サリアの災いを呼ぶ姫 10
薔薇が全て枯れてしまった、皆がレーヴェ神の呪いだの、レティシアの呪いだのと言ってるわ、何とかしなさい、と王妃に呼び立てられながら、ミゲルは怯えていた。
イザベラ王妃の強い意を受けて、『フェリス殿下とレティシア姫の婚姻は災いを招く』と占ったときから、彼はずっと怯えていた。
彼はそもそも王弟妃だったイザベラのお気に入りの占い師だった。
最初にイザベラに気に入られたのは、「明日は碧いドレスをお召しになればイザベラ姫に幸運が訪れます」
と占って、その日にイザベラと王弟殿下の婚約が成立したからだ。
王太子殿下(レティシアの父)との婚約に敗れ、傷心だったイザベラは、あなたの占いのおかげよ!、とそれからミゲルをとても可愛がってくれた。
そして、流行り病で王と王妃が亡くなり、次代の王が立てられることになった。
五歳の王女レティシアを推す者達がいる。幼い姫を女王にして、傀儡にする気なのだ。
そなたにはぜひ、それを阻む為に、占って欲しい。
レティシア姫は災いを呼ぶ姫、決して王にしてはならぬ、と。
それは占いではありません、と抵抗したのだが、サリアの為、引いては全ての国民の為だ、と押し切られた。
ミゲルはまだそのとき、王弟妃のお気に入りの占い師に過ぎなかったから、彼の占いがすべてを決したとは思わない。
でもその後、『不吉な姫』『呪われた姫』の噂はサリア王宮を覆い、春の花のようだった小さなレティシア姫は二度と笑わなくなり、黒いドレスに身を包んで、蒼ざめた顔をしていた。
ディアナ王弟とレティシア姫の婚姻話は、ずっと罪悪感に苛まれていたミゲルを喜ばせた。
ディアナに行けば、レティシア姫は呪われた姫などと言われず、明るい姫に戻れるだろうと。
そうすれば、幼いレティシア姫を追い詰めた彼の罪も少しは軽くなるだろうと。
フェリスがレティシアとともに、サイファを迎えに来た話も、ミゲルをとても喜ばせた。
だが、イザベラ王妃がまたとんでもないことを言い出した。
「簡単なことよ。レティシアよりアドリアナのほうがフェリス殿下にふさわしいと占うのよ。
レティシアは呪われた姫だから、ディアナに災いを呼ぶって」
「む、むりでございます、イザベラ様、お許しください! ディアナは魔法の王国とも謳われる
竜の神レーヴェの寵愛深い国です。わ、私ごときが、そのような怖ろしい嘘をついても、名高い
星見達、魔導士達に容易く見破られてしまいます」
「まあ、ミゲル。心配ないわ。レティシアのことごときに、あちらもそんなに拘らないわ。同じ
サリアの姫ならば、王女アドリアナのほうがいいとお思いになるに決まってるわ」
「イザベラ様。ディアナ王族は、レーヴェ神の血を継ぎ、伴侶の為に生きるといわれる御家柄です。
フェリス殿下はすでにレティシア姫を婚約者として大切に……」
イザベラは何も知らないのだ。
魔法や占星術を学ぶ者ならば、ディアナの威光をよく知っているし、誰しも一度はディアナ王立魔法学院に留学したいものだと夢に見る。
竜王レーヴェが人間の妃の為にディアナを護り続けている話ももちろん知っている。
竜の血を引く柔和なディアナ王族が、愛する伴侶の為に生命も魔力も全て使うことも知っている。
「フェリス殿下が、レティシアを何ですって?」
イザベラ王妃はレティシア姫がディアナの美しい王子に愛されることを許さない。
「な、何でもございません……」
イザベラに睨まれてそれ以上は言えず、結局ミゲルは断れず、王妃の望む通りの占いをしたのだが、その日からずっと安らかな眠りを得られたことはない。
彼の嘘は、もちろんディアナの高位の魔導士達に見破られるだろう。
それよりも何よりも、彼は一度ならず二度までも、あの罪もない、金髪に琥珀の瞳の小さなレティシア姫から笑顔を奪い、姫を不幸に陥れようとしているのだ。
レーヴェ神でなく、サリアの女神が、そろそろミゲルの罪をお怒りになってもおかしくない。
ミゲルは悪の権化とかじゃなくて、単に宮仕えの気の弱い人なのですが、
だからといって、フェリスが怒らない訳ではない(笑)
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