表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/76

02 枢聖院グループの暗部

 

 東部医療センターから、マイカーのワゴンを走らせ、四十分ほどで、霊体医療研究センターに到着した。

 この病院に通う人々を、少しでも明るい気持ちにさせたいという狙いなのか、建物には、多くの色を使った、派手な装飾が施されている。そのため、学生の頃、初めて、ここを訪れた時には、医療機関というより、娯楽施設のような印象を受けたものだ。

 

 正面玄関から建物に入り、三階のナースステーションに赴く。

 そこに着くと、一番、近くにいる看護師に、類照は言う。


「すみません。東部センターに勤める、霊体外科医の工藤です。佐久間(さくま)さんを呼んでいただいて、よろしいですか?」


 若い女性看護師は、ああ、という納得顔で、奥に入っていった。

 ほどなくして、堂々たる恰幅(かっぷく)をした女性看護師が出てくる。五十歳前後と(おぼ)しき看護師長の、佐久間(さくま)芹栖(せりす)だ。

 

 類照は、低姿勢で挨拶する。

 

「お忙しいところ、申し訳ございません。今日も、よろしくお願いします」


「沢村先生は、すでに、地下の施術室でお待ちですので――。じゃあ、行きましょうか」


「あ、待ってください。一度、三○四号室のほうに、寄らせていただけます?」


「わかりました」

 

 佐久間芹栖と二人で、廊下を進んでいく。

 

 個室である、三○四号室に入った。

 類照は、すぐさま、ベッドに歩み寄った。

 恋人の室野依織は、すやすやと寝息を立てている。依織の霊体が、この体に帰ってこなくなって、すでに半年以上が過ぎた。もっとも、点滴で栄養を取っているため、生命活動自体は正常に維持されている。

 それが、一番よくわかるのは、髪の毛の伸び具合だった。少年みたいに短かった髪は、今や、肩までのミディアムヘアに変わっていた。

 そのため、顔を見ていると、あの依織ではないような錯覚すら覚える。

 

 が、目が離せなくなるほどの美しさが、紛れもなく自分の恋人であることを物語っていた。

 生身の体同士で、その身を抱きしめたい、唇を重ね合わせたい、という欲求が湧き上がってくる。

 しかし、佐久間芹栖は、席を外すつもりはないようだった。おそらく、いくら交際関係にある男とはいえ、意識のない状態の若い女性に、好き勝手なことはさせられないという思いなのだろう。

 

 三○四号室を出た後、類照と佐久間芹栖は、エレベーターで一階に降りた。

 それから、一階フロアの、誰も来ないくらい奥まったところにある、エレベーターに、ふたたび乗る。

 地下一階に降り、エレベーターのドアが開くと、その外に出た。

 

 仄暗(ほのぐら)くて陰気な空間だ。

 ここは、霊体医療研究センターの、というより、枢聖院グループ全体の、まさしく暗部といえた。

 すぐ目の前には、鉄格子が()まっている。

 また、その向こうにあるパイプ椅子に、四十代の半ばと見られる、男性警備員が座っていた。

 

 その警備員が、おもむろに立ち上がり、鍵を使って鉄格子の扉を開ける。

 彼は、いつも、夢遊病者かと思うくらい、目を細めた顔つきで、類照たちを迎えるのだった。

 おれだって、こんな仕事、辞められるなら、今すぐにでも辞めたい――。

 彼の顔には、はっきりと、そう書いてあった。

 

 類照と佐久間芹栖は、そこを通った。

 それから、少し進んだところに、霊体医療用の施術室がある。

 類照は、その施術室の引き戸を開けた。

 部屋の隅の椅子には、すでに、沢村(さわむら)(ひびき)という麻酔科医が、座って待機していた。

 看護師長の佐久間芹栖とは対照的に、無精(ぶしょう)ひげを生やした貧相な風貌の男だ。年齢は、六十を少し過ぎたあたりだろうか。

 類照は、この男に、いい印象を持っていない。依織の件がなければ、関わり合いになるなど、考えられないタイプだ。

 だが、状況が状況だけに、こちらとしては、あくまでも、腰を低くしている必要がある。


「今日も、よろしくお願いします」


「うい」

 

 沢村響は、低い声で応じる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