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派遣社員の人生やり直し 日本の未来を変えるために各種ゲーム製作から成り上がる!  作者: 水源
昭和59年(1984年)

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今できることは限られてるが将来のためにまずは学力をつけていこうか

 今現在――昭和五十九年、一九八四年。


 スマホはない。


 ガラケーもない。


 PHSなんて、影も形もない。


 移動中に電話を使いたければ、自動車電話か、限られた場所にある列車内電話くらいだ。


 そして当然――インターネットもない。


 前世の俺なら、分からないことがあれば検索サイトを開いて終わりだった。


 検索。


 クリック。


 はい、解決。


 そんな便利な時代ではない。


「……情報収集、めちゃくちゃ大変だな」


 それでも、知らないままでは何もできない。


 俺は近所の図書館へ通い詰めた。


 新聞の縮刷版を読み、雑誌のバックナンバーを漁る。


 家に帰れば、十四インチのブラウン管テレビでニュースを見る。


 そして、手に入れた情報を前世の記憶と照らし合わせる。


 地味。


 ひたすら地味。


 だが、やるしかない。


 そうやって調べているうちに、俺は一つのことに気づいた。


「……あれ?」


 大きな歴史の流れは、俺の知っているものとよく似ている。


 ところが――細かい部分が違う。


 かなり微妙に違う。


 例えば、現在の日本の総理大臣。


 自由民主党の大曽根康弘。


 そしてアメリカ大統領は、元ハリウッド俳優のロナルド・ローガン。


「二人とも『ロン』『ヤス』って呼び合うくらい親しい……って書いてあるな」


 新聞から顔を上げる。


「……名前、微妙に違うんだけど」


 どうやら俺が知っている歴史と、この世界の歴史は完全に同じではないらしい。


 まあ、そういうこともあるか。


 いわゆる――パラレルワールド。


 そう考えることにした。


 ただし、大筋は驚くほど似ている。


 例えば、この年。


 オーストラリアから六頭のコアラがやって来た。


 そして、それをきっかけにコアラブームが起きる。


 それまで大人気だったパンダを追い抜く勢いだったらしい。


「この辺りから、オーストラリアって国も日本人にとって身近になったんだよな」


 さらに、エリマキトカゲも大流行。


 四菱自動車のファントムミラージュのテレビCMで、襟を広げて走る姿が大きな話題になった。


 ただし――。


「車そのものは、そこまで売れなかったのか」


 CMは大ヒット。


 商品はそこそこ。


「『CMが流行れば商品も売れる』ってわけじゃなくなってきたんだな」


 広告業界にとっては、大きな転換点だったのかもしれない。


 他にも、日本の平均寿命が大きく伸びた。


 女性の平均寿命は世界で初めて八十歳を超える。


 日経平均株価も、初めて一万円を突破した。


「……一万円か」


 新聞をめくりながら、俺は小さく唸る。


「ここから、株価が一気に上がるんだよな」


 そして――土地も上がる。


 株も上がる。


 景気も良い。


 誰もが未来は明るいと思っている。


「でも、この先にバブル崩壊が待ってるんだよな……」


 その事実を知っているのは、たぶん俺だけだ。


 鉄道はまだ国鉄。


 とはいえ、この年には貨物列車を大幅に削減するダイヤ改正が行われた。


 鉄道貨物から大型トラックへ。


 日本の物流も、少しずつ姿を変え始めている。


「便利なんだけどなあ。排気ガスとか騒音とか、後々いろいろ問題になるんだよな」


 まあ、今の俺には関係ない。


 ……と言いたいところだが。


 前世を知っている俺にとっては、全部が気になってしまう。


 娯楽もそうだ。


 スタジオジブチのアニメ映画――『風の渓谷のナウシカ』が公開。


 ファンタジー色の強い世界観が大きな話題になっている。


「……また名前が微妙に違う」


 やっぱり完全な史実ではないらしい。


 そして世間を騒がせているのが、菓子メーカーを狙った誘拐事件。


『どくいりきけん』


『かい人21面相』


 不気味な文字が新聞を埋め尽くしている。


「これ、子供の頃だったら絶対怖かっただろうな」


 さらに、テレビでは長寿時代劇の『銭方平助』が終了。


「時代劇も、この辺りから少しずつ変わっていくんだよな」


 野球界では、後楽園スタジアムがエアドーム計画を発表。


 やがてドーム球場へ。


 プロ野球では広島プーカが阪急ベアーズを破って日本一。


「プーカの全盛期か」


 懐かしい。


 それでいて、遠い昔の話のようでもある。


 そして――。


 一万円札が変わる。


 聖徳太子から、福澤諭吉へ。


「諭吉様……ここからだったのか」


 前世では当たり前だった紙幣だ。


 だが、こうして見ていると妙な感慨がある。


 漫画も凄い。


 週刊少年ホップが全盛期。


『肉肉マン』


『コマンドー翼』


『北東の拳』


『龍玉』


 どれも大人気だ。


「そりゃ子供が夢中になるわ」


 俺自身、その影響で今はサッカー部に所属している。


「……そういえば、俺、サッカー部だったな」


 前世の俺は、ごく普通の運動神経だった。


 レギュラーでもない。


 目立つ選手でもない。


 ただの部員。


 けれど――。


「転生して、身体能力とか変わってたりしないか?」


 ふと思う。


 もし何か転生特典があるのなら、そろそろ確認しておきたい。


 まあ、いきなり超人になっているとは思えないが。


「……一回、本気でやってみるか」


 サッカー部に行く理由が一つ増えた。


 そして、雑誌の世界でも変化が起きている。


