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ずっと母と妹に搾取されていたことに気付けたので縁を切りました  作者: 朔晦 月陽


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母と


翌日、衣装調整を終えてからお母様の部屋を訪ねた。先にライナに訪問を伝えてもらっていたので、部屋に入ると既にお茶の用意がされている。

お母様の指示で、辺境伯邸のメイドは部屋から出され、私とお母様、それぞれの侍女だけが部屋に残った。もちろん部屋の扉はしっかり閉じられ、護衛も扉の外だ。


「オルデア、大事な話があるの」


一口紅茶に口をつけてからお母様は重々しい口調で話し出した。


「なんでしょう?」


対して私は不思議なくらい落ち着いていた。今までだったら、母のこの態度にもっと不安な気持ちを抱えていただろう。


「この結婚、辞めにしましょう」


思っていた以上に最悪な言葉が出てきたことに固まってしまう。

重い沈黙の中、ライナが動く気配がして、ハッとして口を開いた。


「お母様、もう式は1週間後です。準備も順調に整っておりますし、ご冗談はよしてください」

「今更結婚を取りやめるのは辺境伯様にも悪いと思っているわ。賠償金を払うのは致し方ないけれど、結婚前で良かったわ。離婚となると外聞も悪いし」

「直前で結婚中止も、二度の婚約解消も十分外聞が悪いと思いますけれど?」

「辺境のように田舎なら肩身も狭いでしょうけど、王都のタウンハウスにでも行ってしまえば大丈夫よ。お母様と2人で暮らしましょう」


一瞬2人でタウンハウスでの暮らしを想像してぞっと背筋が寒くなった。


「私はルカルディ様をお慕いしておりますし、辺境の地も好きになりました。このまま結婚したい……いえ、結婚いたします」

「オルデア、今はそうでも結婚した後まで愛が続くとは限らないのよ」


溜め息まじりでお母様は言うが、それは両親の話だろうかと邪推してしまう。


「そもそも、なぜ急にそんなことをおっしゃるのですか?」

「あなたが側にいないと困ると気付いたのよ。ごめんなさいね、オルデア。あなたが修道院に行くなんて言うから辺境への結婚なんて認めてしまって。考えてみたら修道院に行く必要なんてなかったのよ。リリー達に申し訳ないと言うのならお母様と2人で王都で暮せば良かったのよ」


あなたが側にいないと困る、前までは頼られていると思えて嬉しい言葉だった。でも今はなんて自分勝手な言葉なのだろうと思う。


「この間もね、コルディア公爵夫人のお茶会に招待されたのだけど、手土産を何にしようかとリリーに相談しても、あの子何も分からないって言うのよ?義理の母の好みも知らないし、ローゼンフィルでの流行りのスイーツも、気の利いた物も何も知らないの。オルデアだったらすぐに気の利くお土産を用意してくれるのに」


本来お母様が自分でやるべきことだ。私がやって当たり前のことではない。


「それにね、最近食卓が少し寂しいのよ。いつも通り食事は美味しいのだけど、季節のフルーツや新作のスイーツ、美味しいワインが足りないの。家令に聞いたらオルデアがいないから領民が届けないって言うから驚いたわ。ロベルト様は領民との交流なんて最低限でいいと言うし、オルデアがいなくなってこんな不便になるだなんて思いもしなかったわ。」


不便、という言葉が引っ掛かる。領地経営は問題ないとフレッドから聞いている。

本当にただほんの少し不便なのだろう。私がいないことは。


「結婚したらシャルフラワーの香水の事業だってローゼンフィルの名がなくなってしまうわ」 

「どういう意味でしょう?」

「あなたがローゼンフィルから離れたことで、あの事業がローゼンフィルのものではなく、オルデア個人のものだと王都にいる貴族達に知れ渡ったの。リリーがシャルフラワーの香水を夫人達のお茶会でお土産にしたら、恥をかいたと怒っていたわ」

「仮に私が結婚をやめても、シャルフラワーの香水は私の事業なことに変わりありませんが」

「分かってるわ。でも、オルデア・ローゼンフィルの事業なのと、オルデア・シュルベストの事業なのでは違うのよ。まぁローゼンフィル領の事業なのだから本来ローゼンフィル侯爵家の事業にするべきよね。帰ったらその手続きもしましょうね」

「あれは私の事業です。ローゼンフィル侯爵様とも契約書を交わしてありますし、今更お渡しする気もありません」


私の強い言い方にお母様は驚いた顔をした後、いつものように悲しそうに言う。


「シャルフラワーの香水はとても評判が良くて、ローゼンフィルの自慢よ。あれを作ったオルデアはすごいわ。でも、そのせいでリリーがローゼンフィル侯爵夫人として周りから馬鹿にされるのよ?それよりローゼンフィルの事業として、あの子に華を持たせてやってちょうだい?オルデアはお姉ちゃんでしょう?」


私はグッと拳を握り、その呪いの言葉に言い返す。


「あれは私が苦労して作ったものです。ローゼンフィル侯爵夫人としてはリリーが自分で功績を作ればいいでしょう?リリーが何もしてないだけで私の事業をあげる理由にはなりません」


お母様の傷ついた顔に私の良心が痛む。


「リリーだって侯爵夫人として社交にお茶会に、家政だって少しずつ頑張ってるわ。何もしてないなんてどうしてそんな酷い事を言うの?あなたはお姉ちゃんなのよ?妹にそんな酷い事を言ってはダメよ」

「私は、事実を言っただけで、酷いことなんて言ってません」


心臓がバクバクして言葉が上手く出てこない。


「どうしたの、オルデア?いつもはちゃんとお母様の話を聞いてくれるじゃない。辺境に来て何か悪い影響を受けたのね」

「悪い影響など受けておりません。ここの人達は皆優しいし、私は辺境が好きです。先程も言いましたが、私はこの結婚をやめる気はありません」


お母様が小さく溜め息をつく。その様子に、頭の中では言うことを聞く必要はないと思っているのに、逆らうことに罪悪感のようなものを感じていた。


「オルデア、あなたが辺境に嫁ぐことで家族が不幸になるのよ?この結婚は間違っているのよ」


否定の言葉が頭には出てくるのに声となって出ない。


「オルデア、家族を不幸にしたくないでしょう?ロベルト様だって仕事を手伝ってくれるなら帰って来ていいと言ってくれてるの。ロベルト様も大変なのよ。ローゼンフィル侯爵家の長女として助けてあげなきゃいけないわ」

「私は……ルカルディ様と結婚します」


もっと言いたい事があるはずなのに、自分の心臓の音がうるさく耳に響いて、言いたい事が分からない。


「どうしてしまったのオルデア?お姉ちゃんなのに家族が不幸になる道を選ぶなんて……そんなの優しいオルデアらしくないわ」


お母様の目からポロポロと涙が流れ出す。

泣きたいのは私だ。でもお母様の前で泣きたくなかった。


「……」


慰めなきゃと頭のどこかで思う。でも慰める言葉も出ないし慰めたいと思ってるわけじゃない。

酷い事を言われているのは私じゃないのだろうか?なぜ母が泣くのだろう。

自分の意識がどこか遠く、目の前のことが現実に思えない。自分の心臓の音が耳で鳴り響き、母の声も聞こえなくなる。


呼吸がしづらい気がするなと思ったような気がしたが、そこでふっと意識が途絶えた。




お読みいただきありがとうございます

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