがあの日記を読んでくださったおかげです」


 美月は前を歩きながら嬉しそうに微笑み、尻尾を高く掲げて小さく揺らしている。隠しきれないほどの興奮が背中から伝わってきた。


「そうだな、やっぱり瑛太君は頼りになるよね」


 凛もあからさまに俺への信頼を言葉にした。……昔の凛じゃ、絶対にこんなセリフは出てこなかったはずだ。他人――特に男に依存してるなんて認めるようなやつじゃなかったからな。


「進展があるのは確かにありがたいけどさ、瑛太の神聖魔法って万能すぎない? 攻撃、防御、支援、ぜんぶ出来ちゃうし、挙げ句には迷宮のアイテムに隠されたエネルギーまで開放できるなんてさ! どうやったらそんな力を手に入れられるわけ? あたしも学んでみたいよ、そしたらもっと役に立てるのに!」


 梓は片頬をぷくっと膨らませて、羨ましそうに言う。


「でも、確か神聖魔法って信仰と結びついた力でしたよね? 瑛太さんが転生前から女神さまと面識があるわけもないですし……もしかして、前から何か信仰を持っていたんですか?」


 美月がそんなことを口にしてきた。……やばい、突かれたくないところに気づかれた!


「ふむ……女神のメッセージでも言っていたね。能力は“元々持っている特質”と“この世界への適応”から成り立つって。瑛太君の場合……“信仰”が元からあった可能性は高いんじゃないかな」凛が冷静に本質を突いてきた。まったく、こいつの洞察力は容赦がない。


 俺は言葉を詰まらせて、少し気まずくなる。


「……えーっと、その……信仰のこと、か。まあ……あったっちゃ、あったかな」


 しぶしぶ認めると、三人の視線が一斉に俺へ突き刺さった。


「ええっ?! 以前から信仰をお持ちだったのですか?! 神社ですか? それとも、教会ですか? まさか、別の宗教なのですか?!」


 美月が急に元気を取り戻し、日本にいた頃と同じ調子で矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。……こいつ、俺のことを知りたいっていう気持ちがまる見えだな。


「いや……そういうのじゃなくてさ……なんか、言いにくいんだよな」


 俺は口ごもりながら曖昧に返した。


「言っちゃいなよ~。僕たち、もう黒歴史の大放出を一緒にやった仲間でしょ? 恥ずかしがる必要なんかないって。ちなみに僕が(聖剣術)を使えるのは、母方の実家が神社だったからだと思うんだ。小さい頃から自然と信仰が身についてたんだろうね。だから瑛太君も、隠さずに教えなよ」


 凛がニヤリと笑いながら俺の脇腹を肘でつつく。


「そうだよ。それに、もう隠しごとはしないって約束したよね?……このことって、そんなに秘密にしなきゃいけないことなの?本当に、あたしたちに言えないの?」


 梓が不安そうに言うもんだから、余計に俺が悪者みたいに感じてしまう。大きく息を吸って、溜め息を吐いた。


「……わかったよ。じゃあ言うけど、絶対笑うなよ?」


 三人は同時にコクリと頷いた。こういうときの連携だけはやたら完璧なんだよな。


「信仰って言えば……俺、けっこう真剣に信じてたんだ。……二次元の女神――ガチャの神様を」


「……は?」


 三人同時に間の抜けた声を上げた。俺は軽く咳払いしてから切り出した。


「……俺、昔はガチャのソシャゲ狂いだったんだよ。あの、課金しまくって、時間も死ぬほど吸われるタイプな。けど俺は金入れられなかったからさ、その代わりに毎日祈ってた。決まった時間にちゃんと手を合わせて、“ガチャの神様”に祈願して、限定キャラを引き当てるようにってな」


「……」


「しかもな、これがマジで効果あったんだって! 信心深く祈れば祈るほど、当選確率が上がるんだ。ホントに効いたんだよ!」


 俺は目をカッと見開いて力説した。


「そ、そうなんですか……」


 美月は困ったように微笑み、俺に合わせてくれた。


「いやホントだって! 俺、ちゃんと統計取ったんだぞ! 確率五割は上がってた! しまいにはさ、“キャラはもう俺のものだけど、ただ現実の時間が追いついてないだけ”って錯覚するくらいでさ。ガチャを回すのは“正式に家に来てもらう儀式”みたいなもんだったんだ。だから大体五十連くらい回せば、ほぼ確実に当たったんだよ!!」


 三人は、凍りついたみたいに黙り込む……でも、誰も反応しないその沈黙が逆に俺のテンションをさらに加速させた。


「それにだな! 普段から善い行いを積み重ねて“徳”を貯めとけば、そのぶんご利益も大きくなるんだ! だからいっぱい良いことすりゃガチャは本当に当たりやすくなる!! 俺の推しキャラは『来い!』って念じれば必ず来てくれた! そのせいで俺、何十個もアカウント転売したんだぞ!? マジで、ガチャ万歳だ!!」


 俺の熱弁が終わった瞬間、三人同時に首を振った。……完全に“もう救えねぇ”って顔だ。


「……つまり、“信仰”っていうのは……まさか」美月がおそるおそる確認するように問いかける。


「ああ、俺は“ガチャ神教”の信者だ。けどこの世界に来てソシャゲがなくなったからな。信仰の対象を女神ルナリア様に変えただけだ。そもそも地球にいた頃だって、具体的な神様を信じてたわけじゃねぇ。“俺は必ず無料で推し美少女を引き当てる”っていう信念を信じてただけなんだ」


 言いながら、俺はちょっと恥ずかしくなって頭をかき、それでもどこか晴れやかな気分になっていた。


「……で、今は?」


 凛が不思議そうに首をかしげた。


「今? 今は俺、ちゃんと引き当てたじゃん。お前ら三人だよ。キャラじゃねぇけど、どんな限定よりも宝物な仲間だ」


「……真面目にやれよ、このバカ」梓がとうとう額に手を当て、呆れたように吐き捨てる。


「俺は大マジメだって! 神聖魔法が俺にこんなに馴染んでるのも、絶対理由があるんだ。もしかしたら、女神様だけじゃなく世界そのものが俺の“純粋な信仰”を認めてるのかもしれないだろ!」必死に抗議する俺。


「信仰って言うより……ただのアホでしょ」梓が即座にツッコミを入れ、呆れたように首を振った。


「まあ……少なくとも君が信心深いのは認めるよ」凛は溜息をつきつつも、口元に笑みを浮かべる。


「本当に……困った人ですね」美月が小さくつぶやいたが、その表情はどこか優しかった。


 誰一人、俺を責めることはなかった。


 むしろ全員が、笑い合うように少しだけ肩の力を抜いていた。

 ――そうか、こんな訳のわからない信仰でも。

 俺たちが笑って前に進めるなら、それだって十分な支えなんだ。


 四人は互いに目を合わせ、うなずき合った。

 そして俺たちは、正しい道へ導く(聖光)の中へと足を踏み入れていった。


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