 講談社から写真週刊誌『瞬間金曜』が創刊。


 新潮社の『激写』とともに、芸能人を追いかける報道が過熱していく。


「この辺から、雑誌もどんどん過激になっていくんだよな……」


 さらに、土地価格も上がり続ける。


 東京。


 大阪。


 福岡。


 札幌。


 横浜。


 名古屋。


 仙台。


 八王子。


 浦和。


 京都。


 立川。


 大宮。


 各地で年間一〇~二〇%もの地価上昇。


 いわゆる――土地バブルだ。


「……異常だよな」


 未来を知っているからこそ分かる。


 今の日本は、正常じゃない。


 なのに、誰もそれを止めようとはしない。


 土地の値段が下がる。


 そんな未来を、本気で想像する人間は少ない。


 銀行が潰れる。


 証券会社が倒産する。


 そんなことも、ほとんど誰も考えていない。


 土地を買えば儲かる。


 土地は絶対に値上がりする。


 そんな空気が、日本中に広がっている。


 そして――。


 俺の家も、そんな時代の恩恵を受けている。


 千葉県船橋市の一軒家。


 父親は銀行員。


 母親は元銀行事務員で、職場結婚をして寿退社。


 父親は四十代で、年収は一千万円を超えている。


 俺には一人部屋があり、十四インチのテレビまで置いてある。


 本棚には漫画。


 文庫本。


 新書。


 図鑑。


「……俺、結構なんでも読んでたんだな」


 改めて考えると、かなり恵まれている。


 だが、社会全体が穏やかなわけではない。


 中学校では校内暴力が問題になっている。


 窓ガラスが割られ、教師が生徒に暴力を振るわれる学校まである。


 暴走族も巨大化していた。


「うちの学校が平和なのは助かるな……」


 そんなことを考えながら、さらに新聞をめくる。


 そして――。


 俺は、公務員について調べ始めた。


 この時代、公務員は人気職だった。


 景気が悪くなっても、民間企業ほど影響を受けにくい。


 給与も比較的安定。


 福利厚生もある。


 退職金もある。


 何より――。


 一度採用されれば、よほどのことがない限り失職の心配が少ない。


「そりゃ人気になるよな」


 真面目に働いて定年まで勤める。


 それだけで人生設計が立てやすい。


 しかも、税務、警察、地方自治体など、専門分野でキャリアを積むこともできる。


 退職後に関連団体などへ再就職する場合もある。


 いわゆる――天下りだ。


「安定した現役生活の後に、第二の仕事まである場合があるのか」


 人気が高い理由は分かる。


 ただ――。


 未来を知っている俺には、それだけで終わらない。


 この先、民間企業の給与はどんどん上がっていく。


 企業の待遇も良くなる。


 そうなれば、公務員の「安定」という武器も相対的に弱くなる。


「……でも」


 俺は考える。


「今から公務員になったところで、バブル崩壊には間に合わないよな」


 そもそも、俺一人が官僚になったところで、日本経済をどうにかできるわけじゃない。


 金融政策。


 土地政策。


 税制。


 金融機関への監督。


 国そのものを動かさなければならない。


「無理だな」


 ならば――。


「自分でやるしかない」


 俺は呟いた。


 組織の中から社会を変える。


 それよりも、自分で会社を作る。


 自分で事業を起こす。


 自分の力で人を動かす。


 そのほうが、ずっと早い。


「起業……か」


 問題は山積みだ。


 地位。


 コネ。


 資金。


 信用。


「……何もないな、俺」


 中学生。


 当然だ。


 今の俺には、どれ一つとして持っていない。


 だったら――。


 作ればいい。


 この先、伸びる分野なら知っている。


 コンピューター。


 ゲーム。


「この二つは間違いなく伸びる」


 そして、ゲームなら――。


「カードゲームなんかも面白そうだよな」


 紙だ。


 製造コストは安い。


 ルールを作り込めば、子供から大人まで売れる。


 しかも、集めたくなる仕組みを作れば繰り返し買ってもらえる。


「陣天堂だって、もともとは花札の会社だったわけだし」


 ……まあ、アイデアだけならいくらでも出る。


 問題は――。


「やっぱり信用だな」


 会社を作るなら、銀行から金を借りる必要もある。


 人を雇う必要もある。


 取引先を探す必要もある。


 そして、何より人から信頼されなければならない。


「だったら……」


 俺は机の上を見る。


 置かれているのは、問題集。


 これしかない。


「まずは勉強か」


 結局、そこに戻ってきた。


 前世の俺は、学校へ行って。


 部活をして。


 漫画を読んで。


 テレビを見て。


 毎日を何となく生きていた。


 でも、今の俺には違う。


 未来を知っている。


 この国がどうなるのかも知っている。


 なら――。


 今度の人生まで、ただ流されて生きるつもりはない。


「良い高校に行く」


「良い大学に行く」


「知識を身につける」


「人脈を作る」


「金を稼ぐ」


「会社を作る」


 その先で――。


 未来を変える。


 全部いきなりは無理だ。


 だから、一つずつだ。


 まずは――。


「勉強だな」


 俺は問題集を開いた。


 シャーペンを握る。


 そして、一問目に向き合う。


 未来を変えるため。


 金を稼ぐため。


 社会を変えるため。


 何より――。


 二度目の人生を、今度こそ無駄にしないために。


「……やるか」


 こうして俺の二度目の人生は――。


 意外なほど地味な一歩から始まった。

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