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ずっと母と妹に搾取されていたことに気付けたので縁を切りました  作者: 朔晦 月陽


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ミラフラワーの香り


リュシュが来た日から1ヶ月程経った。あの後リュシュは、食べたがったくるみパンを堪能し、美味しい辺境の料理も堪能し、アリア様やベルリナ様ともお喋りして、満足してローゼンフィル領へと帰る……予定だった。

しかしリュシュはまだ辺境伯邸にいた。今や客間の1室は研究室へと化している。


全ては私の1言から始まった。


「ねぇリュシュ、明日は早起きしてミラフラワーを見に行かない?」


リュシュに辺境の自慢のひとつのあの綺麗な景色を見て欲しい、そう思って私はリュシュを誘った。

さすがに前回のように薄暗いうちから行くのは憚れたので、日が昇ってすぐに私達は出発した。辺りは明るくなっていたので馬車の進みも早い。

ルカルディ様も一緒に来てくれ、2台の馬車で向かったにも関わらず前回より早い時間で丘についた。

馬車を降りると、もう既に花が開いていたからか、ふわっと木々の香りがした。

花開く瞬間も美しかったが、やはりミラフラワーが一面に咲き、太陽の光を浴びた水滴がキラキラ輝く光景は言葉を失う綺麗さだった。

リュシュもほぅっと、うっとりした表情で何も言わずキラキラ輝くミラフラワーを見つめていた。


「素敵でしょう?」


リュシュの横に立ち、小さな声で問いかけた。


「はい、とっても幻想的な風景ですね。それに、いい香り」

「ほんと。森の中にいるみたいに落ち着く香りがして、とっても好きだわ。この香り男性用の香水にできたら良いかも」


辺境の地を思わせるこの香りは、私の中でルカルディ様を連想させた。だからついそんな言葉を口走ったのだ。

そしてその言葉によって、リュシュは1ヶ月経った今も辺境伯邸に留まっているのだった。




「オルデア様!」

「リュシュ!」

「ついに!」

「ええ、ついに!」

「「できたぁ〜!」」


研究室と化した客間中に私達の歓声が上がった。幸いにも重厚な扉がついている辺境伯邸ではその声は廊下に微かしか漏れることはなかったが、部屋の中にいるライナからは淑女らしからぬ声量に厳しい視線をもらった。


その日のティータイム。ルカルディ様には是非ご一緒いただけたらと伝えてある。

私とリュシュはサロンで並んで座り、ルカルディ様の到着を待っていた。


「待たせたかな?」


ルカルディ様が対面に座りながら私達2人を見てそう言った。


「お待ちしてましたわ」


待ってないと言うべき所だが、私は正直にそう言った。


「だってついにミラフラワーの香水が完成しましたの。早くルカルディ様に試して欲しくてお待ちしてましたわ。お疲れのところ申し訳ないのですが、お茶は後でもよろしいですか?」

「あぁ、ついに完成したんだね。もちろんお茶は後にしよう。私も早く2人の努力の結晶を見たいな」


私は一度リュシュと目を合わせた後、ひとつのボトルをルカルディ様に差し出した。まだ試作品なのでなんの変哲もないただのボトル。しかしそれは私とリュシュの1ヶ月分の努力、否、それはシャルフラワーを完成させたからこそ作ることができた。あの頃からの努力が全て詰まっている。

何度も何度も香りを確かめた私達だが、ミラフラワーの香りを何度も嗅いできたルカルディ様の反応次第でこのミラフラワーが完成品なのか失敗作なのか決まる。もちろんルカルディ様にはそんなこと一言も告げていないが、実はこれは最終テストだった。


「シャルフラワーの香水は、シャルフラワーの香りをベースにトップノートは華やかに、ミドルノートは少し爽やかさを足して、ラストノートは落ち着いた大人な甘さの香りになるよう作りました。全て香りのベースにシャルフラワーの香りを使っています」


私はまずシャルフラワーの香水の説明をした。


「そしてこのミラフラワーの香水は、トップは優しく少し甘さのある香りを、ミドルには柑橘系の爽やかな香りを、ラストにはミラフラワーの落ち着いた木々の香りを楽しめるように作りました」


