第105話 :「あのゴーレムの攻撃に耐え抜いた理由、それは属性相性が原因だった」
ゴーレムが不気味な機械音を響かせた直後、その両腕が展開し、内部の複雑な機構が唸りを上げて回転する。
瞬きする間に――両手は巨大な振動刃へと変形した。さらに胸部の装甲が開き、露わになった砲口が青白い光を収束し始める。
「……やばい、撃つぞ! 美月、伏せろッ!」
俺は反射的に美月へ飛び込み、その身体を抱き寄せた。次の瞬間、光束が大地を貫き、背後の壁を一瞬で吹き飛ばす。
掠っただけで死を確信させる威力――冷や汗が背を伝った。だがゴーレムの猛攻は止まらない。振動刃を振りかざし、正面から襲い掛かってきた。
凛は鋭い身のこなしで一撃を躱し、続く斬撃を腰の刀で受け止める。
梓は己の姿を幻影に溶かし、音もなく姿を消した。隙を窺うように、気配すら消して後方へ回り込む。
……その間にも、ゴーレムは再び胸部に光を集め、砲口をこちらへ向けていた。
「くそっ……進化して余裕が出たと思ったら、この部屋そのものがゴーレムのために造られてやがる。こんな短時間で次弾を撃てるのかよ!」
俺たちは主砲の正面を避けるように必死で回り込み、攻撃範囲から外れようとする。だが、それが逆にゴーレムの警戒を高めたのかもしれない。
《侵入者確認。通常殲滅モードでは撃退不可と判断。殲滅レベルを上昇――アグレッシブモードへ移行》
重低音と共に、ゴーレム全身に無数の砲口が展開した。肩、脚部、腹部……ありとあらゆる箇所から光線が迸る。赤、緑、青、黄色――四属性のレーザーが網の目のように広がり、逃げ場を一瞬で奪った。
「避けきれるかってんだよ……!」
俺は咄嗟に刀へ聖属性を纏わせ、迫る光束を斬り払う。火花のように散る魔力の残滓が視界を染めた。
「瑛太さん!これはただの魔力じゃありません……魔法と何かが融合しています!あの青いレーザーにうっかり掠っただけなのに、まさか衝撃まで受けたんだ。ただの魔法ダメージの光線だけじゃないみたい。」
俺は必死に分析を叫ぶ。
「色ごとに属性が違う。受けるなら自分が耐性を持つ属性を狙え!それ以外は絶対に正面で受けるな!この光線、物理的な衝撃ダメージもあるから、マジで安易に受けちゃダメだぞ!」
「……なるほど、万能型ってわけか。今までの敵よりずっと厄介だな!」美月は鋭い動きで飛び退きながら、震える声でそれでも冷静に状況を整理する。
「……へぇ。リズムが音楽みたいで、切りやすいな。」凛は淡々と呟き、舞うような剣閃で光束を断ち切る。
「凛! それは事実ですけど、戦闘中に感想を言う余裕なんて……!」
美月が定番のツッコミを返す。その瞬間にも緊張感が途切れない。
一方の梓は完全に姿を消し、ゴーレムのセンサーを欺いたまま背後へと忍び寄っていく。美月は焦りを隠し切れていないが……俺の心境は、むしろ凛に近かった。
確かに目の前の敵は桁違いに強い。だが――もう仲間の心は一つになっている。俺は妙に落ち着いていた。
(これぐらいで……立ち止まるわけにはいかねぇ。俺たちなら絶対に突破できる!)
俺は意識を集中させ、《森羅万象》を発動。脳内で仲間たちへ戦術を伝える。全員が視線で頷き返し、戦闘態勢へ入った。
まず俺は聖神魔法を発動させる。
《セイクレッドバリア》――一度だけダメージを半減させる防御結界が、全身を淡い光で包み込む。
続いて、凛が俺に《守護の盾》を付与。魔法ダメージを二割減少させる結界が重なり、俺の防御力は一段と高まった。
仲間が次々と準備を整える中、俺はゴーレムを睨み据えた。あのレーザーの属性を見極め、弱点を探り当てる――それが俺の役目だ。
「……行くぞ!」
俺は左手に《具現描写》を発動させ、ゲームの中で“絶対防御”を誇った伝説の大盾を顕現させる。この盾は、俺がソウルライク系のゲームをやっていた頃に、一番強く印象に残った盾だ。
ああいうタイプのゲームには、共通点がある。防御ボタンを押した瞬間に――必ず攻撃を防げるっていう仕様だ。だから俺の想像で具現化したこの盾も、絶対に壊されることはないし、貫かれることもない。
……唯一の弱点は、毎秒ごとに俺の魔力を消耗し続けるって点だけだな。これで奴の攻撃を真正面から受け止め、属性を暴き出す!
右手の刀には、俺が思い描くあらゆる属性魔法を順次纏わせていく。火・水・風・土その全てを試し、ゴーレムの弱点を探し当てるために。
ゴーレムとの激戦の最中、俺の脳裏に浮かんでいたのは、この世界に存在する基本四属性のことだった。
火、水、風、土。
それが美月が修得しているすべての属性であり、同時に世界の根幹をなす魔法の基礎。水は火を制し、火は風を焼き払い、風は土を削り、土は水を押さえ込む。これが元素魔法における基本的な相性関係。
そして《森羅万象》による計算では、弱点属性を突いた時、その魔法の威力は通常より五割増しになる。だからこそ、属性相性の把握は何よりも重要なのだ。
――じゃあ、氷や雷は?と疑問に思うかもしれない。答えは単純。あれは基礎四属性から派生する上位属性だ。
水からは氷、風からは雷、火からは熔岩、土からは金属。そうやって進化した上位属性は、しばしば複合的なダメージ効果を持つ。
美月が天性で扱える氷魔法もそうだ。あれは水属性に加え、物理的な打撃属性をも帯びた実戦向きの攻撃手段だった。
普通に考えれば、ゴーレムは土や石、あるいは金属で造られた魔法人形。ならば弱点は風属性――そう思うだろう。
だが、それは間違いだった。なぜなら、こいつの動力源は魔石。梓が教えてくれた情報によれば、魔石は自然界には存在せず、すべて魔物から摘出されたものだという。
つまり、ゴーレムの本当の弱点は、その魔石の元となった魔物の弱点属性に依存しているのだ。自然界のゴーレムなら風に弱いだろう。だが目の前のこいつは、この部屋の主が造り出した特製品。属性は未知数であり、俺のスキルですら看破できなかった。
だからこそ、俺は死ぬ気で防御して、チャンスを待ってたんだ。立て続けに放たれる光線のせいで、あいつに近づくことすらできなかったからな。