居舞の決心
晦日。年の瀬もいよいよ極まり、家の大掃除もようやく終えてゆっくり過ごし始めるころ、優は高鳴る鼓動を必死で抑えながら家を出た。
先日、加納から直接連絡があり、この日ご飯でもどうかとのお誘いがあったのだ。というのも、元はと言えば佐伯が仕組んでくれたものであった。彼曰く、加納にデートに誘うよう仕向けておくから、その時にでも告白したらいいとのことで、覚悟は彼のメッセージを受け取った時から、この数日の間で何とか決めはしていた。しかしやはり、いざ自らの想い人と告白を前提に会うと思うと、緊張は免れ得ぬものだった。
加納は、ただ佐伯から誘うように言われたとだけ言っており、その真の目的は知らないようだった。だからこそ余計に、優は身体のこわばりが解けないままだったのだ。
「・・・・・ふぅ」
待ち合わせは、駅前のレストランだった。それも大衆向けのものではなく、学生が行くには少々値の張る店だった。バッグに入れた財布はいつもよりかさばったものの、優はそんなことを憂いている余裕も無かった。
何と言おうか。どんな顔で言おうか。どのタイミングで、どんな雰囲気で言うべきか。否、レストランの選択からも、もしかしたら、万が一にでも、加納の方から告白されるという可能性もある。思い上がりとは知りつつも、優は一度その可能性が頭に浮かぶと、脳裏に張り付いて離れなかった。
だが反面、そう思うと自然と表情もにやけてしまい、下心が全面に表出してしまった。そのため、いつしか、考え始めると止まりそうにもない妄想を、頭から排除するのに彼女は必死になっていた。
「――――ふふ」
今日という日の為に、優は本当に周囲に支えられてきた。
加納を明白に好きになったのは高校入学後であったが、昨年の夏休み前には既に佐伯に相談し始めていた。その後、彼は冗談を交えつつ、真摯に彼女の相談相手として助言を与え続けてくれていた。また、今回のセッティングも彼の力添えを無しにはきっと実現しなかっただろう。
梨花と悟史は、そもそも生活の支えももちろんだったが、この優の恋路に関しても様々なアドバイスをくれた。登下校時に毎回会って話をすればいいと勧めてくれたのも彼女らで、元々内向的な性格だった彼女が想い人と、問題なくお話しできるようにと、毎回話題をいくつか提案してくれたり、話す際の相手へ好感を与えるコツを教えてくれたりと、今までの進展は特に二人の協力の占めるところが多かった。
また梨花は、この日のお化粧とコーディネートも請け負ってくれた。鏡で見ても、優自身勇気が出るくらい可愛く着飾らせてもらい、本当に感謝の念が尽きなかった。何故だか見送る際に梨花は満面の笑みで鼻血を垂らしていたのだが、自信を持つよう促してくれていた。
そして悟史に至っては、家庭内での彼女の、生きる支えになるだけでなく、精神面においても大きな力をくれた。悲しいこと、辛いこと、悔しいこと、苦しいこと・・・。とにかく彼女が落ち込んで帰ってきたなら、すぐにその気持ちを汲み取り、その時々に応じて最適な対応をしてくれた。励ましてくれることもあれば、一切詮索しようとせず放ってくれたこともあった。反対に、その胸を貸してくれたこともあれば、愚痴を延々と聴き、一切の反論も無く共感してくれたこともあった。本当に、あらゆる面で優は従弟に頼りきりだったのだ。
これから告白をして仮に承諾されたとしたら、いずれ普段の外面だけでなく、こういっただらしのない自分も曝け出すこととなってしまう。しかし、それでも構わなかった。加納は、それだけの信頼をおける相手だと、彼女は判断したのだ。
だから、とにかく今は全身全霊を以て、自分の気持ちを彼に伝えることに集中しようと思った。それが、支えてくれた人たちへの恩返しにもなると思ったのだ。




