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第341話 これは1本取られちゃいましたね

評価やブックマーク等、応援して下さった全ての方、ありがとうございます。


 <館元視点>


 ようやく食事も落ち着いてきたようだ。


 俺も腹一杯になり、良い店だなと満足した。



「いやはや、フードファイターにも成れそうですね?」


「あはは、美味しかったです」


「そろそろ、本題に移らせて貰っても良いでしょうか?」


「僕に何か用事があるとか?」


「はい、実は三日月さんが所有する『霧のワイン』を販売してくれないかと、海外からも頼まれ大変な事態になっているのです」


「えっ? そうなんですか?」


「御存知ありませんでしたか? おそらくギルドにも、その件について殺到していると思います」


「あ~ ギルマスが頑張ってくれてるのかも?」


「あの『霧のワイン』の事が放映されてから、世界中から『霧のワイン』を求める声が上がっています。


特にあのオークションで落札した、美食家達のコメントが決め手になったようです。


なんとか『霧のワイン』が手に入らないかと、価格も天井知らずに高騰しております。


外交上でも取り上げられており、我々にもどうにかならないかと相談される程です。


そこで、何とか『霧のワイン』を、せめてオークションに出して貰えるよう、お願いに参りました」


「そんなに大事になっているんですか・・・でも僕は、食材は売らないって決めてるんですよね」


「それは重々承知しております、そこでなのですが」


「はい?」


「物々交換と言うのは如何でしょう?」


「えっ? 物々交換って、あの物々交換ですよね?」


「はい、私の方からも美味しい物を三日月さんに提供します。それを満足いただけたら『霧のワイン』をオークションへ出して貰うと言うのは如何ですか?」


「あはは、そりゃ良い! 令和の時代に物々交換か♪」


「オークションに出すだけで良いんですか? 物々交換なのでは?」


「いえ、とても『霧のワイン』と交換できる物は用意できませんので、オークションへ出していただけるだけで結構です」


「面白そうですね~♪」


「では、一度試していただけますか?」


「おろ? もう用意して貰ってるんですか」


「はい、正直に申し上げますと、まだ未完成なのですが、お試し下さい」



 根本は予め店に頼んでいたのか、店員に注文すると直ぐに一品の料理が運ばれてきた。


 どんな凄い料理が運ばれて来るのかと思ったら、どう見ても唯の豆腐だった。



「どうぞ、お召し上がりください」


「冷奴ですよね?」


「はい」


「・・・では、頂きます」



 パクッ! モグモグ! 



「ええっ?」


「おい三日月、俺も貰って良いか?」


「は、はい、どうぞ」



 俺は三日月が、あんまりにも驚いていたので興味が湧き、一口味見させて貰った。


 そして、俺も驚く事になった。


 う、旨い! なんて甘い豆腐だ・・・いや、豆腐も旨いが、これは醤油の美味さか?



「これって、まさかダンジョン産の醤油ですか?」


「いえ、これはダンジョン産の大豆で作った醤油です。もちろん豆腐もそうですよ」


「なるほど、そうだったんだ♪」


「そうか、醤油を昔ながらの製法で作るなら2~3年掛かるからな、熟成不足ってことか?」


「その通り、後一年程待っていただければ、もっと美味しくなります」


「うはっ! これ以上に美味しくなるんだ・・・」


「次の料理です」



 次に運ばれてきた料理は、唯のオニギリだった。


 だが、その意図は直ぐに分かった、次は味噌か。



「軽く炙った味噌を付けて食べてみて下さい」


「はい」



 パクッ! モグモグ!



