冒険者
白の塔から呼び出されて、ユキと一緒にジーク様のところへ来ている。わたしは普通に出勤しただけだが、ユキは初めてなので緊張している。
ジーク様の見た目が、女の子には少し怖いせいだろう。
「ユキさんはユーリなんかと一緒にいると、恐ろしい目に合うかもしれないが、大丈夫かな」
わー、ジーク様には言われたくない。
「今のところ大丈夫ですけど」
「騙されているんじゃないか?ユーリのいいようにされていないかと心配しているんだよ」
「ユーリのいいように、ですか?ユーリはそんなことできるような人じゃないと思いますよ」
「ああ、そうだな、ユーリには多分できないな、それでも能力だけは誰よりあるから皆心配するんだ」
ちょっとまって、本人の前で言いたい放題だ。
「ユーリのことは無視して考えてほしいんだが、ユキさんはなにかやりたい事があるのかな?」
「いいえ、私ができることってあるでしょうか?」
「そうか!それならばよかった」
ジーク様がニヤリと笑った、悪い予感しかしない。
「ユーリと一緒に冒険者にならないか?」
なんだって?
「なぜかはわからないが、ここ数年で魔物が急に増えてきているんだ。それなのに白の塔にいるような力のある魔術師に頼ってきたせいで、冒険者の組織は怠けていてな、全体のレベルが下がっている」
魔王の代替わりと、ジルベスタの怠慢のせいですよ。
「ユーリみたいな魔術師が白の塔に増えたせいで、冒険者が魔物を退治することができなくなってしまうかもしれない」
ジーク様は、自分たちも含まれているのにわたしだけが悪いような言い方だ。
「そこで、原因のユーリと一緒に冒険者組織を立て直してもらいたいが、ユキさんは大げさに考えないで魔術の練習をしてほしい。ユーリがついているなら危険はないよ」
ジーク様は信じないだろうが、最近本当に妖精王の監視がある気がしているのに、ユキに何かあったらと考えると怖ろしいことだ。
「わかりました、実戦で訓練するんですね、がんばります」
なんでユキは、一般人並みしかない自分の魔術に自信があるの?理解できない。
「ユーリ、頼んだぞ」
断れないのかな、ユキはうれしそうに微笑んで、ジーク様はうまくやったと満足そうに笑っている。
「いや、そんなことユキと一緒に…」
「ユーリ、やりましょう!この世界を救うのよ」
ユキの頭の中が少しおかしい、異世界人はこの世界なんて救わなくていい、一番関係ないじゃないか。どんな本に影響されてそうなっちゃったの?その本の内容を理解しておく必要があるな。
どんなに嫌でも、白の塔でジーク様に逆らえる者はいない。
冒険者組織の立て直しなんて魔術師の仕事ではないから、どこから手をつけていいかわからないのに、ジーク様はいつも通りわたしに丸投げだ。
もっと冒険者組織のトップに話をつけておくとか、白の塔の力で命令しておくとか親切なやり方ができたはずだよね。
翌日、どうしようかと考えたが、とりあえずわたしたちが来たのは、世界で一番やる気のない近所にあるN国の冒険者組織だ。
「こんにちはー、すみません、受け付けお願いしますー」
扉を開けたが誰もいないN国の冒険者ギルドで、受け付けの人を呼んでみた。
誰も出てこない、留守みたいだから装備を買いに行くことにした。
小さな冒険者ギルドの隣にある、小さな武器屋に着いた。扉は閉まっているが、閉店しているわけではなさそうだ。無理やり扉を開けて中に入る。
「こんにちはー、誰かいませんかー」
「はいよー、いらっしゃい」
「冒険者を始めるので、装備が欲しいんですけど」
「なんでまた冒険者なんかに?危ないからやめときな、お坊ちゃんたちのやる仕事じゃないよ」
武器屋の店主がいうには、今どき冒険者を家業としているのは、昔から魔物退治を請け負っている家の年寄りばかりだそうだ。若者たちは危険の少ない魔術師を目指していて、昔ながらの冒険者にはならないらしい。王立学院でも魔法騎士を育てていて、剣術だけで戦える剣士は少なくなっている。
「冒険者ギルドは今、何をしているのですか?」
「ああ、ギルドのおばちゃんは、冒険者の爺さんたちと奥でお茶ばっかり飲んでるよ。本当に用事があったら奥まで行って依頼するんだ」
なるほど、冒険者のトップにジーク様が連絡を取らないわけだ。冒険者のレベルが下がっているなんていう状況ではなくて、絶滅寸前じゃないか。これがN国の組織だけだと思いたい。
「とりあえず、二人分の装備を一式お願いします」
こんなにかわいいお嬢さんに剣を持たせるのかい?と非難されたが、防具と小さめの剣を買った。
「ユーリ、どうやって着けるの?」
というユキに防具を装着して、剣を抜かせた。
「持ってみると重いのね、手が切れそうで怖いわ」
剣を持ったこともなかったんですね、平和な世界から来たくせに、なんで冒険者なんてやりたがったの?
本当に危ないから、剣先だけ本物にして後は魔法で軽い素材に変えた。
「やった!これなら使えるわ」
それはもう剣ではないよ。
冒険者ギルドに戻って奥まで入ると、扉の向こうからおばちゃんの笑い声がした、控え室のようだがここだろう。
「こんにちは、冒険者の登録をお願いします」
「あらまあ、あなたたちが?大丈夫なの?無理しちゃだめよ」
商店街のおばちゃんがひまだから手伝いに来ているようだ。本当に現役冒険者のお爺さんたちとお茶を飲んでいたが、手続きをするために書類を用意してくれた。
「書類に必要事項を記入したら、王立学院の奥の森で小さな魔物を退治して来てほしいの、できるだけでいいのよ、無理しないでね。
倒した魔物を見せてくれたら、Fランクの冒険者証を発行するわ、がんばってね」
ユキとわたしが魔術師で冒険者の申請をすると、ありえないものでも見るかのようにびっくりしていたが、手を振って送り出してくれた。
それでは、がんばって行って来ます。




