第1話 尋問と居場所
――日本 京都――
――これで3人目。
予想通り《希望の闇》は、清水寺にいた大槌のあの男だけではなかった。
そして時間が経つにつれ、疑問と焦りも募ってきた。
疑問というのは、敵が以前学園を襲ったデルバードや武蔵よりも数段劣る格下ばかり、ということだ。
あの2人が桁違いに強い、ということはないだろう。一国―――軍事大国アメリカを破壊できるテロリスト集団の全力は、あんなものではないはずだ。と考えれば、もっと強い人がどこかにいるはずだ。
そして焦りは……未だにアキが見つからないことだ。目撃情報はおろか、手がかりといえるものは何一つない。
《希望の闇》と戦っている間も多くのケガ人を見てきたが、そこにアキはいなかった。
「既に避難したのか、あるいは……。
クソッ! この後の予定を訊いておくんだった!」
ホバリングしながら上空から市街を見渡していると、どこからか女の人の叫び声が聞こえてきた。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「ほらもっと喚けや!」
声のした場所に急降下すると、見覚えのある女子学生が襲われていた。あれは……日笠の取り巻きの1人、確か山木だったかな。
ま、名前はこの際どうでもいい。ようやくアキの居場所を訊けるかもしれない!
相手の男は右手に鉈を持ち、左手には水流を纏っていた。明らかに《希望の闇》の戦闘員だ。
俺は急降下して両者の間に割り込むように着地すると、戦闘員の左手を水流ごと凍らせた。
「なっ―――その制服、煌華の生徒か!」
「あんた、坂宮……」
戦闘員の鉈をミステインで弾き飛ばして武装解除すると、間髪入れずに全身を氷の中に閉じ込めた。
「これで4人目。全く、どんだけ来てるんだよ。」
「あんた、どうして……」
俺は震えて腰を抜かしている山木の元に歩くと、手を差し伸べた。
「ち、近寄らないで……」
「命の恩人に対してその扱いかよ。
まぁ、拒絶するならそれでいいや。」
手を引っ込め、早速本題に入る。山木を助けたのは助けたいからではない、アキの居場所を訊くためだ……他意はない。
「1つ良いか? お前らの午後の予定を教えてくれ。俺はアキを探さなくちゃ―――」
「藤ヶ峰さんなら……連れて行かれたわよ。」
「連れて行かれた」その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
「連れて……いかれた? どこに!」
「し、知らないわよ! あいつら、あたし達くらいの年の人を捕まえてどこかに連れて行っちゃったんだから!
あたしだって、逃げるのに精一杯だったんだから!」
この様子だと本当に知らなさそうだな。だとしたら、こいつに訊くしかないか。
さっきの戦闘員を覆っていた氷を解除すると、ミステインの切っ先を喉元に突き立てた。
戦闘員は俺の顔と剣を見ると、犬歯を剥き出しにして笑った。
「テメェ知ってるぞ。煌華学園の生徒、《銀氷の剣士》坂宮涼也だな?」
「そんなことはどうでもいい、質問に答えろ。
捕らえた人達はどこに連れていったんだ?」
「ケッ、知らねぇな。」
いかにも尋問を受けた時の悪役のセリフを吐くと、戦闘員はそっぽを向いた。
仕方ない、あまりやりたくはなかったけど―――
「答えないならいい。その代わり足が壊死していくからな?」
「アァ?」
戦闘員は怪訝な顔をすると、足元から氷が徐々に登ってきているのに気が付き叫び声を上げた。
「おい坂宮! やめろや!
それ以上したら、テメェ人殺しになるぞ!?」
たしかにこの氷はマイナス100度近い。いずれは全身を覆い尽くす前に、心臓麻痺を起こして死にかねない。
「テロリストに警告されるなんて……お前が話せば止めないこともない。
だから早く教えろ。」
「くっ……」
戦闘員はうなだれると、下半身の感覚が無くなっていくのが怖くなったのか、ようやく居場所を吐いた。
「……二条城だ。」
「二条城? そこで何をしてるんだ?」
かの有名な江戸幕府15代将軍、徳川慶喜によって大政奉還が行われた場所だ。
「んなこたぁ知らねぇよ!
俺みたいな末席には『若い男女を連れてこい』としか言われてないんだよ!」
……この必死さからすると、本当のことなのだろう。
これ以上は訊いても何も得ないと判断すると、氷の進行を止めた。不本意ではあるが、一応約束だからな。
「分かった。協力感謝する。」
「お、おい! 早くこの氷を解いてくれよ!」
「どうして? ちゃんと止めただろ?」
「はぁ!? そんな言葉遊びみたいなことすんじゃねぇよ!
