ドラゴン桜:(漫画)
最近気になり始めて読み出した。読んでみたらやっぱり面白い。絵は相変わらずだけど(まあでも、この絵がいい)。
お受験を題材にした漫画だが、いわゆる『受験勉強』を通して人生一般に通じる処世術や論理を語るあたり、『カイジ』とも似ているかもしれない。
物語的には、意外にも群像劇として優れていると思った。もちろん、正式な主人公は龍山高校に破産代理人としてやってきた弁護士、桜木健二だろう。しかしこの桜木はいわば物語を読者に提示する、推理小説で言う探偵役のようなものだと思っていい。まあ、この文脈で言うなら事件を起こすのもこの桜木なんだけど。
大まかな話は、水野というデッサンの狂った女子高生と、矢島というシャツをズボン外に出すことが生きがいの男子高生(どちらも成績最悪)が1年間で東大を目指す、というもの。実質的な主人公はこの二人とも言えるかもしれない。成長していくのは当然のことながら桜木ではなく(桜木も途中で一緒に世界史の勉強をしたりもするが)、この二人であり、読者は二人の視線に立って物語に没入していくこととなるからだ。
桜木は良くも悪くも明け透けで打算的で利己的で合理主義者である。元暴走族だったのに、どこでそんな性格になったのか……とにかく、彼は人によって好き嫌いがハッキリと分かれるタイプであることは確かだ。一応教師として授業を教えはするものの、「世界史勉強したことないから一緒に勉強しよ!」という美少女以外口にしてはいけないことを言い出す。
彼を主人公として据えると、かなり読者を選ぶ漫画になってしまったのではないだろうか。そのあたり、『金八先生』とは違うところではある。それに金八先生から比べたら、おかしな表現だが『主役としての自覚に欠ける』ところがあると思う。どこまでも自分の利益であり、他人の人生は知ったこっちゃない、自分のケツは自分で拭け。それだからこそ、生徒に自立を促すことを重視するし、結果的にそれが生徒のためにもなっているのだが。
なんにせよこの『ドラゴン桜』は、他の教科を担当してくれる個性的な教師陣、それぞれの都合を背負って東大合格という果てしない目標へ挑む生徒――彼らがいて、初めて『桜木先生』(実際には先生でも何でもないのだが)足り得ると言えよう。彼らがいなかったら、逆に物語として成り立たなかった。そういう意味では桜木は「より大きな役割をもった重要人物の一人」として位置づけられ、それはつまり群像劇、ということではないだろうか。
そうそう、大まかな話の話だった。
桜木は水野、矢島の二人に東大に合格してもらい、その実績で生徒を集めて学校を再建しよう、という計画を立てる。その過程として他の教師や水野、矢島といった生徒たちに、読者の代わりに反発させる。 それに対して桜木がうまくロジックを展開して、という感じ。
さきほどの探偵役、というのはこういう意味で、ということ。
いやあ、それにしても読んでいて高校時代のことを思い出してちょっと懐かしくなったりした。作中の「授業をしっかり受ける」という基本、全く守れてませんでした。高校教師の中には、「定年まで勤めあげればもういいや」と思っているやる気のないのもいて、そういう教師の授業は即睡眠時間へ変換。結果、その教科は自宅で勉強するしかなく、そうなると睡眠時間がゴリゴリ削られて授業中ますます寝るようになる……という負の連鎖に陥っていたのが私だ。
いや~、こういう『ドラゴン桜』みたいな講師陣に教わりたかったな~。それでも筆者が東大に行けるとは思えないところが悲しい……
あとこの漫画、途中からアシスタント投入率が高くなっていく。そのコマの絵、全部が全く別人(特に小さな子供の出てくる箇所)の筆跡で描かれており、おそらくは『ドラゴン桜』指導法でアシスタントを指導して描かせたのだろう。この作者、なかなかやりよる。
話は変わるが、この漫画に出てくる基本的信条は「常識を打ち破れ、ただし常識を打ち破るには常識を熟知せよ」であり、それが痛快な手法で次々と提示されてゆく。何だかビジネス新書的な読み味に漫画のストーリーを足したような感じか。ただ、新書とは違ってフィクションなので新書の「若い頃の自慢」的な味が消えて読んでいて抵抗がない。ドラッカー萌化したやつも、それに当てはまるかもしれない。そういう意味で、この作品の類書も増えていくのだろうか。ただし、これほどのしっかりした意見を持っていて、しかも分かりやすいストーリーで提示できる漫画家、というのはそうはいまい。若い漫画家だと経験が足りぬし、年取った漫画家だとそもそも漫画業界に参入することからして難しいし。なかなか難しいところではある。
もう一つの基本信条は「結果を出せ」。「世間は一人一人の努力なんて見てられないんだよ!」と生徒に対して言い放ち、また「数字が全て」とも言い切る。しかしその一方で生徒の両親には「だからこそ努力を見てやって欲しい」と頼むなど、温情も兼ね備えている。厳しいが、それは全て生徒の自律と自立のため。最後、矢島が「結果が無駄でも、今まで積み上げた努力は無駄じゃない」と悟るあたり、矢島はしっかりと自立した強い精神を身に付けた=龍山教育が成功したという一番の結果、ではなかったかと思う。
続編の『エンゼルバンク』は転職を題材にした作品。こちらは社会人にこそオススメの漫画と言えよう。今ちょっと読んでいるが、何か転職したくなってきた。
でもぶっちゃけニートになりたいです。