「んんっ! おいひぃーです♪」


「なるほどな、味噌は比較的早く出来るから完成度が高いって事か」


「その通り! 如何ですか?」


「参りました! まさかダンジョン産の食材で調味料を作るなんて思いつきませんでした」


「ありがとうございます、ホッとしました」


「でも、条件付きとは言え物々交換なんですから、この醤油と味噌を作ってくれた人にも利益が出ないと駄目ですよ?」


「そう言われる事も予想しておりました。ですが、問題ありません。


既に職人さんには三日月さんとの話が纏まり次第。


オークションに出して貰えた時点で、それに見合った報酬を渡す契約となっております」


「あはは、用意周到ですね~ どこなんですか?」


「私の故郷でもある、香川県の小豆島ですね」


「直接会いに行っても良いですか?」


「もちろんです。では交渉成立で宜しいですか?」


「僕の負けですね~♪」


「ありがとうございます」


「やるじゃねーか?」


「君のお陰だよ、やはり持つべきものは悪友だね?」


「悪友に拘り過ぎだ」


「いや~ 根本さんみたいな政治家も居るんですね。流石サラリーマンさんの友人と言ったところですか?」


「背中が痒くなるから止めろよ?」



 サラリーマンさんは、照れ隠しの様にタバコに火を点けた。



「館元! タバコは遠慮しろよ?」


「この店は禁煙じゃねえだろ?」


「SSランク冒険者とはいえ、未成年の前だぞ?」


「タバコ臭いか?」


「何を当たり前の・・・お、おい?」


「まあ、そう言うこった」


「・・・雨にも濡れなかったり、煙を浄化したりどういう事だ?」


「世の中には便利な道具があったりするんだよ」


「活用してくれてるんですね?」


「せっかく貰ったんだ、使わないと悪いだろ?」


「そう言う事か・・・」


「防水リングとクリーンボールって言うんですけど、根本さんにも差し上げましょうか?」


「いえ、私が貰う訳にいきません。とても高額になるでしょうから」


「献金って言う言葉もありますよ?」


「それでも私個人には貰えませんし、軽く献金の上限を超えるでしょう?」


「あはは、僕が会ったことがある、大臣とは大違いだ♪」


「その節は、申し訳ありませんでした」


「あっ! やっぱり知ってるんですね?」


「はい、詳しくは言えませんが聞いております」


「なるほど。実は今日はサラリーマンさんの紹介だったとしても、ちょっと身構えてたんですよ。


どうしても、人間って偉くなると横柄になっちゃうものなんですよね。


僕は初めて会った人に、偉そうにできる人が理解できません。


まあ、偉そうな人が相手なら、僕もそれ相応の対応になるんですけどね。


僕がやる気になったら、嫌な者を最初から存在しなかったようにも出来るって言ったら信じます?