さっさとこの氷を解けよ!」
サイレンの音が響く住宅街に戦闘員の叫び声が広がった。これ以上喚かれると人が寄ってきそうだ。
「……ならもう1つ訊く。なんで《希望の闇》は煌華学園の生徒を狙ったんだ?
それを言ったら解いてやる。」
すぐには解いてもらえないことを理解した戦闘員は、舌打ちすると話しだした。
「計画の邪魔だとか言ってたけど、それ以上は知らねぇよ。」
計画……二条城のそれと何かしら関係があるのか?
「んで、その計画の内容は知らないんだな?」
「さっきも言っただろ! なんにも知らねぇんだよ!」
ならもっと上のやつに訊かないとダメか……。二条城に人が集められている事が分かっただけ良しとしよう。
「……分かった。
約束だ、氷は解いてやる。ただし、もう誰も誘拐するんじゃねぇぞ?」
「――――。」
渋々氷を解除すると、戦闘員が何かを呟いた。
「え? 何だって?」
「甘いんだよ! 《銀氷の剣士》さんよ!」
戦闘員はポケットから拳銃――らしき物を取り出すと、それを真上に向けた。銃身が筒状になっているそれは、映画で見たことがあった。
「―――っ! 信号弾か!」
「いくら《銀氷の剣士》と言えど、大人数相手に生きてられるわけないもんな!」
戦闘員は勝ち誇ったように笑うと引き金を引いた……が、なにも起こらない。
「……は!? どうなってやがる!」
戦闘員は何度も引き金を引くが、装填された信号弾は発射されない。
なぜなら―――
「発射されるわけないだろ? 中身が凍りついてるんだから。
信号弾の存在は、最初にお前を凍らせた時から分かってたからな。」
「なっ―――!!」
戦闘員は顔を真っ青にして目を見開き、口をあんぐりと開けた。
無理もない。策が呆気なく破られた上に、俺の背後には多量の氷のつぶてが浮いているのだから。
「初めからテロリストと交渉する気はないに決まってるだろ。それに相手が信号弾持ってるなら尚更だ。
そこでおとなしく寝てろ。」
氷のつぶては俺の合図で、戦闘員に向かって掃射された。
まともにつぶての掃射を食らった戦闘員は近くの店の中に吹き飛ばされると、倒れてきた棚や商品の下敷きになった。
「坂宮……あんた……」
山木の顔からは血の気が引いていた。俺があいつを殺したとでも思っているのだろうか。
「大丈夫、さすがに死んではないはずだ。
テロリストとはいえ《超越者》なんだから、あれくらいの衝撃じゃ死なないさ。」
「そ、そう。」
山木は小さく息を吐くと、立ち上がって土ぼこりを払った。感謝の言葉は……やっぱり無しか。
「んで、どうすんの? まさか二条城行くなんてことしないわよね?」
「ん? なんだ? まさか心配してくれんのか?」
冗談で言ったつもりだったのだが、山木は心底あり得ないとでも言いたげに顔をしかめた。
「……じょ、冗談だよ。
もちろん二条城に行くよ。山木、もちろんお前も連れてな?」
「はぁっ!? 何であたしまで!?」
「嫌なら別にここにいてもいいけど、また別の戦闘員に捕まるかもしれないぞ?」
「う……」
山木はしばらく考えるような素振りをしたあと、嫌々だが付いてくることを決めてくれた。
「分かったわよ。
はぁ、こんなやつと一緒にいるところを見られたら、蘭さんに何て言われるか……」
「そういえば日笠はどうしたんだ?」
「……捕まったわよ……逃げてこれたのはあたしだけ……」
「なるほどな。だとしたら、山木が来るメリットは2つになるわけだ。」
「どういうこと?」
「1つは山木自身の保身。これはさっき言った通りだ。
もう1つは、仮にアキ以外にも捕まってる人を解放したとしてそこに日笠もいるはずだ。けどあの日笠が素直に俺に付いて来るとは考えづらい。そう考えたら、1人でもあいつの友人がいた方が良いだろう?」
2つの理由を聞いた山木は、信じられないと目をしばたかせた。
「あんた、あれだけ蘭さんに言われてたのに、どうして助けるなんて言えるの?」
…………
「……さぁな。自分でも分かんないな。」
いや、本当は分かってる。
例え俺達を侮辱した人だとしても、日笠は顔も性格も見知った元クラスメイトだ。知り合いを見捨てるほど薄情になったつもりはない。
ただし、助けたあかつきには、《超越者》全体を声に出して侮辱したことを謝ってもらうけどな。
「ほら、行くぞ。ちなみに、歩いたら疲れるから飛ぶからな?」
「は? 何言って――ぇぇぇぇぇ!」
山木の背中にも氷の翼を生成すると、俺達は二条城に向かって飛び始めた。




