第107話 :「二つの力が交わる時、種族を超えた絆が迷宮の第三層を解き明かす」
証拠もねぇのに迷宮の仕組みをあれこれ推測しても、みんなを不安にさせるだけだ。だから口には出さなかった。……だってよ、さっき聖剣で見せられたあの記憶と合わせると、この場所に封印されてるのはどう考えてもロクなモンじゃねぇ。
そういや聖剣、いまだに俺の体の中で眠ったまんまだ。いくら呼びかけても、返事すらしてくれねぇ。とりあえず、まずは倒したゴーレムから素材回収だな。見た感じ、こいつの体は高級素材ばっかり使われてる。
この灰黒色の金属……一体なんなんだ?
《解析成功:此黒曜石と秘銀の合金。魔力伝導性と硬度を兼ね備えた希少素材。(黒曜銀)》
なるほどな。だからあれだけ硬かったのか。そりゃ俺たち全員の火力を叩き込まないと倒せねぇわけだ。レア素材なら迷わずインベントリに入れとく。RPGやってる時だって、俺は必要そうな素材は先に買い込む派だったしな。後から欲しくなって探すのはめんどくせぇ。
俺がゴーレムの背中から管を引っこ抜いて整理していると、美月たちはもう奴が出てきた通路を調べに行っていた。そしてしばらくしてから、呼びに来た。
「瑛太さん、ちょっと来てみてください。中には部屋が一つしかなくて、なんだか奇妙な試練の間のようです。見てもらえますか?」
「おう、丁度いい。ゴーレムの片付けはもう終わったし、戦利品も確保済みだ。……で、試練の間ってのはどういう意味だ? さっきのゴーレムのことじゃねぇのか?」
美月に案内されて中に入ると、そこは確かに特別な部屋だった。巨大な平台があって、さっきの十メートル級のゴーレムを収めるための場所らしい。周囲には浅金色のラインがいくつも走り、それが巨大な魔法陣を形作っていた。
《森羅万象》で解析を試みる。
《解析開始……失敗。内容は暗号化済み。追加情報が必要です。》
やっぱりな。ここが人工的に造られてるって雰囲気は前から感じてたが……ついに情報に暗号までかけてやがる。
「瑛太君、こっち見て。ほら、この魔石から尋常じゃない力が流れてる。魔力だけじゃなく……もっと別の何かも混じってる感じがする。引っこ抜いて調べたほうがいいと思う?」
凛が指さしたのは、魔法陣の中心に浮かぶ球体の金色の宝石だった。まるで太陽みたいに光を放ち、温かさすら感じさせる。それは周囲のラインにエネルギーを送り込んでいるようだった。
「……いや、凛。もう少し様子を見ようぜ。まずは環境を調べてから判断だ。」
そんな俺の提案で、それぞれ部屋の中を探索することに。すると梓が声を上げた。
「みんな、ちょっと来て。ここの壁に魔力を流すと……字が浮かび上がる!」
言われるまま近づいてみると、確かに壁面に文字が浮かび上がっていた。けど文章は欠けていて、完全な形じゃなかった。
「えーっと……《この魔石を___、先ほどの迷宮___、隠された通路___、___が真に進むべき道へと導くでしょう。》……みたいな感じか?」
「この文、ところどころ空欄だらけだな。……やっぱり謎解きでもしろってことか?」
凛が壁に浮かぶ文字を見つめながら、次の手を考えていた。
「先ほどは、梓が魔力を注いだら、文字が浮かび上がりましたよね?それなら、残りも魔力を流せば出てくるのではないでしょうか。私が先にやってみますね……あれ? 何も起きませんか? え、まさか、外れでしょうか?」
美月は猫みたいに壁をくんくん嗅いでから魔力を注いでみたが、何の変化もなかった。
「いや、美月の第六感は外れないだろ。俺は君を信じている。俺もやってみるか……っと、出たか?」
その瞬間、壁の空白がじわじわと埋まっていった。金色で刻まれていた文が、黒い文字で補完されていき、ついに一文が完成する。
《和やかに協力し合う応募者の皆様、戦闘試験ならびに絆の試験を合格されましたこと、心よりお祝い申し上げます。どうかこの魔石を鍵としてお持ちのうえ、先ほどの迷宮へお戻りになり、隠された通路をお探しください。皆様の絆が、真に進むべき道へと導くでしょう。》
「…応募者、ですか? 私たち、何かに応募した覚えはないのですが。それに、「絆」って、一体どういうことですか? なぜ瑛太さんは成功して、私はだめなのですか!? まさか、瑛太さんと梓の絆のほうが……」
美月の顔がちょっと悪い笑みに変わる。俺と梓で文字が完成したのが気に入らなかったんだろう。
「え、美月? 俺だって基準なんか知らねぇし! とりあえず試してみりゃ分かるだろ。梓、一回止めてくれ。美月に交代してくれないか?」
「いいよ、全然問題ないだよ。だってさ、《あたしと瑛太の絆》は《真の道》に繋がるんだもんね~」
梓は余裕の笑みで交代してくれるが、その強調した言葉に美月がますます苛立っているのがわかる。
そして美月が試すと――同じく成功。
「ほら見ろ、美月。俺たちでもちゃんと発動しただろ? だからもう機嫌直せって。……で、凛。今度は君の番だな。美月と一緒にやってみてくれ」
「もちろんだ。美月とは何年も親友だし、これなら絶対……えっ、は? なんで……!? なんで僕たちで失敗するんだ!」
やっぱりな。今度は美月と凛でも反応なし。
「美月、悪いけど次は一旦下がってくれ。俺と凛で試してみたい。これで成功すれば、もう答えが見えてくる」
「いいですよ。……凛、大丈夫です。私たちの関係は、こんな壁一枚では測れませんから!ねえ、梓、聞きましたか?「私と瑛太さん」の絆も、「正しい道」に導いてくれるのですから!」
美月は凛を慰めつつ、ちゃっかり梓に挑発を飛ばす。ほんと、この二人最近よく火花散らしてんな……。
「じゃ、凛。試してみるか」
「……うん。でも、私と瑛太君の間にそんな……な、なんで!? 今度は成功した!?」
俺は小さく頷く。やっぱり予想通りだった。
「やっぱりな。このテスト、別に絆なんて関係ねぇよ」
「えぇっ!? じゃあ何なのさ!」
「落ち着けって。……多分、基準は(種族)だな」
「種族? でも私たち全員違う種族じゃない?」
「いや、美月。正確に言うと……君たちは(生きてる魔物)。でも俺は(命を失ったアンデッド)。だから違いは(魔力の質)。要は、《正と負》のエネルギーを同時に注いだから文字が出現したんだろ」
「「《正と負》のエネルギー……!?」」
全員が首を傾げ、不思議そうに俺の言葉を繰り返した。