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学園黙示録――High School of The Dead――:(アニメ)

ついにやってきた学園黙示録レビュー。活動報告の時よりちゃんと書いたつもり。

 そもそもこのアニメを見始めたのは、某フェイス氏のブログで見かけたレビューがきっかけであった。そのレビューで『学園黙示録』は散々にこき下ろされており、ここで筆者のクソセンサーが反応、どんなクソ作品か見てみよう、という忙しい中余計な好奇心に突き動かされたのがきっかけだ。

 だから、まずこのレビューには「この作品はクソだ」という認識が視聴者に最初からあった、ということを念頭に置いて欲しい。

 とはいえ、最初から粗探しをしてやろうとか、そこまでは思っていない。というか、むしろ「今世紀最大のクソ作品」というのがどれだけのものか、寛容な心で迎え入れるつもりだった。

 ところが、である。最初から“どれだけクソか”期待していたのに、作画は綺麗でソツがなく、動きも特に普通のアニメだし、キャラクター造形も“テンプレート的だけど萌え作品なら普通だし、これからゾンビ出てきたら何か変化するんだろう”と気長にかまえていたのであるが……

 結論から言ってしまうと、このアニメ、ほとんどゾンビが“活躍”しない。冒頭、ゾンビが学校に侵入してきて、ヒロインに襲いかかるのだが、そこであろうことかヒロインのパンチラをドアップ。ここに『学園黙示録』の全ての欠点といってもいいが要約されている。

 そう、これはゾンビアニメではなく、パンツとおっぱいのアニメだったのだ。この作風なら、敵はゾンビでなくともいい。実験所から恐竜が逃げ出したでもいいし、宇宙から怪獣がやってきたでもいいし、テロリストでもいい。

 どうせパンツとおっぱいしか映さねえんだもん。

 まあ、それでも学校にいる間はそれなりにゾンビと戦ったりして、それなりに見せ場があって面白かった。だがそれも学校にいる間だけ。辛くもスクールバスで学校から脱出すると、もう学校は物語に関係なくなる。ちなみに学校脱出は一話目の最後であり、つまり『学園黙示録』という題名通りなのはこの一話目だけであると言える。そのあと学校に戻る気配もないから、多分学校が出てくることはもうないだろう(筆者はDVD4巻まで視聴、少なくともその段階ではということで)。

 舞台が学校でなくなっても、これから先の展開で思春期の葛藤が描かれ――ることもなく、一体舞台を学園に設定する意味は何だったのか、キャラに制服着せるためだけの設定だったのではないかという疑問を禁じ得ない。

 この作品のコンセプトは萌え+ゾンビだろう。だが残念なことに、萌えがゾンビ作品のいいところを全て打ち消してしまっている。

 ゾンビ作品のいいところとは何なのか。それは人によってそれぞれだろうが、筆者は「誰が生き残るか」を推理するところだと思っている。死ぬだろうな、と思っていた人物が予想通りあっけなく死んだり、死にそうな人物が生き残ったり、あるいはコイツゾンビに喰われてくれないかな~、なんて希望したりする。

 だが、萌え作品にとってキャラクターは命そのものだ。商業的にもキャラクターで成り立っている。流石にゾンビにただでくれてやるわけにもいかず、結局のところ「死なせません!」という空気がありありと伝わってきて、スリルが全く無くなってしまった。ゾンビ作品なのに、そこらじゅうに「死」の象徴たるゾンビがうろついているのに(それもあまり画面に映らないが)、肝心の主人公一行は“可愛いから死なない!”のだ。

 もう一つは先にも述べた、ゾンビのグロテスクな造形や暴力シーンだろうか。バイオハザードではリッカーやタイラント、デッドスペース(純粋なゾンビ作品ではないかもしれないが)ではネクロモーフ、サイレントヒル(ゾンビではないが、グロテスクな造形という点で通じるものがあるため)の三角をはじめとする奇妙なクリーチャーたち。最近では映画『28日後……』やゲームの『レフト4デッド』などに代表される、走るゾンビもある。意外なことに、ただ単に俊敏に走ってくるだけでかなり違った恐怖とスピーディーな展開を味わえる。

 翻って、この『学園黙示録』ではどうだろうか。

 敵はただのゾンビだけ、である。ゲロを吐くやつや、自爆する奴、巨大化したやつなど、いろんなゾンビがいてもいいと思うのだが今のところ敵は一種類だけである。

 普通の、伝統的なゾンビだけ。ゾンビ犬すら出てこない。動物園の動物がゾンビ化して檻を抜けて出たとか、そんなのもない。敵はロメロ的ゾンビだけ。もう何年も前に使い古されたネタだよ……

 さらに今作のゾンビには視力がないというハンデまで負わされている。日本が舞台で重火器が容易に入手できないこと、高校生が生き残れる難易度調整、と考えれば妥当かもしれないが、主人公たちはいきなり重火器を入手してしまう。それも一緒に学校から脱出した保険の先生の友人が特殊部隊の隊員で、しかも保険の先生がその友人の家の鍵を持っていて、しかもその友人の家に違法に重火器が隠してあった、というかなりの無理矢理用意した感。しかもこの特殊部隊の友人が男で、友人というより同棲している、とかいう関係ならまだ鍵を持っていることにもリアリティがあったが、友人も女である。無理に萌えキャラを出そうとして失敗した例だろう。

