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白の塔の魔術師   作者: ちゃい
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イーリ

 もう認めるも認めないもなく、彼らはいらっしゃいます。

 さらに上の九階をノックすると返事があり、耳の尖った人が出てきた、エルフの青年だった。銀色の長い髪にはエルフ独特の古風な飾りが付いていて、鋭い目は薄いブルーで年齢は百才以上になるそうだ。


 書斎に案内されて椅子を出してもらった、壁の本棚にはぎっしり資料が詰まっている。周りは本だらけで埋もれるように大きな机と椅子があり、そこに彼は座った。


 「私はイーリ、妖精と魔術の研究者でここに派遣されて来ている」

 彼は五十年前に来たが、その前には彼の姉がトマスさんと共にここにいたそうだ。なんだ、トマスさんには妻のような女性がいたのだな。

 トマスさんがいなくなった後、エルフの里では傷心の姉を里に帰し、まじめな研究者である弟を派遣した。


 「私はトマスさんに会ったことがないし、兄とも思えない。資料を残してくれたから研究者としては感謝しているけど」

 そうだ、トマスさんは彼の姉に骨一本どころか、一片も残さずハーメンランドのドラゴンの卵に吸収されてしまったのだ。亡くなり消滅して、その後彼女は五十年もここを去ることができなかった。弟としてはいい気持ちではなかっただろう。


 「昼間は猫とドワーフがうるさいんだ、たまに妖精がうろうろしてる。でも彼らには彼らの国の生活習慣があるから干渉しない」

 イーリとはなぜか同年代のように気安く話せる。


 「ユニコーンは弱って休んでいるから用がない時は行かないよ、古い話をもっときいておきたいけどね。あの伝説の鳥は見かけたらラッキーだ、この土地を気に入ってたまに帰って来るけれどあまり見ないよ、私が部屋から出ないせいかな」

 わたしにも気付いていたが、気味が悪いからあえて近づかなかったという。


 「みんなユーリが来てから少し警戒しているし、様子をうかがっている。私もそうだしユーリもそうだろう?急に部屋がきれいになったりするから、昼間もユーリがいる時だけ静かだったよ。外壁になぜあんなにこだわるのだろうか、とか」

 汚いから磨いたのに。

 

 「百年ぶりに主が帰って来るとドラゴンが言っていたからね。ドラゴンに会うなんて久々でびっくりしたよ」

 しかもトマスさんの転生だから、って知ってるかな。


 わたしはイーリと話すのが楽しくなっていた。自信はないが、お互いに友人だと思っていると思う。


 N国に帰ると夢ではないかと思うのだ。ドロシアとアンリの話をきいていると、ぼんやりする。イーリが古代魔法について語ったことを、頭の中ではくり返している。


 最近アンリと宰相様の執務室に呼び出され、苦情をきかされた。


 「家の中が魔石だらけでね、大変なんだよ」

 奥様の目が悪いことを承知で頼んでしまいましたが、サシャがやらせたのですよ、かなり助かりましたけど。とにかく、その分の魔石を自分たちで作れという命令で、わたしも白の塔の在庫部屋が埋まるまで手伝うことになった。


 「あの後結局一度も帰って来ませんでしたね、本当に二人だけになるなんて思いませんでした」

とハーメンランドの事をアンリに言われて、逆らえません。その後、アンリが一人で行きにくい王立学院にも付き添っている。


 わたしの時と同じく、カークとハルの授業があり、一緒に注意事項をきいた。アンリが衝撃を受けているのを黙って見ている。言われた時はひどい事を、と思ったが、ここまで初めに言ってくれるのは親切なことだ。


 魔法は心ない人に使われたら、恐ろしい事になるのだ。攻撃すれば見返りがあり、心は操るものではない、浄化も大きければ恐怖だし、嫌われる。


 夕方になったので、先に帰って魔の国に来た。


 三人のメイドは、気安くはできないが魔王様と話をするようになったそうだ。しかしメイドの仕事をしながらなので、ずっと一緒にいるのはジルベスタになるが、そのジルベスタはまだ魔王様と一線をひこうとする。子供にもわりと簡単にわかってしまうというのに。

 実は学校でも、授業の時以外は少し遠慮があるようだ。

 N国の学校でも、少し魔力量が多いだけで心を開いてもらえないくらいだ。わたしもアンリもそうだったから、ここで魔王なら仕方ないのかな。でも子供の頃の淋しい思いは、大人になっても残るんだけど。


 「ユーリ、今日もいい子だったよ」


 「それはよかった、今日もみんなで夕食にしようね」


 「うん、先生は今日もいい子ねって言ったよ」

 

 「偉かったね、今日はジルベスタと宿題をしようか」


 「うん」

 ジルベスタを魔王様の隣に座らせた。魔王様は勉強好きで、宿題を始めたら静かにずっとやっている。初めの印象よりも、おとなしくて賢い女の子だ。


 城内に魔族の人が少ない理由をきくと、魔の国の国内に大人が少ないということだった。

 優秀な魔族は大国①②やセルキアへ働きに行って、魔の国へ仕送りしている人が多い。援助はあるがぜいたくはできないし、情報も文化交流もないので、どうしても外へ出て行く大人が多くなるのだ。

 仕送りがあれば援助を増やせと言わなくなるし、N国のように魔力にうるさい国でないなら、目の色と服装を変えれば違和感がないので、ほとんどの魔族の人は大国へ行っている。


 両親がいなくて、祖父母やメイドと暮らしている子供が多いのは仕方ない。だから魔王様だけではないのだが、ここには仕送りや便りもなく、身内の人もいない。まだ小さな女の子なのにかわいそうだから、魔王城にはなるべく、N国のお菓子などを持って来るようにしようと思う。


 中央の島に戻るとイーリが待っていた。


 「ユーリは念話ができないんだね」

 そう、技術的な理由でうまくできないと思っている。


 「ユーリは受信できても送信できていない。それはね、ユーリが言葉を送りたいと思うほど、相手を思っていないからじゃないかな」

 連絡をとりたいとは思っているけれど。


 「送信すると同時に停止してしまうのではないかな。会話できないのは、ユーリが自分の考えを相手に伝えたくない、と思っているからだよ」

 イーリは悲しそうな顔をしている。


 「これは心の問題だよ、無理しないで練習してごらん。私には何を送信してもらってもかまわないから」

 そうなのか、わたしは誰に対しても心を開いていないことになる。


 「トマスさんはできなかったらしいよ」

 わたしとトマスさんは似ているのだな。


 「イーリを信用していないわけじゃないんだ」


 「わかっているよ、ユーリの心のくせのようなものだ」


 「送信してみるよ」


 「わかった」


 (送信するよ)


 (わかってる)


 (おおっ、できた)


 (よかったね)


 (これは、普通に話した方が早い)


 「練習だからいいよ」

 もっと練習しようかと思ったが、アンリやドロシアのこと、魔王やジルベスタのこと、ドラゴンの洞穴のこと、どれも話せないかな?それでも緊急の時は役にたつよね。


 



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