第20話 隣国からの使者
僕が近衛騎士の首席に就任してから約一ヶ月、『黄金の騎士』としての仕事は無かったので、アイリス達のパーティ『オリハルコン』と冒険者の仕事をしていた。
そのおかげもあって、僕の冒険者ランクはCランクになっていた。
イブが以前、Cランクは中堅だと言っていたな。
依頼の達成率は100%だから、比較的早くランクが上がったようだ。
そういえば、近衛騎士の第七席が空席であるが、なかなか簡単には決まらないらしい。
王族、或いは近衛騎士の推薦が必要で、優れた能力であることはもちろん、唯一無二の能力か、その道でトップクラスの実力がないといけないようだ。
ちょっと強いだけでは駄目だそうだ。
僕はもう少し、こっちの世界にいるつもりだ。
日本の会社の建設は、完成にはまだかかりそうだからな。
近衛騎士という立場上、グレンダ王の身辺警護もあるが、影というか秘匿で警護している者もいるようだ。
グレンダ王の周囲には、以前から気配を感じていたのでイブに確認したら教えてくれた。
つまり、表では近衛騎士が、裏で『影』が警護している状態だ。
もちろん、何かあれば可能な限り『表』で対処しなければならず、『影』は念の為、ということらしい。
僕は今、王宮の一室を間借りして世話になっているが、家庭を持ったりすると王都に家を持ち、通いということになる。
アイリス達との婚約は、まだ公表はされていないので王宮の一室を間借りしているが、いずれは王都に屋敷の一つくらいは用意すべきだ、とグレンダ王からは言われている。
実は、マリアンヌ王妃は待望の第三子を妊娠しており、男児であれば世継ぎ、女児であった場合はアイリスが女王になる可能性がある。
アイリス達との婚約発表は、その結果次第で公表内容が変わりそうだ。
「行くっすよ!」
「甘い。隙だらけ。」
「うぉっと!? あ痛ぁ!?」
訓練場から、元気な声が聞こえる。
どうやら模擬戦をしているようだが、訓練場にいたのはリデルと、15,6歳の女の子だ。
格好は騎士っぽいから騎士団の一人だろう。
「お疲れ様、リデル。訓練か?」
「そう。モニカと訓練をしていた。」
リデルが振り返って言う。
リデルと話をしている僕を見て、モニカと呼ばれた少女が不思議そうにしている。
「誰っすか? 新人?」
「新人と言えば新人だな。カケルという。よろしく頼む。」
僕が新人なのは間違いない。
僕は今『黄金の騎士』の格好ではなく、騎士団の制服を着ている。
近衛騎士の制服はまた別にあるが、目立つので騎士の制服を着ているのだ。
「新人の『カケル』が、何故リデル様と親しそうに話をしているっすか? 駄目っすよ? リデル様は『近衛騎士』の第二席。騎士団のトップみたいなものっす。敬語を使うっす。」
僕が何も知らない新人だと思い、親切心で教えてくれているんだろう。
そういうモニカは体育会系の口調だが。
「問題無い。カケルは私達の婚約者。」
リデル。言葉足らずなのは知っていたけど、それまだ公表されてないからね?
「リデル、まだ公表されてないだろう? 言って良かったのか?」
「むっ、しまった。うっかり。」
失敗失敗という様子でリデルが答える。
「婚約者ってどういうことっすか!? いや、それと私達って!? まさか他にも!? あっ痛ぁ!?」
「手がすべった。モニカの記憶が無くなるくらい手がすべりそう。」
「わ、分かったっす! 内緒にしろってことっすね!? 」
仲良さそうに模擬戦が始まる。
「リデルとモニカは、よく訓練しているのか?」
僕の問いかけにモニカが答える。
「そうっす! リデル様は頼めば、都合が良ければ相手をしてくれるっすからね。リデル様は自分の目標っす!自分は剣でリデル様みたいに強くなるっす。」
元気よくモニカが言うが、その後にモニカの表情が若干曇る。
「でも、自分はリデル様みたいな才能が無いんすよね。いくら訓練しても、スキルや魔法が発現しないっす。」
訓練したらスキルや魔法が発言するのか? ダンジョンで魔法書やスキルの書を手に入れて使う以外に?
『マスター。魔法書などは希少です。ほとんどの者が手に入れることはできないでしょう。それこそ、ダンジョンの深部に行けなければ手に入りません。』
イブが教えてくれる。
そうなのか。
だからスキルや魔法を使う人が少ないのか。
僕が異世界に来て思ったのは、スキルや魔法を使う人が少なく、複数のスキルを持っている人も見かけないなと思っていた。
じゃあ、『発現』とは?
『はい。人は稀に未発現のスキルや魔法を持って生まれます。訓練によって、そのスキルや魔法が発現するのです。リデルの「神速」もそうして発現したのでしょう。』
つまり、未発現のスキルや魔法がないと訓練してもスキルなどが手に入らないと? モニカには未発現のスキルや魔法が無い?
『いえ、モニカには未発現の魔法があります。しかし戦闘系では無いので、剣の訓練では発現しなかったのでしょう。モニカの未発現の魔法は……』
イブからモニカの未発現の魔法を聞いた。
本人は剣で強くなりたいのに、皮肉なものだな。
『ちなみにマスターにも「未発現の魔法」があります。』
何だと!? そういうことは早く言ってくれよ! あれか?「聞かれませんでしたので」とか言うつもりか?
『はい。聞かれませんでしたので。お聞きになりますか?』
そう言われたら聞くだろう。
僕の未発現の魔法って何だ?
『マスターの未発現の魔法は「付与魔法」です。マスターが所持する魔法やスキルを対象に付与するものです。実際にやってみた方が良いでしょう。イブもフォローしますので。』
思っていなかったところで、衝撃の事実が連発したな。
「カケル。グレンダ王から呼び出しみたい。私達に来てほしいって。」
リデルから伝達される。
どうやら騎士の一人から指示が届いたみたいだ。
何だろうな?
グレンダ王が頼み事ってのは珍しいな。
不思議に思いながらも、僕達はグレンダ王のもとに向かった。
「イングスタル帝国に?」
「そうだ。お前達に隣国『イングスタル帝国』に向かって欲しい。」
どうやら少し、遠出をすることになりそうだ。