 もし筆者が『視力がない』という設定を活かすなら、ゾンビ犬を出す。ゾンビ犬は嗅覚で主人公たちを探し出し、さらに吠えてゾンビを集めるとかそんな風にすれば戦闘にもスリルや変化が生じ、戦略性も増すだろう。

 そしてもう一つ大切なゾンビ作品の肝は、『ゾンビvs人間から人間vs人間』への変化だ。これは全てのゾンビ作品に共通しているといってもいい。しかし、筆者が見た範囲では、ストーリーはまだ『ゾンビvs人間』の段階のため、ここには触れずにおく。

 他のストーリー、設定の欠陥としては、某ブログでも指摘されていた「バリケードがスカスカ」というところか。主人公一行が車に乗り込んで逃走、途中バリケードに行く手を阻まれるのだが……そのバリケードがワイヤーを数本張っただけのスカスカなバリケードで、まだガレキの山にしておいたほうが余程マシ。普通に車で突っ込んだら押し通れそう。まあ、百歩譲ってそのワイヤーはカーボンナノチューブ的なすげえ素材でできていて通れなかったとしよう。

 そこをゾンビが襲ってくるんだけど、あれほど緊張感がない闘いは見たことがない。主人公がスナイパーライフルでおっぱい台座にして狙撃するのだ。そして弾丸を追うカメラ目線でもう一人のJKのおっぱいの谷間と股下をすり抜けておっぱいとパンツのドアップ――この演出も千歩譲って認めたとしよう。だがゾンビが大軍で車に迫ってきている中、大した距離でもないのにスナイパーライフルを選んだこと自体が間違いではなかろうか。普通はショットガンかマシンガンあたりを選択するのではないだろうか。それか拳銃か。ただ単におっぱい台座やりたかっただけちゃうんか? ゴア描写とお色気の融合としてはゲームの『ベヨネッタ』を思い浮かべるが、あれほど突き抜けてユーモアの域にまで達しているわけでもない。『ベヨネッタ』ではお色気とゴア表現は互いに互いを引き立てる役割だったが、『学園黙示録』ではただ単に打ち消しあっているだけ。

 さらにもう一つ、特殊部隊がペヨンジュンに酷似したゾンビを撃ち殺すシーンがあったのだが、ちょっと肖像権などの関係からいってもやりすぎではないだろうか。何かの皮肉や批判だとしても、ペヨンジュンは一人の俳優にすぎない。これが金正日ならまだよかったと思う。金正日は政治家として権力があるし、体制に対する批判や皮肉、という風にも受け取れるからだ(別に政治家だから無制限に殺してもいい、と言いたいわけではない)。

 筆者としては、アイドルマスター的な萌えアイドルグループのゾンビ集団が出てきたら面白いと思う。むろん著作権に配慮して見た目や名前は変えて置く。大切なのは『典型的な萌えキャラ』という部分だ。ゾンビ化したアイドル達がファンを襲う。それがテレビで全国放送されれば面白そうだし、なにより日本の萌え文化への皮肉にもなっていいのではないだろうか。萌えキャラクターがゾンビ化したらどういう造形になるのかも非常に楽しみだ。主人公一行がゾンビ化することが無理なら、せめてこういう形でいいから“萌えキャラのゾンビ”というのを見せて欲しかった。

 総評として、キャラクターを中心とした作画だけは安定していたが、それ以外ではゾンビ作品として失格だし、萌作品としても微妙、と言わざるを得ない。『学園』という設定を活かすなら、学校をセーフハウスとした『デッドライジング』的なものにしたほうが良かったのではないだろうか。学校は建物が丈夫で周りが塀で囲まれているし、場所も広い。まっ先に機動隊がやってきて救出した住民を学校に避難させる。そこでのゾンビに囲まれた学校という閉鎖された空間での生活など、ちゃんと描けばかなり面白くなってくると思う。さらっと思いつくだけで、食料の確保や他の住民の救出(これを巡って生存者同士で意見の対立があると面白い)、略奪団と化した外部の生存者との対決などがある。そういった中で、学生である主人公たちの成長が描かれればなおよし。

 あるいは、もう舞台設定から作り直してバカ作品を目指してしまう、というのもアリだと思う。日本だと銃が使いづらいので、舞台をアメリカの植民地(あるいは州)となったパラレルのジャパンにしてしまう。よくハリウッド映画で白人が勝手に妄想したような『勘違いジャパン』がでてくるが、あれの『勘違いアメリカ』版を日本でやってしまうのだ。ゴア・グロ表現もバカスカ取り入れる。JKはバンバン銃を撃ってゾンビどもをエゲツナイ方法で撃退していく。現実ならやっぱり個人的戦闘能力では男の方が強いが、漫画的な表現、特に日本のように美少女が巨大な剣を振り回していたりする漫画的表現なら特に違和感も感じないだろう。さしずめ『プラネットテラー』のアニメ版といったところだろうか。

 だが、『学園黙示録』も“ゾンビ”という今までなかったジャンルを持ち出したことだけは評価されてもいいだろう。その作り込みがあまりに甘ったる過ぎるためにゾンビ作品足り得ないことは残念だが……

 後発の作品がこれらの欠点を補って日本どころか世界を驚かせるような作品を作り上げることを、筆者は切に願っている。


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