一切の痕跡を消し去り、記憶にしか残らないようにするとか」


「・・・何故、私にそのような事を?」


「ちょっとは偉い人達にも、僕達の事を分かって貰おうかなと思ったんですよ。


これから先も、権力を持った馬鹿が絡んできそうですし。


かと言って、馬鹿は口で言っても理解してくれないんですよね。


まあ、僕は見た目が子供にしか見えないから、余計御しやすいと思うんでしょう。


ぶっちゃけて言いますと、僕は敵対する者に容赦なんてしませんからね~


根本さんなら友達に成れるかなと?」


「ハハ、ありがとうございます」


「生意気な事を言ってすみません。僕、ちょっとトイレ行って来ますね~」


「おう」



 ふと根本を見ると額に汗を掻いており、少し顔色が悪かった。



「大丈夫か?」


「あ、ああ・・・さっきの話しは本当なんだろうな?」


「おいおい、冗談に聞こえたのか?」


「そう聞こえなかったから、背中にも冷たい汗を掻いているんだよ」


「だから、機嫌を損ねたら死ぬぞって言っただろ?」


「それ、忠告じゃなくて警告って言わないか?」


「お前じゃ無かったら、絶対に会わせてなんてねえよ。


彼奴は鏡みてえな性格をしてやがんだよ、相手が優しかったら凄く優しくなるし、横柄な奴なら鬼にも悪魔にもなる。


誰もがそういうもんだが、それが極端で顕著なんだよ」


「・・・良く分かった、ありがとな」


「本当に怖いのは、まだあるんだが言えねえから察しろよ?」


「もう、俺のキャパは一杯なんだぞ?」


「何言ってやがる、あの三日月から食材を捥ぎ取ったんだ誇って良いんじゃねーか?」


「そんな言い方したら、僕が食いしん坊みたいじゃないですか?」


「うおっ! だから行き成り現れるのは止めろよ? 心臓に悪いだろ」


「あはは、脅かそうとしてる訳じゃ無いんですけどね~」


「じゃ、そろそろ次の店って言いたいとこだが、大丈夫か?」


「・・・ちょっと待っててくれ」



 根本は伝票を持って会計に行ってくれたが、メチャクチャ飲み食いしたから金が足りるのか怪しいとこだな。



「僕が払っときましょうか?」


「いやいや、そう言う訳にもいかねえだろ? 贈収賄罪とかあるんだからよ」


「食事代も駄目なんですか?」


「1万円を超えたら、報告しないといけないみたいだぞ?」


「政治家って面倒くさいんですね?」


「まあ、俺には無理だな。彼奴はクリーンだから気に入っただろ?」


「そうですね、ああいう人には偉くなって欲しいですね~」


「おい、変な事考えてないだろうな?」


「考えてないですよ?」


「本当かよ?」


「・・・総理大臣になったら面白いかな~ っと?」


「思いっ切り、考えてるじゃねえか?」


「唯の新人冒険者の希望ですから」


「唯のじゃねーだろ? 自覚が足りねえぞ」


「ん~ でも僕は本当に好きな冒険者を楽しんでいたら、こうなっちゃったんですよ?」


「好きこそものの上手なれの典型だよな。でも、それだけじゃねーんだろ?」


「ある日、ある時、そう言う運命になっちゃったんです。誰にも言えませんけどね」


「ちょっと喋り過ぎだぞ?」


「サラリーマンさんが聞いたんじゃないですか?」


「言わなきゃ良いだろ?」


「そう思うなら、聞かないで下さいよー」


「それもそうだな・・・思わず言っちまうんだよ、俺は」


「口で滅びるタイプですね~」


「分かってんよ」


「すみません、お待たせしました」


「金、足りたか?」


「・・・恥ずかしい事を聞くなよ?」


「はは~ん、現金が足りなくてカード払いにしたって顔だな?」


「どうしてお前は、昔からそう言う勘が良いんだよ?」


「あはは、ちょっと早いけど帰ります?」


「待て待て、次は俺が奢ってやんよ、安かったら奢られても良いんだろ?」


「そうだが、今日は私が誘ったんだから、そう言う訳にはいかないだろ」


「僕も安いお店知ってますよ?」


「・・・悪いが信じられねえよ?」


「なんでですかー」


「一人1万円以内だぞ?」


「それは聞いてみないと分かんないですね・・・」


「だろ? 俺に任せておけって」


「あはは、頼りになりますね~ ガールズバーですか?」


「いーや、今日は小料理屋だな。女将さんが一人でやってんだが、安いし美人だから人気があるんだ」


「なるほど。色んな、お店を知ってますね?」


「まあな、根本も良いだろ?」


「ああ、悪いな?」


「良いさ、賄賂だと思っといてくれ」


「こらっ! 政治家になんてこと言うんだよ」


「あはは♪」


「おっと、三日月は顔を隠しといてくれよ?」


「なんでですか?」


「有名人さんだからだよ? 人が多いとこ歩くから大騒ぎになんだろ?」


「じゃ、帽子とマスクしといたら良いかな?」


「・・・それはそれで、子供を引き回してるみたいになるな」


「子供じゃないですーーー!」


「ハハ、本当に仲が良いんだな」


「おう、世話になってる上司だからな」


「本当に、そう思ってます?」


「当然だろ?」


「南極に出張を、お願いしたかったんですよね~」


「待てーーー! それ絶対に嫌がらせだろ?」


「え~ ペンギンの写真が欲しかったんですよね」


「動物園に行け!」


「その手がありましたかー!」


「絶対に分かって言ってんだろうが?」


「あはは♪」



 三日月と馬鹿な話しをしながら歩いていると、小料理屋さんに着いたようだ。


 暖簾を潜り店内へ入ると、どうやら他の客は居ないようだ。


 何時も通り割烹着を着た女将さんが笑顔で出迎えてくれた。



「いらっしゃい♪ お久しぶりね館元さん」


「ああ、そういや久しぶりになるか」


「あらっ! 館元さん、お子さんが居たのかしら?」


「こいつは上司だよ」


