30 モブからアリアナの侍女に
子爵令嬢/生徒C ニーナ・ヴァロワ
皇太子 /攻略対象 アルフレッド・クロムウェル
公爵 /攻略対象 ジークハルト・ベルシュタイン
伯爵 /攻略対象 リュカ・モンパルナス
伯爵 /攻略対象 オスカー・ウィリアムズ
伯爵令嬢/悪役令嬢 クロエ・ラングレー
皇太子妃候補 アリアナ・エグランティーヌ
「…あら、そんな。ニーナさんったら…少し、あちらでお話しませんか?」
アリアナがそう言って、困ったような顔をして私を別室へ連れていった。
誰も来ない、倉庫のような部屋だ。
「で、どういうつもり?」
さっそく、ダークアリアナが現れた。
「どうって…先ほどお伝えしたとおりです。アリアナさんは、皇太子妃になられるんでしょ?私、王宮で勤めたいと思っていたんです。ぜひ、侍女として連れていってください」
そう言って微笑んだ。
アリアナはしばらく私を見て「そう言うこと」と言って笑った。
「なんだ。あなたも、結局、そういうことね」
アリアナが勝ち誇ったように笑っている。
笑わせておけばいい。
これでジークハルトの平穏が守れるなら、安い、安い。
それから、本当に侍女のようにアリアナに扱われた。
寮から学園への送り向かい、制服の準備、宿題、ランチの手配、などなど。
アルフレッドから我儘だとは聞いていたけど、かなりの我儘だった。
「これが王族か…」
ぼそっと声が漏れた。
「何か言った~?」
アリアナがそう言いながらお茶を飲んでいる。
「いえ。王族の方は、やっぱり所作が違うなって思って」
そう言ってごまかす。
私がアリアナの身の回りのことをするようになって、ジークハルトがアリアナに呼びつけられることもなくなったようだ。
よかった。
アリアナの我儘に慣れてきて、クロエの様子もチェックするようになった。
クロエがジークハルトを巻き込んで何かしないように注意しないと。
ときどき、クロエがアリアナに絡んでくるけど、腹黒さでいえばアリアナが一枚上手だ。
誰か人がいるところで「ひどいですわ、クロエさん」と言って泣いて見せて、クロエが周りの人に白い目で見られて退散していく。
アリアナの傍で格闘しているうちに、ジークハルトの婚約者候補にクロエの名前が挙がっていることが広がって、極悪令息と極悪令嬢でいいカップルだ、なんて、ヒドイことまで言われるようになっていた。
「ああっ!また宿題…ちょっと、奴隷っ!これもやっといてっ!」
アリアナが私にノートを投げつけた。
物を投げてはいけませんって、子どものときに言われなかったのか?
「はい、アリアナさん。他には何もないですか?」
ノートを拾い上げながらそう言うと「何かあったときに呼ぶわよ」とおかしを食べ始めた。
さいですか。
そう思いながら近くの机で、アリアナの宿題と、私の宿題をする。
最初はイヤイヤやっていたけど、こうやって2回、宿題をするから、授業の内容はよくわかるようになってきていた。
予習復習って大切よね。
「…あの。感想文の宿題もあるんですが」
「それもやっといて~」
アリアナは、全然、勉強をやろうとしない。
これで、皇太子妃教育は大丈夫なんだろうか?
「今日は、勉強したくないから、学園、お休みするわ」
学園の送り迎えのため寮に行くと、アリアナにそう言われた。
休む理由が、勉強したくない、はいいんだろうか?
ため息をつく。
仕方なく、体調が悪いようだと先生に伝えておいた。
久し振りに、アリアナのいない学園生活。
こんなにまったりする時間があったんだと驚いた。
お昼休みになると、久しぶりに推しの観察に出かけることにした。
今日も寝ぐせはついているだろうか?
目をこすりながらも、もふもふとランチ食べるかな?
久し振りの観察に、ワクワクしながらいつも隠れている場所で待機する。
「……」
来ない。
しばらく待っても、ジークハルトのお気に入りなはずの場所に、ジークハルトは来なかった。
これが、モブの引きの弱さか。
がっくりしてうなだれる。
授業中は、私のほうが席が前だから、そんなにチラチラと見ていられない。
「せっかく、じっくり見られると思ったのに…」
ポツリと呟くと「何が見られると思ったの?」と声がした。
「あー、どうも。キラキラ皇太子…じゃなくて、アルフレッド様」
私は、推しが見られなくて落ち込んでいるのだ。
ちょっとはやさぐれさせてほしい。




