初恋の姫君は、竜の神殿にいる 34
「御幼少のみぎりのフェリス様もさぞお可愛かったでしょうねぇ」
「とっても可愛かったわ、リタ! あんなに可愛いなんて危ないわ、フェリス様、さらわれてしまうわ!」
髪を仕上げるリタの言葉に、レティシアは熱く頷いた。
「サキ、フェリス様、可愛すぎて、あぶないめにあったのでは?」
「いえ、あの……、そうですね。いろいろとあったのですが、何と言っても坊ちゃまは強い魔力をお持ちですので、どちらかというと、悪者が危険と申しますか……」
「ちいさいころから、御強かったのね、フェリス様もそう仰ってたけど……」
推しが御無事でよかったけど、あんな可愛い子に何か仕掛ける悪者はけしからん。
「ええ……、そうですね……、相手がどなたでも、坊ちゃまにかなうものはいないくらいに……、」
遠い目をして、サキはそう言った。そうして愛し気にレティシアの神官服を直した。
「勉学も、剣の修行も、魔法の授業も、与えられた領地を繁栄させていくことも、できぬことなどないような御方で、お美しくて、賢くて、ずっと私どもの自慢の主でございましたが、……でもずっとフェリス様は、何処か居心地が悪そうで、お寂しそうでした」
「……そう、ね……」
小さく、レティシアは頷く。
あの少年は、似た瞳をしていたから、レティシアと。
もう、この世に、安心してこの背中を預けられる者はいないのだ、という瞳をしていた。
「この春、やっと、竜王陛下は、サキのお願いを叶えてくださいました」
とても幸福そうなサキの瞳の色が優しい。
「サキのお願い……?」
「ずっと、坊ちゃまの心を埋めて下さる可愛い花嫁様を、とサキはお祈りしておりました」
「……それは……夢を壊して申し訳なかったわ、サキ」
美しいフェリス様に似合いの可愛い花嫁を、とサキは夢見ていたんだろうに、こんな中身も怪しいちびが来て申し訳ない。
「何を仰います、レティシア様。サキの夢は、これ以上ないほど叶えて頂きました。……サキは、あれほどに幸福そうなフェリス様を、いままで見たことがありませんもの」
「そうですわ、レティシア様。そもそも、フェリス様は、令嬢と話していて、大笑いなさるよう御方ではありませ……あ、すみません」
出過ぎたろうか、とリタが慌てて口を覆っている。
「そうなの? フェリス様、私が何言っても笑ってくださるから、もしかしてフェリス様って笑い上戸なのかな? って、私……」
きょとん、とレティシアは琥珀の瞳を見開く。
いつもたいがい笑ってる気がするのに、フェリス様……。
想えば、明るい家庭だ。呪われた王女と王位簒奪を疑われる王弟にしては。
「そうですね、フェリス様が笑い上戸でしたら、冷酷な王弟殿下などと大変に誤った噂をたてられずにすんだと思うのですが……、レティシア様は、私の夢を叶えて下さった、フローレンス大陸でいちばん偉大な姫君です」
「偉大とは程遠い、すぐフェリス様に心配かけちゃう、困った姫よ」
三人でお喋りしながら支度をするのが楽しくて、場所は神殿だったけれど、そこにはいつものフェリス宮の安らぎがあり、意図せずに時をさ迷ってしまった怖ろしさも、レティシアの中から、嘘のように消えていった。
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五歳で、竜コミック連載