ユキの野菜畑
白の塔でユキも驚く結婚の報告をしたため、全く決まっていない異世界人の手続きや結婚をどうするのか、なんていう面倒な話になってしまった。
「よく考えて決めるんだ、ユーリみたいな魔術師と結婚するだけでも大変だろうから」
とジーク様にいわれて帰ってきた。
「この世界でわたしと普通に接してくれて、魔術師としてではないわたしと仲良くやっていけるのは、ユキしかいないんだ」
「選択の余地がないから決めたの?私以外に選べる人がいたらどうなの」
「最初から保護して、他の誰の所へも行かせたくなくて、毎日ユキのことばかり考えていて、今もこんなにがんばって説得しているのをなんて言えばいいの?」
「あはは、なんていうのかしら?私がユーリを好きなのも知らなかったのね」
知らないよ、言わないんだから。
ユキが見てほしいというので、久しぶりに畑を見て驚いた。トマスさんのではなくユキの畑があり、結界を使った薬草の温室まであった。
城の東側の平原がかなり畑に変えられていて、このままだと一面畑にしてしまいそうだ。
「私のやり方で育てているの」
というユキの畑は妖精が舞っていて、ひとつひとつの野菜がつややかに光っている。妖精使いの力とはこういうものなのか?果樹の苗も植えられているが、そのすべての苗に小さな木の精がついている。
「野菜の声がきこえるのよ、美しい花を咲かせたい、大きな実をつけたい、日光をたくさん浴びたい、葉を広げたい、もっと高く伸びたい、植物も人と同じで活発にいろんなことをいうし、病気にもなるし泣きも笑いもするの」
人間よりもはやい一生が毎年やってくる。自分の実を人間に提供することもわかっているそうだ。人よりも生に執着がなく、健康で美しい花を咲かせたり、大きな実をつけたりすることが生きがいらしい。
「狩られた草食動物が最後の瞬間に感じる気持ちと似ていて、肉食動物に自身を提供せざるを得ないと悟ったあと、自分が神聖な天の供物となり、この世界をまわしていく一部になる感じよ」
どんな気持ちだろう、わたしにはまだよくわからない。
「星からみたら、人も動物も植物も同じで、星で生まれてその上で育って活発に動いて、やがてまた星に戻ってくるかわいい生き物よ。みんなで星での暮らしを守っていって、うまくまわしていくことを望んでいるわ。
それができないなら、その生き物のサイクルが終わるか、星が終わってしまうもの。誰も終わりを望まないのに、私のいた世界はおかしなことになっていたけど」
恐ろしいことだ、そうならないために白の塔はがんばっているし、わたしもここでできるだけのことをしたい。
「植物は最初から自分の役割をわかっていて、誇りを持ってこの世界をまわしていくためになる実を提供するの。本当に美しい命のあり方だから、毎年美しく健康に生きてほしいと願わずにはいられないわ。
だから私は、土の中の環境を植物に合ったものにするためにお手伝いするの、今は魔法でできるから簡単よ」
ユキは簡単に平原を全て畑に変えてしまいそうだ、わたしにはできないしイーリは興味深いという。わたしに頼らず生きたい、というユキはどんな魔法をつくっていくのだろう。
城に戻ってユキと結婚について話してみたが、異世界の風習を知らないし、どうしてあげたらいいのかわからない。
「結婚ってどうするのかってこと?私の国では指輪を贈られるの。意味はわからなくていいから指輪がほしいわ」
へえ、なんで指輪?と思ったが、指輪を買うために王都で有名なアクセサリー用の魔石店に来た。
「こちらの魔石ですと、防御の力もありますよ」
と店員が高価な魔石の力を説明するが、ユキは魔石の色にこだわっている。
「いいえ、このきれいなグリーンの魔石でお願いします」
なんで?防御は必要だよ。
「結婚指輪は魔石の力が必要なわけじゃないのよ」
よくわからないが、なんの力もない指輪を指にはめてあげたら、思っていたより喜んでくれて驚いた。結婚のための指輪とは、不思議な風習だ。
「ユーリも、左手を出して」
ユキと同じところになんの力もない指輪があるだけなのに、不思議なあたたかい契約の魔力があるような感じがする、異世界の風習に従うのも悪くない。
王都の魔石店のある通りから裏通りに入ってしばらく行くと、両親が住んでいる家がある。
「ユーリのご両親に結婚の報告をしたほうがいいでしょう」
ユキはそういうが、魔術師と親兄弟はたいていうまくいっていない。
「一生にあと何回会うのかわからないなら、今は会っておいたほうがいいわよ、大丈夫私がついているもの」
幼い頃からわたしを腫れ物にさわるように扱って、その厄介者との縁が切れてやっと平穏な生活が送れる、と喜んでいる両親に申し訳ないが行くことにした。
表通りの大きな建物の陰が落ちる裏通りの、小さな家が並ぶ住宅街の中ほどにある、ごく普通の家の呼び鈴を鳴らすと思っていたより年老いた女性が出てきた。
「どうして帰ってきたの?近所の人に見られていないかい?何か悪いことでもして城から追い出されたんじゃないだろうね?」
いつもの心配性で気の弱い母が、近所の悪いうわさにならないか、ということだけを気にしているのをユキが見ている。
「はじめましてお母様、ユーリと結婚することになりました、ユキです。異世界人なので、唯一のこの世界の家族になります、どうぞよろしく」
ユキが母の手を握ろうとすると、ひっ!と声を上げて手を引っ込めた。
「ごめんなさい、驚かすつもりはないんです」
「わかったよ、ユンタの嫁が来るなんて思ってもみないから、おめでとう、でも近所に気づかれる前に帰ってくれないかい」
わたしは思った通りの反応だからしかたないと思うけど、ユキはがっかりしている。
母の故郷は王都から遠く離れたありえないほどの辺境にあり、わたしはそこで生まれたから不思議な田舎だと懐かしい気持ちがあるだけだが、母はその風習や方言を恥ずかしく思っていて、王都の人に対して未だに少しひけ目がある。
その上、わたしが魔術を使ってありえないことをしてしまう子供だったから、近所の人の目を気にしないでいられることがなかった。
「すみません、お邪魔しました」
ユキはかなり悲しそうにみえた。
「あなたの名前はユンタなの?」
「あ、ごめん、そうなんだ」
「謝ってほしいわけじゃないけど、今までのユーリのことをまるで知らないってことがわかったわ」
魔術師の子供の頃の話はたいてい暗いものだから、この国ではあえて話題にしない暗黙の了解があるけど、ユキにはわからないよね。
そのあと王城から、異世界人の結婚の承認ができるというので、白の塔に二人で来るようにという連絡がきた。
いまさら嫌になったなんて言わないよね?




