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シロちゃん

 その日の午後。


 星氷神城の中庭で遊び終えた千乃は、ふと思い立った。


「……ねえ、カミル」


「なんだ、主よ」


 中庭の端で、巨大な白い神龍が翼を休めている。


「ちょっとアストラル・レルムに遊びに行かない?」


「神界へ?」


「うん!」


 カミルは少しだけ首を傾げた。


「構わぬ。我も久しぶりに神界へ行きたい」


「やった!」


 千乃が嬉しそうに笑う。


「じゃあ行こう!」


 そのまま千乃はカミルの背に乗った。


「しっかり掴まれ、主」


「はーい!」


 白い翼が大きく広がる。


 次の瞬間。


 空間を突き抜けるように、カミルが飛び立った。


 そして。


 星氷神城の空から、神界へと続く光の門をくぐる。


 ――アストラル・レルム。


 無数の星々が海のように広がる、神々の世界。


 千乃はカミルの背から周囲を見渡した。


「やっぱり綺麗だなぁ……」


「うむ」


「前に来たときより、なんか変わった?」


 カミルも周囲を見回す。


「……確かに」


「だよね?」


「神の気配が増えている」


「え?」


 千乃が首を傾げる。


「新しい神様が増えたの?」


「そのようだ」


「へぇ!」


 千乃の目が輝く。


「会ってみたい!」


「主は本当に好奇心旺盛だな」


「だって新しい神様だよ?」


「うむ」


 カミルがゆっくり降下する。


「ならば、探してみるか」


「うん!」


 二人が神界の浮遊島へ降り立つ。


 千乃は辺りを見回した。


 巨大な神殿。


 星海市場。


 遠くに浮かぶ無数の島。


 以前と変わらない景色。


 けれど。


「……あれ?」


 千乃が空を見上げた。


 雲一つない神界の空に。


 一筋の淡い紫色の光が流れている。


「何だろう?」


 光はゆっくりと旋回し。


 そのまま千乃たちの目の前へ降りてきた。


 ふわっ。


 光が消える。


 そこに立っていたのは。


 一人の少女だった。


 薄紫色のボブヘア。


 淡い金色の瞳。


 神らしい装束を身に纏っているものの、どこかラフな雰囲気がある。


 少女は千乃を見るなり。


「……あー」


 のんびりした声を出した。


「もしかして、アルちゃん?」


「……え?」


 千乃が瞬きをする。


「私のこと知ってるの?」


「うん。エレノアから聞いてる」


 少女はふわっと笑った。


「転生して神になった子でしょ?」


「そうだけど……」


「やっぱり」


 少女は千乃をじーっと見つめる。


「へぇー。思ってたより普通だね」


「普通!?」


「もっとこう……」


 少女が両手を広げる。


「ドーン! って感じかと思ってた」


「どんな感じ!?」


「神様っぽい感じ?」


「私、一応神様だよ!?」


「知ってる知ってる」


 少女は笑った。


「だから面白いんじゃん」


 千乃は首を傾げる。


「……あなたは?」


「あ、そうだった」


 少女は軽く手を振る。


「自己紹介してなかったね」


 そして。


 空中に淡い紫色の光が舞う。


「私は――シーロ・アストラル」


「天空神だよ」


「天空神!」


 千乃の目が輝く。


「かっこいい!」


「そう?」


「うん!」


 シーロは少し照れたように笑った。


「ちなみに、みんなからはシロって呼ばれてる」


「シロちゃん!」


「いいよー」


 シーロはのんびり頷く。


「よろしくね、アルちゃん」


「よろしく、シロちゃん!」


 千乃が笑顔で手を差し出す。


 シーロも握手する。


「よろしくー」


 その様子を見ていたカミルが、静かに頭を下げた。


「我は守護神龍カミル。主の従魔みたいなものだ」


「うん、知ってるよ」


「……我のことも?」


「そりゃ知ってるって」


 シーロがカミルを見る。


「神龍カミルでしょ?」


「その通りだ」


「すごいねー。ほんとに真っ白」


「……?」


「神龍ってもっと怖い感じかと思ってた」