そう言って私は1つの厚紙にミラフラワーの香水をシュッとひと拭きして、それをルカルディ様に差し出した。

ルカルディ様はその紙をヒラヒラと顔の前で振って、トップノートの香りを楽しんでいる。


「うん、甘すぎない優しい香りでとても良い」

「こちらがミドルノートになります」


少し前にミラフラワーの香水をひと拭きしておいた紙をルカルディ様に渡すと、彼はさっきと同じようにして香りを確かめる。


「柑橘も控えめな香りで良いね。男性用香水というのはどうも色気ムンムンといった香りが多くて苦手だが、これなら使いたくなるよ」


そう、今この国の男性用香水は色気ムンムン系の強い香りのものが多い。私もそれは苦手だったし、今回優しい香りのものにしたのはもう1つ理由がある。


「そしてこれがラストノートになります」


さっきのよりさらに前にひと拭きしておいた紙を出す。緊張に少し指が震えた。

ルカルディ様はまた先程と同じようにしてから、深く息を吐き出した。


「あぁ、たしかにミラフラワーの香りだ。意識してかいでいたわけじゃないが、瞼の裏にミラフラワーの咲き誇る様子が映されるようだ。香りで記憶が呼び起こされているんだろうな」


私とリュシュはその言葉に、ルカルディ様の嘘のない表情に、ホッと胸を撫で下ろした。

知らず握りしめていた掌を緩めた時、リュシュが別の厚紙をルカルディ様に差し出す。


「シュルベスト辺境伯様、こちらはシャルフラワーの香水のラストノートの香りとなります」


ルカルディ様は意図が分からす首を傾げながらもそれを受け取った。


「そちらを、先程のミラフラワーの香水と一緒に振ってみてください」


リュシュに言われた通りに、ルカルディ様は受け取った紙とミラフラワーのラストノートの紙を一緒にして顔の前で振った。

2つの香りは反発することなく、混ざり合い、1つの香りになる。それが優しい香りにしたもう1つの理由だった。


「個々でも完成された香りだが、ミラフラワーの落ち着いた木々の香りに、シャルフラワーの大人の甘い香りが重なり、森の中の花畑にいるようだ」


ルカルディ様からリュシュの狙い通りの言葉が出る。隣でリュシュがグッと拳を握ったのが見えた。

リュシュはシュッとシャルフラワーの香水を厚紙にひと拭きし、更にもう1つシャルフラワーのミドルノートの香りのする紙も出した。


「全て、どの組み合わせでも、混じり合った時にも良い香りになるよう調整したんです!」


自慢気に、でもその奥に少しの緊張を含んだ声でリュシュが言う。

ルカルディ様は驚いた顔の後に、色々な組み合わせを試して楽しそうにしていた。


「すごいな、本当にどれも互いの香りを邪魔しない。驚いたよ」


ルカルディ様が全部の組み合わせを試した後でそう言った。私とリュシュは最終テストのクリアに手を取り合って喜んだ。


「これ、ペア香水として売り出そうと思っているんです!もちろん別々の販売もしますが、オルデア様と辺境伯様の恋物語の香水としてアピールして、ペアで売り出す予定です!」


リュシュの言葉に私は少し頬が赤らむ。


「私とオルデア嬢の?」

「はい!オルデア様の幸せそうな様子と、ミラフラワーの香りが辺境伯様を連想させるというオルデア様の話を聞いて、この2つの香水をペアにして、幸せの象徴として作り上げたいと思いました!結婚式で使用してもらい、同じタイミングで売り出したいと思います」


言わば2つの香水の看板となれとリュシュは言っている。最初にその提案を聞いた時素直に素敵な話だと思ったが、私達は幸せだと、仲が良いとアピールしているようで恥ずかしい。ルカルディ様がどう思うか内心ドキドキしていた。


「それは嬉しいなぁ。私達の仲の良さを辺境だけでなく、ローゼンフィル領にも自慢できる。それどころか人気が出れば王都にも届くね」

「ええ、王都ではオルデア様のことを婚約者を盗られた可哀想な令嬢と馬鹿にする失礼な方もいます。ですが、これが広がれば辺境伯様と相思相愛の素敵な結婚をした令嬢に変わるはずです」


私は驚いてリュシュを見つめる。ペア香水にこだわっていたリュシュの本当の狙いはこれだったのだ。


「リュシュ……あなたそんな事を考えていたのね」

「もちろんお二人の寄り添う姿が素敵で、それをペア香水として形にしたいと思ったのは本当ですよ」

「ありがとう、リュシュ」


私は隣のリュシュを思わず抱きしめた。


そうしてリュシュはまた結婚式の頃に完成品を持って辺境へ戻ってくると約束して、ローゼンフィルへと帰っていった。






お読みいただきありがとうございます

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― 新着の感想 ―
ろくな家族に恵まれなかったけど、周りの人は思いやりのある素敵な人たちで良かったです。香水のエピソードもとても素敵で、つけてみたくなります。
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