佐伯の苦悩
「お前、マジで言っとうと?」
佐伯に自身の決意を報告すると、彼は以前一度だけ見せた、いつにない真剣な面持ちで訊き返してきた。
「おう、もう俺の心の中でそう決めたけん。
今まで、ありがとうな。相談に乗ってくれて。お前、居舞さんと関わりないのに」
「――――」
きっぱりと言い放つと、彼はよほど衝撃的だったのか、ふざけることも忘れて驚いているようだった。
「・・・・お前。
本当に、それでエエと?」
「なんべん言わすんや。やけん言っとうやろうがちゃ。
俺は、居舞さんは諦める。ほんで、鑑奈を選ぶんやっち」
再度、清はきっぱりと言い放った。その目や声に迷いはなく、本心からそう言っているのだと、彼をよく知らない人でも分かるほど、彼は堂々としていた。
「・・・ふぅん、そう・・・、か」
「・・・?
どした? なんからしくねえな、最近」
年末、年越しまで残り三日ほどしかないにも関わらず遊びに来た割に、彼の様子はどこか素っ気ないものだった。そもそも遊びに来たのも、一切の宣告も無かったものだから、いつも用意周到な彼にしては珍しいとは思っていたのだが、つくづく読めない男である。
「んふ~、それがねぇ、聞いてくらっさいよ奥さん!」
「誰が奥さんや」
しかし、彼が不審に思うのを待っていたかの如く、彼は平常通りのテンションへと瞬く間に回帰した。
「それがですねぇ~、しんちゃん。
なんか、佐伯とかいうようけ分からんけどイケメンで、背も高くてスポーツも万能で、ましてや頭も良いとかいうけったいな男の子から言伝を頼まれちゃって!」
「・・・・いや、お前は誰やねん」
先程までの真剣なムードは一体何だったのか。丸ごとひっくるめて、情緒不安定というボケのつもりなのか、嘘のように明るい雰囲気で彼は露骨にキャラを変えた。
それには若干置いていかれ気味になりながらも、清は内心でホッとしながらいつも通りのツッコミをしていた。佐伯が感情的になることは滅多にないため、その分真剣な空気になると本当に怖くなってしまうのである。
だが、次の瞬間だった。
「お前、その神岡さん?に会う前に、一回委員長と会っとけよ」
満面の笑みから一転、一切の朗らかさを打ち消し、彼は睨みつけるように言い放った。以前、駅前で清に壁ドンした時と、同じ目をしていたのだ。
「え――――」
「絶対やけんな?
そっちのケジメも、ちゃんとつけろ」
要するに、諦めるかどうかは実際に会ってから決定しろということだろうか。ずっと相談してきていたとはいえ、なぜこんなにもムキになって忠告するのか、清には理解できなかった。
ただ一つだけ分かったのは、佐伯が何かしらの考えがあって、冗談ではなく本気で訴えかけているということだった。
「お・・・、おう」
「――――うむ、分かればよろしアルネ」
押され気味に承諾の返事をすると、佐伯は目を細めながら、口角をぐいっと吊り上げ、再び唐突なジョークを入れ始めた。
彼の真意は分からないままだったが、彼は何かを勧める時には絶対に間違ったことは言わないという信頼があったため、不可解には思いつつも、清は彼の言うことを素直に呑むこととした。




