神龍カミル、降臨
空気が震えた。
王都の外れ。
雲がゆっくりと押し広げられていく。
巨大な魔法陣。
その中心から現れたのは。
純白の鱗を持つ龍。
真紅の瞳。
一本一本が芸術品のように輝く角。
その姿は、ただ大きいだけではない。
そこに存在するだけで。
周囲の魔力が静かに従っていた。
「……。」
神捕獲隊。
誰も動けない。
「神龍……。」
魔導師の一人が震える声で呟いた。
「伝承上の存在だぞ……。」
「召喚した……?」
「違う。」
隊長が静かに言う。
目はカミルから離れない。
「呼び寄せたんだ。」
「主の呼び声に応えた。」
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「ミル。」
千乃が呼ぶ。
巨大な龍は、その大きな頭をゆっくり下げた。
「久しぶり。」
『うむ。』
低く響く声。
しかし。
不思議と優しい。
『我が主よ。』
『ようやく、我を呼ぶほどの力を得たか。』
千乃が少し困ったように笑う。
「呼び方、それでいいの?」
『問題ない。』
『我は汝の神龍。』
『そして。』
少し間を置く。
『ミルだ。』
「……。」
ララが目を輝かせる。
「喋った!」
ライは静かに頷いた。
「当然だ。」
「神龍ともなれば知性は人を遥かに超える。」
アイシィも嬉しそうに近付く。
「初めまして。」
『うむ。』
『氷の竜か。』
アイシィが少し驚く。
「分かるんですか?」
『同じ竜の気配だ。』
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一方。
神捕獲隊。
完全に予定が狂っていた。
「……。」
「対象。」
「神格保持者。」
「さらに神龍を保有。」
記録係が震える手で書き込む。
隊長は目を閉じる。
「報告書を書き直す必要があるな。」
「危険度を変更しますか?」
「当然だ。」
「では……。」
少し沈黙。
隊長は答えた。
「測定不能から。」
「規格外へ。」
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しかし。
千乃は首を傾げていた。
「ミル。」
「お願いがあるんだけど。」
『何だ。』
「この人たち。」
千乃は神捕獲隊を見る。
「傷つけないで。」
ミルの赤い瞳が細くなる。
『……。』
『主よ。』
『我らに敵意を向けている者たちだ。』
「うん。」
千乃は頷く。
「でも。」
「倒したいわけじゃないから。」
その言葉に。
真銀は少し目を細めた。
いつもの千乃だ。
神の力を持っていても。
根っこの部分は変わっていない。
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ミルはしばらく黙っていた。
そして。
『承知した。』
大きな翼を広げる。
その瞬間。
神捕獲隊全員が身構える。
しかし。
攻撃ではなかった。
風圧だけで。
全員の足元へ線が引かれる。
「……。」
「これは……。」
「警告。」
隊長が理解する。
「ここから先へ踏み込むな。」
『我が主を害する意思があるなら。』
『次は止める。』
静かな声。
だが。
その言葉には絶対的な力があった。
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隊長は剣を握ったまま。
千乃を見る。
「なぜだ。」
「なぜそこまで力を持ちながら。」
「我々を消さない。」
千乃は少し考えた。
そして。
「嫌だから。」
「……。」
「殺したり、壊したり——そういうの、私は嫌。」
隊長は黙る。
千乃は続ける。
「強い力って、好き勝手するためじゃないと思うから。」
風が吹く。
六枚の翼が揺れる。
その姿は。
確かに神に近い。
しかし。
言葉はどこまでも人間だった。
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しばらくの沈黙。
やがて。
隊長は剣を下ろした。
「……。」
「撤退する。」
隊員たちが驚く。
「隊長!?」
「目的は捕獲。」
「だが。」
老人は千乃を見る。
「今の彼女を見て、我々は判断を間違えていた可能性がある。」
「神とは。」
「力だけの存在ではない。」
千乃は少し驚く。
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しかし。
去り際。
隊長は振り返った。
「千羽千乃、次に会う時」
「我々は敵ではなく——答えを探す者として会う。」
そう言い残し。
神捕獲隊は王都の外へ消えていった。
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「終わった……?」
千乃が呟く。
真銀が苦笑する。
「たぶん。」
ララがミルを見上げる。
「ねぇねぇ!」
「大きい!」
「もふもふ?」
『……。』
ミルは少し困ったように目を細めた。
『我は龍なのだが。』
「でも触っていい?」
『……。』
少し間。
『主の仲間ならば、許そう。』
「やったー!」
ララが駆け寄る。
その様子を見て千乃は小さく笑った。
神になっても、龍の友達がいても。
世界最強の敵に狙われても、結局。
千乃の日常は——少し騒がしいままだった。