「えっ?」


「あはは、こんばんは~」


「ええっ! み、三日月陽さん? 嘘でしょ」


「本物の三日月陽だよ」


「また、凄いお客さんを連れてきてくれたのね、驚いちゃったわ」


「照れますね♪」


「そちらの方も見た事があると思ったら、参議院議員さんよね?」


「はい、根本と申します」


「・・・館元さんって凄いお方だったんですね?」


「俺は普通のサラリーマンだからな?」


「ビューティーポーションを一手に仕切っている、社長さんなのにですか?」


「「ええっ!」」


「館元、お前そんな事までしていたのか?」


「そこの上司に押し付けられたんだよ」


「何時も俺の事を偉いさんとか言っておいて、お前の方が偉いじゃないか?」


「そんな訳あるかよ」


「稼いでるんだろ?」


「・・・稼いでるな」


「うわ~ 凄いわ館元さん。そんな事、一つも言ってくれなかったのに」


「よせよ、俺は稼いでます。なんて言えねえだろ?」


「うふふ、そんな裕福な人が私の店に来てくれてたなんて嬉しいわ♪」


「前にもそんな事言われたが、高い店なんて落ち着かねえんだよ」


「そう言えば高そうなスーツを着ているな?」


「これはトリコに買わされたんだよ?」


「ほほ~ 彼女まで出来たのか?」


「とっても、可愛らしいOLさんなんですよ?」


「お前、部下に手を出したのか?」


「だー! 俺の話しなんて、どうでも良いだろうが?」


「そう言えば綺麗な秘書さんも、居ましたね~♪」


「そろそろ、勘弁してくれねーか? それにモテモテ大王に言われたくねえ」


「誰がモテモテ大王なんですかー!」


「ウフフ、そうやっていると、とても世界一の冒険者には見えませんね♪」


「だろ? だから良く変な奴等に絡まれるんだよ」


「言っときますけど、絡まれスキルなんて持ってませんからね?」


「これだけ有名なSSランク保持者なのに、ちょっかい出す者が居るのですか?」


「威厳モード中にも絡まれた事があったりします・・・」


「館元にも絡まれたのですか?」


「こらこら、俺が三日月に絡まれたんだよ」


「「ええっ!」」


「美味しそうにタバコを吸ってたから、美味しいのかな~ っと?」


「あはは、ストレス解消には良いかもしれませんね」


「健康の為にも吸わない方が良いですわ」


「とりあえず、20歳になってから考えてみます」


「まあ、三日月にタバコは似合わねえからな♪」


「むぅ~ 僕だって、もっと大人になるんですー」


「あはは、補導されんなよ?」


「女将さん、ウォッカ5本お願いします!」


「すみませんでしたー!」


「あはは、面白いな♪ 三日月さんは、お酒も強いんだね?」


「冒険者の嗜みですから?」


「ウフフ、何を飲まれますか?」


「一応言っとくが、此処は良い日本酒があるから、お勧めだ」


「ふむふむ、じゃ僕も日本酒にしちゃおうかな」


「では、私も日本酒に」


「はい♪」



 女将さんは何時もの日本酒を出してくれ、ぐい吞みの陶器で乾杯することにした。



「へええ~ これが日本酒のコップなんですね?」


「ああ、ぐい呑みって言うんだ」


「分かり易い名前ですね~」


「ほらっ、乾杯だ」


「はい、乾杯です」


「乾杯!」


 グイッ! 「ぷはっ! うん、美味しいです」


「確かに、飲みやすい酒だな」


「だろ? 美人を見ながら飲むと格別なんだ」


「ウフフ、私を褒めても何にもでませんよ?」


「スマイルは0円だって言うだろ?」


「何時の話しをしているんだ?」


「笑顔だけならサービスしますわ♪」


「それだけでハッピーに成れるから良いさ」


「・・・サラリーマンさんが大人に見えます」


「大人なんだよ、俺は?」


「大先輩!」


「止めろ! 背中が痒くなる、しれっと『大』を付けるな」


「あはは、バレましたか♪」



 それにしても、俺がこんな若い奴と酒を飲むようになるなんてな。


 まあ、此奴は特別だが、喋ってても面白いと感じる様になっちまった。


 大金持ちのくせに、田舎者丸出しだしな。


 純真で冷酷で優しくて恐ろしい。


 まったく訳が分からんが、飽きねえ奴だ♪



「あっ! なんか失礼な事、考えたでしょ?」


「まったく、勘まで良いのかよ?」


「どういう意味ですかー」


「冗談だ、冗談♪ どうだ根本? お前とも気が合いそうだろ?」


「・・・三日月さんは不思議な少年ですね」


「僕、不思議ですか?」


「職業柄様々な人物と出会って来ましたが、三日月さんの様な方は初めてです」


「僕に敬語は使わなくて良いですよ?」


「今日は、お願いを聞いて貰いましたからね、礼儀は尽くさないと」


「そんなに困ってたんですか?」


「頭の痛い問題だったのは間違い無いですね」


「一度飲んでみますか?」


「えっ?」



 三日月はニコニコしながら、現在一体どれほどの値が付くのか分からない『霧のワイン』を1本取り出し、詮を開けってしまった。


 ご丁寧にワイングラスまで持っていたのか、4杯のグラスに注いでいる。



「さあ、どうぞ♪」


「ま、まさか『霧のワイン』なんて言いませんよね?」


「あはは、まさかー」



 三日月はニコニコしているがワインボトルには、しっかりと『霧のワイン』と刻まれている。



「な、なんてことを・・・」


「飲まないなら捨てちゃいますよ?」


「ククッ! どうすんだよ捨てるか?」


「い、頂きます」


「わ、私にもですか?」


「どぞどぞ」


「じゃ、もう一度乾杯といくか」


「ほれ、乾杯!」


「かんぱーい!」


「「か、乾杯・・・」」



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