ちのしろ、爆☆誕
その日の翌日。
星霜王国。
城下町。
「千乃様が帰ってきたぞー!」
「今日はお祝いだぁぁぁぁぁぁ!」
「花火!」
「料理!」
「音楽!」
「全部用意しろー!」
「え?」
千乃は。
中央広場で。
ぽかん。
としていた。
「……何してるの?」
町人。
「お祭りです!」
「何のお祭り?」
「千乃様帰還祭!」
「……」
千乃。
「私が帰ってきただけだよ?」
「それが大事件なんです!」
「大げさだなぁ」
その隣。
真銀。
「……」
「俺もいるんだが」
町人。
「もちろんです!」
「真銀様も千乃様が戻ってきて何よりです!」
「お二人とも!」
「おめでとうございます!」
「……」
真銀。
「何のお祝いなんだ」
「生還!」
「帰還!」
「再会!」
「全部です!」
「……」
真銀は。
嫌な予感がした。
「千乃」
「なに?」
「帰ろう」
「え?」
「これは」
「絶対」
「何か始まる」
「……」
千乃は。
少し考える。
「でも」
広場を見る。
人々が。
笑っている。
花が飾られている。
料理が並んでいる。
子どもたちが。
楽しそうに走っている。
「……」
千乃。
にこっ。
「楽しそうだから」
「もう少しいようよ」
「……」
真銀。
「お前」
「こういう時だけ」
「妙に乗り気だな」
「だってお祭りだよ?」
「……」
その時。
「では!」
町人の一人が。
前へ出た。
「本日の特別企画!」
「……?」
千乃。
「特別企画?」
「はい!」
町人たちが。
一斉に。
「せーの!」
ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「うわっ!?」
「何だ!?」
魔法陣。
二人の足元に。
突然。
広がった。
「ちょっと!?」
千乃の身体が。
淡い光に包まれる。
「え?」
光が消える。
そこにいたのは。
いつもの千乃ではなかった。
白を基調とした。
星の刺繍が入ったドレス。
腰には。
淡いピンクのリボン。
髪にも。
小さな星飾り。
「……」
千乃。
「……かわいい」
真銀。
「そこなのか?」
そして。
真銀も。
「……」
淡い光に包まれていた。
黒と白を基調にした。
礼装。
銀色の装飾。
青い宝石。
そして。
胸元には。
星の紋章。
「……」
真銀。
「……何だこれ」
町人。
「アイドル衣装です!」
「アイドル!?」
真銀。
「俺が?」
「はい!」
千乃。
「……」
千乃。
くるっ。
ドレスを。
少し。
揺らす。
「これ」
「すごくかわいい!」
真銀。
「お前」
「もう受け入れたのか」
「うん!」
「早い……」
すると。
町人たちが。
さらに。
魔法を発動する。
広場の中央。
ステージ。
光の床。
星型のエフェクト。
音楽。
どこからともなく。
流れ始める。
「待て」
真銀。
「何でステージまである」
「昨日から準備してました!」
「準備してたの!?」
千乃。
「すごーい!」
「千乃!」
「なに?」
「感心するな!」
そして。
町人。
「では!」
「千乃様!」
「真銀様!」
「一曲お願いします!」
「……」
真銀。
「断る」
即答。
千乃。
「私はやる!」
「千乃!?」
真銀。
「お前!」
「だって」
千乃は。
ステージを見る。
「みんな」
「楽しみにしてるよ?」
「……」
真銀。
町人たち。
全員。
「お願いします!」
「お願いします!」
「お願いします!」
「お願いします!」
真銀。
「……」
しばらく。
沈黙。
「……千乃」
「なに?」
「俺」
「歌」
「得意じゃないぞ」
「私も知らない!」
「知らないのか!?」
千乃。
にこっ。
「でも」
「やってみようよ!」
「……」
真銀。
ため息。
「……分かった」
「やった!」
町人。
「決まりだぁぁぁぁぁぁ!」
「「「うおおおおおおおおお!!」」」
そして。
音楽が。
始まった。
千乃。
ステージ中央。
「……」
最初。
少しだけ。
緊張していた。
けれど。
音に合わせて。
一歩。
くるっ。
ドレスが。
ふわっ。
千乃。
「……」
そして。
笑った。
「楽しい!」
真銀。
「……」
千乃。
「真銀!」
「何だ?」
「もっと!」
「……」
「笑って!」
「無理」
「なんで!?」
真銀。
それでも。
ほんの少し。
口元が。
緩んだ。
町人。
「笑った!」
「真銀様が!」
「うおおおおおおお!」
千乃。
「ほら!」
「笑ったじゃん!」
「……」
真銀。
「お前がうるさいからだ」
「えー」
音楽。
さらに。
盛り上がる。
千乃。
くるくる。
踊る。
星のエフェクト。
光の粒。
広場いっぱいに。
舞う。
真銀も。
最初は。
ぎこちなかった。
けれど。
少しずつ。
千乃に合わせて。
踊る。
「……」
「……」
二人。
並んで。
歌って。
踊る。
町人たち。
「千乃様ぁぁぁぁぁ!」
「真銀様ぁぁぁぁぁ!」
「かわいい!」
