変わったもの、変わらないもの
千乃が帰ってきた。
その知らせは、瞬く間に広がった。
冒険者ギルドでは歓声が上がり。
恋愛ギルドでは、なぜか大量の書類が飛び交った。
「特別観察対象No.001、生存確認!」
「更新です!」
「査定項目に“失踪耐性”を追加してください!」
「そんな項目ありません!」
いつものような騒がしさ。
それを聞いた千乃は、少しだけ安心した。
「……変わらないなぁ。」
「何が?」
真銀が尋ねる。
千乃は笑う。
「みんな。」
「私がいなくなっても。」
「ちゃんといつものみんなだった。」
真銀は少しだけ目を細めた。
「当たり前だろ。」
「お前が帰ってくる場所だからな。」
その言葉に、千乃は少し照れたように笑った。
---
星の箱へ戻ると。
ララはすぐに千乃の周りを飛び跳ねた。
今は真っ白なうさぎの姿。
「本当に大丈夫!?」
「痛いところない!?」
「変なところない!?」
質問が止まらない。
「大丈夫だよ。」
千乃が笑う。
「ララ、落ち着いて。」
「だって!」
「千乃、突然消えたんだよ!?」
「もう二度と会えないかと思ったんだから!」
その言葉に。
千乃の表情が少し曇る。
「……ごめん。」
ライが静かに近付く。
「謝る必要はない。」
「だが。」
蒼い瞳が千乃を見る。
「何があったのかは聞きたい。」
千乃は頷いた。
「うん。」
「でも……。」
少し困ったように眉を下げる。
「私も、よく分からないんだ。」
真銀が腕を組む。
「分からない?」
「白い場所にいた。」
「誰かと話した。」
「神様……みたいな。」
その言葉に。
ライの耳がぴくりと動く。
アイシィも反応した。
「神様……。」
「でも。」
千乃は首を振る。
「神様だけじゃなかった。」
「もう一つの気配があった。」
「魔王……?」
アイシィが小さく呟く。
千乃は頷いた。
「たぶん。」
「でも、怖くなかった。」
「どっちも。」
その時。
ララが首を傾げた。
「じゃあ、千乃は強くなったの?」
「うーん……。」
千乃は自分の手を見る。
「たぶん。」
「何か変わった気はする。」
その瞬間。
ぱち。
指先に小さな魔力が灯った。
いつもの真紅。
……だけではない。
一瞬だけ。
金色の光。
そして黒い影。
二つが混ざる。
「……。」
真銀が目を細める。
「今の。」
「見た。」
千乃も驚いて手を見る。
「え?」
「今、何か……。」
もう一度魔力を出す。
しかし。
そこにはいつもの真紅しかない。
「消えた?」
ライが低く呟く。
「いや。」
「存在している。」
アイシィが千乃を見る。
「でも、眠っている。」
千乃は困ったように笑った。
「何それ……。」
「自分の力なのに分からない。」
その時。
星の箱の奥。
巨大な魔法結晶が反応した。
ピキッ。
小さな音。
全員が振り返る。
「……?」
ノエルが慌てて駆けてくる。
『お嬢様。』
『星の箱の管理核が反応しております。』
千乃が目を丸くする。
「管理核?」
ノエルは結晶を見る。
『はい。』
『本来、反応することのない存在に反応しています。』
真銀が警戒する。
「誰にだ。」
ノエルは静かに答えた。
『お嬢様自身に。』
空気が止まる。
千乃は自分を見る。
「私……?」
結晶には、新しい文字が浮かんでいた。
今まで存在しなかった表示。
――
**神魔境界**
――
その文字を見た瞬間。
千乃の中で。
あの白い世界の声が蘇った。
『神にもならず。』
『魔王にもならず。』
『その狭間に立つ者。』
千乃は小さく息を呑む。
そして。
まだ誰も知らない。
新しい物語が始まろうとしていた。




