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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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大国②の魔獣退治

 翌日から冒険者ギルドも軍隊と合流して、魔獣が隠れている平原に来ている。

 ミミズのような巨大な魔獣が突然土の中から飛び出してくるから、何人もの兵士が弾き飛ばされて大怪我をしている。


 「近くで見ると、小さい山が地面に潜ったり出たりするくらいの大きさがあるんだ、あんなに大きな魔獣は見たことがない」

 負傷者がでた部隊の隊長さんが説明してくれた。


 山ほどの魔獣ではとても太刀打ちできないので、遠くから毒矢を放ったり大砲を撃ったりしているが、なかなか弱らない。


 「集中攻撃したいが、土の中に潜ってしまってうまくいかないんだ、どこでもいいから縛ってくれないか?」

 どの程度の魔術を使っていいものか?大規模な攻撃魔法はこんな場所でも使用禁止だし、締め上げるにしても程度がある。


 「いくら魔術師でも無理だろうな、攻撃はできるだけでいいから怪我をしないようにしてくれ、傷の手当てはできるのかい?」

 どちらかというと、後方支援を期待されているようだった。


 それから一週間、後方のテントで傷や打撲の手当てをしているが、状況は変わらない。治癒魔法を使える人が他にいないので、軍人から感謝されながら過ごしている。


 「いつになったら終わるのかな」


 「師匠は私とずっとここにいたらいいじゃないですか」

 なんで?ナタリーさんは女性だからか、看護婦のように負傷者の手当てをしているが、わたしたちも冒険者だったよね。


 「あれほど巨大な魔獣相手じゃ、軍の作戦を冒険者が邪魔しないほうがいいんです、師匠みたいな魔術師は治療だけしていればいいんですよ、それだって特別な力なんだし」


 そうかなぁ、一カ月過ぎても状況は変わらないから、医者と看護婦コンビとしてすっかり定着してしまったが、わたしたちの使い方をまちがえている。


 さらに二カ月、わたしは医者ではないし、状況が変わらなくて待機しているのにイライラしてきた。だってユキに会えないし、保護者なのに連絡もしてこない。

 憎らしいミミズを爆破してしまいたい、と何度も考えているから魔術が少し発動してしまいそうになる、危ない。


 ナタリーさんがスキンシップ多めでなついてくれるけど、大型犬にじゃれてこられるようで、たまにうっとおしく思う。なんでユキは保護者に連絡してこないのかな、こちらから連絡したら、今忙しいから、なんていわれた。


 思いきって前線に出て一度魔獣を縛ってみたが、遠慮してしっぽだけ縛ったせいで、しっぽをちぎって逃げられた。


 「魔術師もなかなかやるな、思ってたより簡単に逃げられて」

とギルドマスターに笑われたり、ナタリーさんにかわいそうだと思われたりして、心がすさんでしまう。


 軍人たちもなかなか退治できなくて、時間だけが過ぎていく状況にストレスがたまってきたようだ。


 「もっとしっかり縛ってくれ!」

と包帯の縛り方に文句をいわれたり、か弱い魔術師なんて役に立たない、と罵られたりしている。なんでここにいるんだっけ?


 何をしてるのか自分でもよくわからないくらい遠慮して、怒られるなんて嫌になる。

 魔術を使って解決できないせいでイライラするなら、禁止されていない魔術を全部使ってしまえばいいと思った。 


 どうしてくれようか、何がしたい?ミミズを爆破したいがそれができないなら、イライラしないために一番いいのは、ユキをここに連れて来て話をきいてもらいたい。


 「ここはどこ?なんでよばれたの?」


 「ユキに会いたくて」

 農作業用の前掛けと帽子がかわいく似合っているユキが、手に摘んだばかりの薬草と花を持って現れた。


 「あなた今まで何していたのよ、師匠を放っておいて自分だけ逃げたくせに!」

 ナタリーさんが突然叫んだが、気にしない。おひさまの匂いがするユキを抱きしめると、心の中がほっこりする。


 「またユーリがへたれになってる」

とユキが笑うから、うんうんとうなずいた。


 「もう、やってられないわ!」

 ナタリーさんが乱暴に包帯やハサミを投げだして、テントから出て行った。


 「ユキと離れたくない」


 「それで?どうしたいの」


 「一緒にいたい」


 「そう、そういうときはなんてお願いするのかな?」


 「お願い、ユキさんと結婚したいです」


 「えー、いきなり!」


 頭の中で祝福のくす玉が割れて、リボンや紙ふぶきが舞っている。ミミズのおかげで世界一幸せな気がした。


 「ユーリ、ものすごく顔が崩れてへらへら笑っているから」

とユキが冷静に指摘する。


 ミミズの魔獣にも積極的に魔法を使っていこう。後で攻撃魔法扱いされるかもしれないけど、土の中で眠らせて、動けないように丸めて縛ったあと、退治しやすいように顔を土から出しておいた。


 ここまでしてあげたら十分親切でしょう?他に誰もいないので、治療用のテントからユキと二人でN国の白の塔に帰ってきた。


 「なんで大国②まで行ったんだ?」

とジーク様がいう。国内の冒険者組織を立て直してほしかったのか。


 「なんとなく?」

 N国の組織はお爺さんばかりでもう無理ですよ、と説明する。


 「やっぱり魔物退治は場所も近いし、今まで通り王立学院のアルバイトに頼んだ方がうまくいくのか。N国の組織が一番いい加減だよな、ドロシアに借りをつくりたくないのに」

 ドロシアに借りをつくりたくないのが、冒険者組織の立て直しを頼んだ一番の理由だったのか。

 そうだ、後でうるさくいわれるよりも、ついでだから早めにいっておこう。


 「ユキと結婚することにしました」


 「なんだって?」


 「えっ、今すぐに?」

 なんでユキが驚くの?

 




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