第54章:おだやかで平和だった、彼との残された日々(6)
2019年11月30日、夜。
帰宅後のこと。
・・・茶太郎ちゃんが、いつになく甘えてきた。
いや、ここ最近、ずっとこんな感じだった。
曲がってしまった背骨の影響もあり、
従来のように、まっすぐにやわらかい、柔軟な姿勢をとることのできなくなってしまった彼は・・・
体全体が、半時計まわりに、円を描くような体型になってしまっていて、
それがために、
いつも首の筋肉が凝っていた。
・・・その首の部分だって、
以前は、ぐるぐると、好きな方向に向けることができていたのに、いまや、
狭い範囲内でしか、首を回転させることができなくなってしまったのだった。
・・・そんな状態で半年間も、
茶太郎ちゃんは無言で耐えていたのだ。
それがわかったのは、
秋も深まってきた、ごく最近のこと。
なにげなくぼくが、
彼の首の右側のあたりをさすってやると・・・
実に気持ち良さそうに、体をゆっくりとぼくに摺り寄せてきたのだ。
・・・子猫が飼い主に甘えるようにね。
(茶太郎ちゃん・・・そうだったのか。ごめんね、気づいてあげられなくて・・・。首が凝って凝って仕方なかったんだね、ずっと・・・。)
ぼくが、
11月30日の、この夜、
マッサージして触れた彼の首の部分は・・・
前夜よりも、さらに肉が落ちて、ゲッソリしてしまっていた。
・・・たった一晩のことなのに。
本当に、「骨と皮」のような状態だった。
(茶太郎ちゃん・・・。)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして、この夜。
思いがけない光景を、ぼくは目にすることになった。
以前、怪我した彼を思いやり、大声で泣くぼくを、じっと見つめ、
逆に彼が、ぼくをなぐさめてくれるかのように・・・
「無言のメッセージ」をくれた、あの愛しくも切ない場面をご記憶だろうか・・・?
それがまた、この夜、再現されたのだった。
ぼくが彼の首をマッサージするさなか、
とても意味ありげな、ちょっとさびしそうな目で、
じっとぼくを、
まっすぐ見つめてきたのだ。
ぼくから目を離すこともなく、じいーっと、である。
きっと、茶太郎ちゃんは、このとき・・・
ぼくに、『最後のお別れ』をしていたのだろう。
・・・無言で、しばし、見つめあう二人。
(しげおくん、いままで、本当にありがとう。それに、優しくマッサージしてくれたから、ずいぶんこれで、首のコリも取れたよ。おかげさまで、だいぶ、楽になった。
でも、しげおくん・・・実はね、ぼくは・・・。)