「かっこいい!」
「最高!」
「お似合い!」
千乃。
「お似合いだって!」
真銀。
「聞こえてる」
「……」
そして。
最後のポーズ。
二人。
並んで。
ぴたっ。
星の光が。
ぱぁぁぁぁぁっ。
広場を。
包む。
拍手。
歓声。
「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」」」
千乃。
「楽しかった!」
真銀。
「……疲れた」
「えー」
「俺は」
「普段」
「こういうことしない」
「でも楽しかったでしょ?」
「……」
「……少し」
「やった!」
その時。
一人の町人が。
「お二人!」
「はい?」
「名前!」
「……?」
「ユニット名!」
「……」
真銀。
「ユニット?」
千乃。
「……」
少し。
考える。
そして。
「千乃と真銀だから」
「ちの……」
町人。
「ちの?」
「しろ?」
「……」
誰かが。
ぽんっ。
と手を叩いた。
「ちのしろ!」
「……」
「……」
「「「ちのしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
千乃。
「それ!」
「かわいい!」
真銀。
「……決まったのか」
町人。
「決まりです!」
「今日から!」
「千乃様と真銀様は!」
「星霜王国公認!」
「ちのしろ!」
「公認なの!?」
真銀。
「勝手に公認するな」
千乃。
「いいじゃん!」
「千乃……」
「私」
「ちのしろ」
「気に入った!」
「……」
真銀。
少しだけ。
笑う。
「……まあ」
「悪くない」
「でしょ?」
そして。
町人たちが。
また。
「ちのしろ!」
「ちのしろ!」
「ちのしろ!」
と。
叫び始める。
千乃。
「ちのしろー!」
真銀。
「おい」
「何?」
「自分で言うな」
「だって!」
千乃は。
楽しそうに。
笑った。
その日。
星霜王国の城下町には。
新しい名前が。
生まれた。
千乃と真銀。
二人で一つ。
星霜王国の。
謎の即席アイドルユニット。
その名も。
――ちのしろ。
なお。
本人たちの知らないところで。
町人たちは。
すでに。
次回公演の日程を。
相談し始めていた。
「次は新曲!」
「衣装も新しく!」
「振り付けも!」
「待って」
真銀。
「誰が許可した」
町人。
「千乃様!」
「千乃!?」
千乃。
「え?」
「いいよ!」
「早い!」
真銀。
「……」
そして。
城下町。
「ちのしろー!」
「ちのしろー!」
今日も。
星霜王国は。
平和だった。
……たぶん。
その日の夜。
星霜王国。
城下町。
小さな集会所。
「……」
「……」
「……」
町人たちが。
長い机を囲んでいた。
机の中央には。
一枚の紙。
そこには。
大きく。
こう書かれている。
『ちのしろ・新曲制作会議』
「……」
一人の町人が。
拳を握った。
「始めよう」
「おお!」
「我々の」
「次なる一曲を!」
「おおおおおおおお!!」
別の町人。
「前回は」
「即興だったからな」
「今回は」
「ちゃんと作ろう!」
「歌詞!」
「曲!」
「振り付け!」
「衣装!」
「全部だ!」
「……」
その時。
一人の老人が。
「ところで」
「誰が作曲するんだ?」
「……」
「……」
「……」
沈黙。
「……」
「……誰も?」
すると。
一人の若者が。
手を挙げた。
「俺」
「音楽なら」
「少しできる」
「おお!」
「じゃあ!」
「頼んだ!」
「え?」
若者。
「俺一人?」
「作曲家だろ?」
「そうだけど!」
「ならいける!」
「無茶振りだぁぁぁぁぁ!」
しかし。
町人たちの勢いは。
止まらなかった。
「テーマは!」
「何がいい?」
「千乃様!」
「真銀様!」
「二人の再会!」
「帰還!」
「夫婦!」
「星!」
「愛!」
「希望!」
「盛りすぎ!」
若者が。
頭を抱える。
「一曲に全部入らない!」
「じゃあ二曲!」
「増やすな!」
その時。
別の町人が。
「そうだ!」
「ちのしろの歌なんだから!」
「二人を呼ぼう!」
「……」
「本人に聞けばいい!」
「それだ!」
全員。
「「「千乃様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
翌朝。
星氷神城。
千乃の部屋。
「……?」
千乃が。
窓の外を見る。
「なんか」
「今日」
「町が騒がしくない?」
真銀。
「昨日からだ」
「何してるんだろう?」
「知らない」
「……」
その時。
コンコン。
「千乃様ー!」
「はーい」
扉が開く。
町人が。
数人。
ぞろぞろ。
「おはようございます!」
「おはよう!」
千乃。
「どうしたの?」
「お願いがあります!」
「何?」
「ちのしろの!」
「新曲を!」
「作らせてください!」
「……」
千乃。
「いいよ!」
即答。
真銀。
「早い」
「だって」
「楽しそう!」
「……」
町人。