「よく言われる」


 カミルが淡々と答える。


「我は主の従魔ゆえ」


「へぇ」


 シーロは千乃を見る。


「仲いいんだね」


「うん!」


 千乃が即答する。


「カミルはすっごく頼りになるんだよ!」


「そうなんだ」


 シーロは微笑んだ。


「なんかいいね」


「でしょ?」


「うん」


 すると。


「シロちゃーん!」


 遠くから声が聞こえた。


 千乃が振り返る。


「あれ?」


 星海の向こうから、エレノアが飛んでくる。


「いたー!」


「ノアちゃん!」


 千乃が手を振る。


 エレノアは三人のところまで来ると、シーロを見る。


「あ、アルちゃん。もうシロと会ったんだ☆」


「うん!」


「紹介する必要なかったね」


「そうだねー」


 シーロがのんびり返す。


 千乃はエレノアとシーロを交互に見る。


「二人って仲いいの?」


「仲いいよー」


「うん☆」


 シーロがエレノアの肩に腕を回す。


「昔からね」


「そうそう!」


「天空神と恋愛神が仲いいのんだね!」


「まあ、そんな感じ」


 シーロが笑う。


「エレノアって結構面白いから」


「シロに言われたくないよ☆」


「えー?」


「この前だって――」


「ノアちゃん!」


 シーロが慌てて口を塞ぐ。


「それは内緒」


「何の話!?」


 千乃が身を乗り出す。


「聞きたい!」


「駄目ー」


 シーロが笑う。


「秘密」


「えぇー!」


 千乃が頬を膨らませる。


 カミルが静かに二人を見る。


「神界は相変わらず賑やかだな」


「そうだねぇ」


 シーロが空を見上げる。


「でも最近、神様が増えたからもっと賑やかになったよ」


「他にも新しい神様いるの?」


「いるいる」


 シーロが指を折る。


「まだ増えるかもね」


「へぇ……!」


 千乃の目が輝く。


「じゃあ、神界にもっと遊びに来ようかな!」


「いいと思うよ」


 シーロは笑った。


「私もアルちゃんと遊びたいし」


「本当!?」


「うん」


「じゃあ今日は何する?」


「今日?」


「うん!」


 千乃が即答する。


「せっかく会ったんだから遊ぼうよ!」


 シーロは少し考える。


「じゃあ……空、飛ぶ?」


「飛ぶ!」


「即答じゃん」


「飛びたい!」


 シーロがくすっと笑う。


「じゃ、決まり」


 その瞬間。


 シーロの背後に。


 淡い紫色の翼が現れた。


「……!」


 千乃が目を輝かせる。


「翼!」


「天空神だからね」


「私も飛べるよ!」


「じゃあ競争する?」


「やる!」


 カミルがため息をつく。


「主よ」


「なに?」


「神界でまで競争を始めるのか」


「楽しそうじゃん!」


「……」


 カミルは空を見上げる。


「我も参加しよう」


「カミルも!?」


「当然だ」


 エレノアが笑う。


「じゃあ私も見てる☆」


「ノアちゃんは?」


「応援係!」


「ずるい!」


「私は飛ぶの苦手なんだもん☆」


 シーロが笑う。


「じゃあ、三人で競争ね」


 千乃が空を見上げる。


 カミルが翼を広げる。


 シーロの周囲に風が集まる。


 神界の星々が、三人の頭上で静かに輝いていた。


「位置についてー」


 エレノアが手を上げる。


「よーい……」


 千乃が笑う。


 シーロも笑う。


 カミルは静かに構える。


「スタート!」


 三つの影が。


 一斉に神界の空へ飛び出した。


「わあああああ!」


「速いねー!」


「我は負けぬぞ!」


 神界に。


 新しい神の笑い声が響き渡った。


 天空神。


 シーロ・アストラル。


 愛称、シロ。


 どうやら千乃の神界生活は。


 また一人、賑やかな仲間が増えたことで。


 さらに楽しくなりそうだった。

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そういえばルシアとルシファー何してるんだろ
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