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虚無が笑った日

 山岳地帯が赤く染まっていく。


 千羽千乃の魔力は、もはや火というより“意思そのもの”だった。


 第三世界修正体はその中心で、静かに観測している。


「対象の魔力密度、上昇中。」


「戦闘領域を再定義。」


 淡々とした声。


 だが、ほんのわずかにノイズが混じる。


---


「真銀。」


 千乃が呼ぶ。


「さっきの吹き飛び、結構効いた?」


「効いてるって言ったら怒るだろ。」


 真銀は剣を回しながら立ち上がる。


「まだ動ける。」


「十分。」


 千乃はノートを開く。


 ページが勝手に一枚めくれた。


 そこに浮かぶ技名。


 「 天嵐滅神極(セレスティアルストー)蒼崩落(ムゴッドブルーフォー) ()。」


 真銀は一瞬だけ笑った。


「派手だな。」


「今さらでしょ。」


---


 千乃が一歩踏み出す。


 その瞬間、空気が裂けるように揺れた。


 風ではない。


 重力そのものがねじれる。


「術式展開確認。」


 第三世界修正体の瞳が赤く点滅する。


「対抗処理開始。」


 だが、その直後だった。


 山の上空に“嵐”が生まれる。


 雲ではない。


 魔力でもない。


 空間が渦を巻いている。


---


「来るよ。」


 千乃の声と同時に、それは落ちた。


 真紅の雷。


 空が割れるような暴風が、一直線に修正体へ叩きつけられる。


 山が消える。


 岩が粉になる。


 空間ごと押し潰されるような一撃。


---


「被害規模、異常。」


「防御展開。」


 第三世界修正体は腕を前に出す。


 黒い結界が形成される。


 だが。


 それは一瞬で砕けた。


「……破壊?」


 初めて“疑問”が混ざる。


 真銀がその隙を見逃さない。


「今だな。」


 地面を蹴る。


 一瞬で間合いを詰める。


---


「邪魔。」


 修正体の声。


 真銀の前に空間が歪む。


 次の瞬間、真銀の身体が“横にずれる”。


 空間転移ではない。


 認識のズレ。


「っ……やるじゃねぇか。」


 それでも真銀は止まらない。


 歪みの中で“正しい位置”を見つけるように剣を振るう。


---


「そこ。」


 千乃の声。


 真紅の魔力が線になる。


 修正体の動きが一瞬だけ止まった。


 ほんの刹那。


 その瞬間を、真銀は斬った。


---


 だが。


 手応えがない。


「……空?」


 真銀の剣は何も切っていない。


 修正体は背後にいた。


 いつの間にか。


「学習完了。」


 無機質な声。


「戦闘概念更新。」


 真銀の背中に衝撃。


 地面が爆ぜる。


---


「真銀!」


 千乃の声。


 だがその時、第三世界修正体が千乃を見る。


「対象優先順位変更。」


「千羽千乃。」


 空気が一段階重くなる。


---


「来るなら来なよ。」


 千乃はノートを握る。


 次のページ。


虚無刻界(ヴォイド クロノス)終焉蒼刃破(エンド ブルーエッジ)


 真紅の光が刃の形になる。


「これで終わらせる。」


---


 修正体が消える。


 同時。


 千乃の目の前に現れる。


 距離ゼロ。


 攻撃ゼロ距離。


 回避不能。


---


「遅い。」


 千乃は、ただ一言。


 刃を振った。


---


 空間が“切れた”。


 音が遅れて消える。


 山の一部が、そのまま存在ごとずれて消える。


 修正体の腕が落ちる。


「損傷確認。」


「再生……」


 再生途中で止まる。


「……不可能。」


---


 千乃は息を吐く。


「学習、追いついてないね。」


 真銀が立ち上がる。


「いや、もう追いつくとかの問題じゃねぇ。」


 苦笑する。


「相手、世界そのものに殴りかかってるぞお前。」


---


 修正体は静かに立ち尽くす。


 そして一言。


「再計算不能。」


「第三世界修正……」


 そこで途切れる。


---


 静寂。


 山は半分消えていた。


 千乃はノートを閉じる。


「……これ、まだ来る?」


 真銀は空を見る。


「来るだろ。」


「だよね。」


 二人は同時にため息をついた。

千乃ちゃん、マジ、パネェっす(汗)

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