「ありがとうございます!」
真銀。
「俺は?」
「真銀様もです!」
「……やっぱり」
千乃。
「真銀も歌おう!」
「……分かった」
「やった!」
町人たち。
「では!」
「まず!」
「曲のテーマを!」
千乃。
「テーマ?」
「はい!」
「ちのしろで」
「どんな歌を歌いたいですか?」
千乃。
「うーん」
少し考える。
「楽しい曲!」
「なるほど!」
「みんなで歌えるやつ!」
「いいですね!」
「踊れるやつ!」
「もちろん!」
「あと!」
千乃。
にこっ。
「聴いた人が」
「元気になる曲!」
「……」
町人たちが。
顔を見合わせる。
「それだ」
「それしかない」
「決まりだ!」
若者が。
紙に書く。
『元気』
『楽しい』
『みんなで歌える』
『踊れる』
『星』
「星?」
千乃。
「星霜王国だから!」
「なるほど!」
真銀。
「……」
「何だ?」
「お前」
「本当に」
「こういうの好きだな」
「うん!」
「即答……」
町人。
「真銀様は?」
「……」
真銀。
少し考える。
「千乃が楽しそうなら」
「それでいい」
「……」
千乃。
「……」
町人。
「……」
「……」
「……尊い」
「何が?」
「何でもありません!」
その日の午後。
集会所。
作曲会議。
「まずイントロ!」
「星の音!」
「どうやって?」
「魔法で!」
「魔法便利すぎない?」
若者が。
楽器を持つ。
「じゃあ」
「試してみます」
ぽろん。
ぽろん。
優しい音。
「……」
千乃。
「いい!」
「本当ですか?」
「うん!」
「じゃあ」
少しテンポを上げる。
ぽろん。
ぽろん。
ぽろん。
「もっと明るく!」
千乃が言う。
「こう?」
ぽろん。
ぽろろん。
「そう!」
千乃。
手を叩く。
「それ!」
真銀。
「……」
「何だ?」
「千乃」
「うん?」
「完全に」
「プロデューサーになってるぞ」
「え?」
「指示が具体的だ」
「だって楽しいから!」
町人たち。
「千乃様!」
「もう一度!」
「ここ!」
「もっと跳ねる感じ!」
「はい!」
若者。
「……」
「俺」
「作曲家なのに」
「千乃様に使われてる……」
「いいじゃん!」
「よくない!」
真銀。
「諦めろ」
「真銀様!?」
そして。
数時間後。
一曲の。
仮曲が。
完成した。
「……」
若者。
「できました」
「おお……!」
町人たち。
楽器を鳴らす。
明るい旋律。
星が流れるような音。
そして。
最後には。
二人で歌える。
少しだけ。
大きな盛り上がり。
「……」
千乃。
「好き!」
「早い」
「すごく好き!」
真銀。
「……」
「俺も」
「いいと思う」
千乃。
「やった!」
町人たち。
「では!」
「次!」
「歌詞です!」
「歌詞!」
千乃。
「私」
「書いていい?」
町人。
「もちろんです!」
真銀。
「……」
「大丈夫か?」
「何が?」
「お前」
「厨二病になるだろ」
「……」
千乃。
「ならないよ」
「本当か?」
「うん!」
「……」
千乃。
紙を。
じっと見る。
「……」
「……」
「……」
そして。
ペンを。
持った。
「……」
最初の一行。
「……」
「『星の下で』」
町人。
「いい!」
「普通だ!」
「千乃様が普通の歌詞を書いてる!」
「失礼じゃない!?」
千乃。
「次!」
さらさら。
「『みんなで笑おう』」
「いい!」
「次!」
さらさら。
「『今日も一緒に』」
真銀。
「……」
千乃。
「どう?」
「いいと思う」
「ほんと?」
「ああ」
千乃。
「じゃあ」
「もっと書く!」
町人たち。
「お願いします!」
こうして。
星霜王国。
城下町では。
毎日のように。
新曲制作が。
行われることになった。
「ここもっと明るく!」
「はい!」
「ここでジャンプ!」
「はい!」
「真銀はもっと笑って!」
「……努力する」
「また努力するって言った!」
「何でそこだけ拾うんだ」
そして。
その日の夕方。
町の掲示板に。
一枚の紙が。
貼られた。
『ちのしろ』
『新曲制作中!』
『近日公開予定!』
町人たち。
「おおおおおおお!」
「楽しみだ!」
「次は何の曲だ!?」
「絶対盛り上がる!」
「振り付けも考えよう!」
「衣装も!」
「また!?」
真銀。
「……」
千乃。
「……」
千乃。
掲示板を見る。
「……」
にこっ。
「楽しみ!」
真銀。
「お前」
「もう完全に」
「アイドル側だな」
「うん!」
即答。
その夜。
星霜王国の城下町には。
まだ完成していない。
一曲の歌が。
少しずつ。
形になっていった。
そして。
誰も知らなかった。
この歌が。
後に。
星霜王国中の人々に。
歌われることになるとは。
もちろん。
真銀だけは。
少し。
嫌な予感がしていた。
「……」
「また」
「踊るのか」
千乃。
「踊る!」
「即答か……」
ちのしろ。
第二章。
新曲制作編。
始動。




