初恋の姫君は、竜の神殿にいる 38
「竜王剣が鳴った……?」
マクシミリアンは不快気に尋ね返した。
「はい、坊ちゃま。フェリス様とレティシア姫を迎えて、竜王剣は喜びの歌を歌われたと……、ご婚姻を控えた御二人に、類まれな吉兆と……」
「類まれな、ばかりだな、フェリス王弟殿下は」
「左様でございますねぇ、やはり、あのように竜王陛下に似たお姿の殿下は、ただ人であられるはずもなく……」
マクシミリアンの面白くない顔には構わず、執事はうんうんと頷いている。
うちの執事は無能ではないが、些か人が善すぎるというか、無邪気過ぎではなかろうか?
「……嫌な奴だったぞ、昔から」
「左様でございますか? 坊ちゃまと殿下に、この爺の存ぜぬ、何か諍いごとでも?」
「諍いなど起こりようもない。あの嫌味な男は、僕などはなから眼中にないからな」
子供の頃から、フェリスは美しい少年だった。
いまほど竜王陛下を思わせる姿ではなかったが、一度見たら忘れられぬような美しい子で、常に噂好きの宮廷人の耳目を集めていた。
母を亡くした寄る辺ない美貌の少年を、愛人にしたがる者も少なからずいたろうが、そのすべてを道端の紙屑でも見るような冷たい碧い眸で見下していた。
寄せられる好意にも、悪意にも、何の興味もなさそうだった。
実際には、そんなことはなく、フェリスはフェリスなりに疲れて傷ついていたのだが、フェリス少年の内心まで、マクシミリアンが知るはずもない。
「坊ちゃま。決してそのようなことは……。フェリス殿下は、どなたからも遠い御方、水面に映る月のような御方、と皆様が仰られて……坊ちゃまにだけ、何か含みがあるわけでは……」
「そういえば、先日の茶会では、生まれて初めてフェリスに睨まれた」
「坊ちゃま……、竜王陛下の血を濃く受け継ぐ方々は、そのように見えなくても、情が強くていらっしゃいます。坊ちゃまがそうでいらっしゃるように。ですから、努、フェリス様の心を逆立てたりなさいませぬよう……」
子供の頃、マクシミリアンは、正直、知らずにフェリスを見下していたのだ。
(あれがステファンの心を奪った舞姫の生んだ子。後ろ盾の一人もない、可哀想な子供)
父も母も、そんな風に言っていたし、それはちょっと含みのある言い方だった。
そもそもが、もともと、父が自分の兄であるステファン王を、ただ先に生まれた兄であるというだけで国王になった男を、それほど好きではなかったという要因もあると思うのだが……。
(フェリス様、さあ、こちらに……)
だが実際に、子供時代のマクシミリアンが、園遊会で目の当たりにしたフェリスは、ちっとも可哀想には見えなかった。
本で読んだ、人が光り輝くとはこのことか? と呆然とした。
ただそこに立っているだけで、何故か人に頭を下げさせるような人間がいるのだと、フェリスを見て初めて知った。
(フェリス様、お菓子はいかがですか? これはとても珍しいお菓子で……)
(ああ、どうもありがとう。いまは欲しくないので……)
何者の好奇心も歓喜も、憧憬も、そして根深い憎悪さえも、あの美しい少年の心を微塵も揺るがすことはないように見えた。
「単によく知らんとわかりにくいんだよ、フェリス、感情表現が下手だから。普通に、内心は嬉しいとか嫌だとか思ってるのにな」
(from竜王陛下)
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コミック三巻表紙❤
五歳で、竜コミック連載