~ 立ち塞ぐ 由々しき故の 迷い事 乙女の嘆き 誰も聞こえず ~
タタタタタ…
どれほど走ったか分からない。既に知らない場所まで来ているのは判って
た。現在進行形で自分を追いかけているヤンキー達も同じ事を思っているだろうか。
「しつこいわね!」
未だにモヒカンが追いかけてくる。体力的な限界はまだ先だったが、こうも粘着質であれば遅かれ早かれ捕まってしまうだろう。そう思ったからこそ、私は逃げるのを諦めた。
ビルの谷間、夜のネオンさえも届かない空間に身体を滑り込ませる。湿気った匂いが鼻につくも、かまわずに進む。映画でも不良のたまり場としてよく描かれている空間と一体化する心地は、今の自分を表しているようにも感じた。
街の喧騒が薄れていく。モヒカンから離れたと思うにはまだ早い。その思いが身体を突き動かす。はやく離れなければ…何をされるかわかったものじゃない。道に迷ったことさえ同でもいい話になっていた。終電という門限の概念すら消し飛んでいた。
自分は結局何をしているんだろう…
「ごく普通」という言葉が頭に浮かび、そして否定する。自分はそんな人間じゃない、深夜に変装してまで遊びにいく女子がマトモなわけない。ではなぜ今自分はこんなところで、くだらないマネをしているのだろう。簡単だ、自分が「こんな」人間だからだ。だから「ごく普通」ではないんだ…。
「ん?」
開けたところに出る、古いビルに囲まれた空間が広がった。予想以上の広さも相まって驚いたが、むしろ注目したのは目の前の不思議なオブジェクトだ。
「これ…」
疲れたように鎮座する「それ」は、ロボットというには禍々しく、芸術と呼ぶには理解できない雰囲気を与えていた。頭部には獅子のように鬣がついている。肩の甲冑はサムライのようだ。なぜか腕は振袖のような形をしている。そして全体的に傷がつけられていて、先刻まで戦っていたような状態を表していた。
「ロボット…?」
禍々しいとはいえ、それ以外に形容しようがない。全長は2,3mはある。アシガル達の新兵器なのだろうか、でもそんな話は聞いたことが無い。彼らは支配を固めているとはいえ、表向きは保護日本人を守る組織だ、情報はすぐに広められる。暴徒鎮圧にしては大掛かりなものだろう。
こんなものがここにある以上に、これが何なのか気になっていた。そう、今モヒカンに追われていることも忘れていた。謎のオブジェクトに触れようとしたその時だった。
「確保!」
怒声に振り向く、古いビルからロープが垂れ流される。そこからたくさんのアシガルが降りてきた。急ぐようにオブジェクトに集まりだす。やはりこのロボットはアシガルのものだったみたいだ。
「取り押さえろ!」
「え?」
自分に言われたみたいだった。3人のアシガルが私の周囲を囲む。徐に私の腕を両手で縛り上げた。
「痛い!」
「対象確保!」
「よし、喪失体に近づけるな!」
ロボットから引き離される。頭からウィッグが零れ落ちた、誰からみても強引な引き方だろう。強引のままアシガルに連れてかれた。行き先は告げられていない。
状況が飲めずに抵抗をする。誰だってするだろう。でも出来なかった。その度に腕が強引に締め付けられた。