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episode3-5

本を読み始めてからもう5時間くらい経っただろうか。ここの本は分厚いものが多く一冊読むだけでも相当な労力を要す。現に今、モッカフと言う名の人物が書いた手記以外に一冊しか読めていない。こんなに膨大な量をディアナがすでに読んでいることにも驚いたが、もっと驚いたことがある。それが今手にしているこの本だ。


この本には検閲に引っかかるような内容も表記も一見ないように思われる。しかし、この国で禁止されている本の多くがこの国の歴史に関わっているものであるとしたら………。


「入りますよー」


急に声をかけられて、驚きながらも応答した。入ってきたディアナは帽子を深くかぶっていた。


「どうして帽子をかぶっているんだ?」


「見つかったら、いつ迫害されるかわからないじゃないですか。私がこの帽子を脱ぐのは、誰の目も届かないこの部屋だけです。気づいているかもしれませんが、実はここ屋根裏なんです」


ディアナが帽子を脱ぐと、1つに束ねられた長い髪が緩やかに解かれていった。そして再びあの黄色の目が姿をあらわす。


「…あなたのためにご飯持ってきたの。店は一旦休みにしたし、一緒に食べない?」


「ああ、できればそうしたい」


「この国の伝統料理なんですけど……お口に合えば嬉しいです」


「これは、米か…?」


「はい、もち米です。こうやってお肉で挟んで食べると、美味しいんです。私が1番好きな食べ物です」


「うん、うまい」


「それは、よかったです。…あの、私あなたに聞きたいことあるんですけど」


ディアナはおずおずと身を縮こませて言葉を続けた。


「名前…なんて言うんですか?」


「俺の名前?…俺、よくこの国にも来るから知ってるかと思った」


「何処かの国の王子様ってことは兄から聞いたんですが…私普段外に出ないので、そういうの疎いんです」


「…そういうことか、俺はシアン・ソムニウム・パタトゥライアと言う。シアンって呼んでくれ。言い忘れてたけど、これから敬語とか使わなくていいからな」


「変わった人ね。でも、第2姓があるあたりやっぱり王族なのね。しかもパタトゥライアって隣国じゃない。自分の世間知らずさを思い知らされる」



そういってディアナはため息をついた。



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