野菜畑
王立学院が休みなので、城の庭にある畑でユキの魔力実験をしようと三人で来ている。妖精研究者のイーリにとって、ユキの能力が妖精使いであるかどうかは重要なことらしい。
城の庭にあたる部分を野菜畑にしたのは、トマスさんにとって必要だったからだろう。生活のためにつくられたものだとしても、野菜の実が落ちて、朽ちて種が発芽して、成長して葉が茂って花が咲き、また実がなるように完全に循環させる、その魔法はいつ見てもすばらしい。
トマスさんの魔法の力はうまくはたらいているが、ユキがいることでさらに妖精の力が増している。
ユキが野菜畑に入って来ると、畑の中から小さな妖精たちが舞い上がる。あざやかな大きな蝶のような妖精が、光の中でキラキラ舞い踊る様子は、別の世界の中にいるようだ。
「ユキは妖精に歓迎されている、この力はなんだろうな」
イーリは熱心にその様子を書きとめている。
「ユーリには何だかわからないの?」
検査したら嫌がったじゃない。
妖精が舞うところを注目してしまうが、本質は島中の植物が反応して輝くところにあるのかもしれない。特殊な光魔法をカークも感じていたようだ。
「植物を成長させる力が日光より強いね、ユキの持つ魔力が作用すると成長するから、成長の魔力かな?」
「それってすごい魔力なの?あんまり強そうじゃないわね」
「他の誰にもまねできないからすごいでしょう、ユキの特殊な力だから」
へぇそうなんだー、という会話までイーリが書きとめている。そこまで重要なのかな。
城に戻って、イーリの話をきいた。
「ユキの魂がこの世界に定着していないこの時期に、妖精と親しいとその世界に引き込まれることがある。昔からそういう事はよくあったんだけど、その逆で、まちがえてここに来たけど、本当は妖精の世界によばれて来た可能性がある」
「ああ、前から私には妖精が見えていたからよばれたってこと?」
「そうなるかな、妖精の世界はこの世界と同時にここにあるけど、私たちには見えないんだ。エルフの伝説では妖精王に会った者もいるから、妖精王がいるのなら召喚されたかもしれない。そうでなければ、他の誰かユーリレベルの魔術師がよんでユキがここにいることになる。でも魔術師がよんだなら探すはずだし、その魔術の発動が誰にもわからないはずがない」
そうかな、妖精王の存在は白の塔では認められていない。
「ありえないと思うかもしれないけど、ユキには元々妖精の魂のようなものが入っているのかもしれないな。そういう種類の人が違う次元の世界にいるとしたら、この島によばれやすいだろう」
「それで妖精を見たり、植物と話せたり、星の気持ちがわかったりするのかしら」
星の気持ちまでわかるなら、妖精より妖精王に近い気がする。
「すべて私の仮定の話だから、絶対にそうだとはいえないけど、可能性はあると思う。もしそうなら、ユーリが贈った魔石のネックレスで、ユキとの契約が成立したのかもしれない」
は?何の契約が成立したの。
「ユーリがユキを拘束して、独占する契約になるかな。そのおかげで妖精王が連れ去らないなら、ユーリはうまくやったことになる」
「私はユーリに拘束されているの?」
「妖精王にそう見えているとするなら、うまくやったね。ユーリのせいで妖精王に会えないし、何でよばれたのかわからなくなったけど。さらに妖精王が様子を伺っているなら、ユーリがユキに対してきちんと責任を取らないと、仕返しされるかも」
なんだって!きちんと保護していたつもりだけど大丈夫かな。
「ユキは前の世界でも、特別な神の子供の近くにいた姉だっただろう?だからその特別な力がこの世界にも必要でよばれたのなら、ユーリがユキの側にいる資格のある人でなければ納得できないと思う」
つまり妖精王くらいの力がある人でなければ、仕返しされるかもしれないの?
「その自信があるんだろうね」
ないよ!
「ユーリが?大丈夫なのかな」
「もちろん、神や魔王といわれているから」
その情報いらないです、追いつめられて、泣きそう。
「そんな、妖精王なんてただの推測じゃないか」
「ユーリ、自信がないの?」
ここでユキに自信がないって言ったら、保護者としてもだめなのかな。
「ユキをここで保護していくなら、自信がないなんて言えないだろうね、ユーリ」
「そ、そうですね」
翌日からまた、ユキが魔術科で魔術の練習をするから付き添っている。あんまり上達してないけど、女の子が好きそうなお菓子を買ってあげてほめたり、ユキが好きな雑貨の店へ一緒に行ったりしている。
妖精王の存在を認めたわけじゃないけど、どこでみてるかわからないし、どこから仕返しが飛んで来るのかわからないから、警戒しながらユキが喜んでいるところをみてほしいと思っている。
妖精王さん、いるのならお願いしますよ、きちんと保護しますから攻撃しないで、と祈ったけどきこえているのかな。
祈りが届いたのか、元々妖精王がいなかったのかはわからないが、攻撃されることなく、三カ月で順調に魔術を習得して、ユキの特別生としての通学は無事に終わった。
魔力量が多いわりには、まだ基本的な魔術しか使えないが、いろいろな種類の魔術を使えるところは評価された。
「さすが、異世界人は違うわ」
とドロシアにほめられたが、まだ一般人レベルで、白の塔に所属できるほどの魔術師ではない。
しかし異世界人でこの魔力量の者を野放しにはできない。わたしが保護すると主張したが、すんなり認められない。わたしはどうしてこんなに白の塔で信用がないのかな?
とりあえず、白の塔でユキをどう扱うか、という話し合いをすることになった。




