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猫が好き!  作者: 山岡希代美
第3部 やっぱり、猫が好き! 

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9.Help Me.



 真純の見つめるツールの画面は、濃紺のバックに白い文字で、なんだかよく分からないアルファベット数文字の横に矢印と数字が表示されていた。

 その行が画面の下から次々と湧き出すように現れて、バラバラとスクロールしていく。

 アルファベットがマシン名で、数字がデータ量ではないかと推測する。ずっと眺めているが、シンヤが言った赤い文字は現れない。うまくいっているという事だろうか。

 画面を見つめたままシンヤに尋ねた。

「今どうなってるの?」

「順調だよ。ハモスのCPU使用率九十パーセントを超えた。あと少しだ。そっちは?」

「ずっと白い文字。赤は出てないよ」

「そう」

 再び画面を見つめて少し経った時、シンヤが独り言のようにつぶやいた。

「九十九パーセント」

 どうやら成功しそうだと真純がホッとしかけた時、画面の下から赤い文字が湧き出した。

「赤出た」

「え、マジ?」

 シンヤが慌てて真純の前の画面を覗く。その間に赤い文字の行は、あっという間に画面の上まで到達し、そこで固定された。下からはまだ次々と白い文字が出てくる。

 焦った様子でシンヤが自分の画面に視線を向けた。その隙にまた赤い文字が現れた。

「あ、また赤」

「え?」

 そしてシンヤの見つめる前で、下から次々に赤い文字が湧き出し始めた。

「くそぅ……。失敗だ」

「え?」

 悔しそうに顔を歪めて、シンヤは自分の画面に向き直る。そして両手の拳を力なく机に打ち付けて項垂れた。

「ブロックされた。ハルコに感付かれたんだ。CPU使用率もどんどん下がってる」

 真純が呆然と見つめる目の前の画面は、いつの間にか赤い文字で埋め尽くされていた。

 すっかり消沈してしまったシンヤに、かける言葉が見つからず、真純は黙って彼を見つめる。

 少ししてシンヤは気怠げに二つのツールを終了させた。

「大丈夫?」

 恐る恐る声をかけると、シンヤは小さく頷いた。

 今日はもう終わりなのだろう。てっきりそうだと思ったが、シンヤは真純の前のパソコンに別のツールを立ち上げ何かを入力している。

「今度は何するの?」

「課長に頼まれてるんだ。もう一度ダッシュをおびき出してデータを入手してくれって」

 シンヤが言うには、瑞希はすでにダッシュのアクセス元を突き止めているらしい。場所は大学の工学部研究室だという。

 ハルコに仕掛けられたウィルスの性質から、ダッシュがそこの関係者である可能性は高い。

 ハルコの自律思考エンジンの理論は、瑞希の博士論文のテーマだった。これで博士号を取ったので、論文は外国の科学雑誌に掲載された。つまり英語が読めるなら、誰でも閲覧できるのだ。

 ただ、それを読み解き件のウィルスを作成するには、それなりの工学知識が必要になる。工学部に籍を置く研究者なら、可能だろう。

 だがアクセス元が踏み台にされていた事も考えられる。それでもう一度確認のためにアクセスデータを入手する事にしたらしい。

 シンヤはもう一つのパソコンでブラウザを立ち上げた。ダッシュはこちらの様子を窺っているはずだ。あの掲示板もチェックしているだろう。

 こちらから動けば必ず乗ってくるとシンヤは言う。

「ダッシュの情報がこっちに分かってるって事は、おまえの事も筒抜けなんじゃないの?」

「そんなヘマはしないよ」

 そう言ってシンヤはニヤリと笑った。どうやら少しは元気を取り戻したらしい。

 ブラウザに表示された掲示板の画面を見て、二人同時に息を飲む。そこにはすでにダッシュの書き込みがあった。



ダッシュ:さっきのおまえだろ? シンヤ。残念だったな。あと少しだったのにwww



 画面を凝視するシンヤの表情が見る見る険しくなる。机の上で堅く握られた拳が小刻みに震えていた。

「シンヤ、落ち着いて。おまえの方が挑発に乗っちゃダメだよ」

 シンヤは何も言わず険しい表情のまま、真純の前にあるリターンキーを怒ったように叩いた。

 真純の目の前でツールが起動し、少しして終了メッセージのウィンドゥが表示された。そのOKボタンを押した後、シンヤは掲示板が表示されたパソコンのキーボードに手を乗せた。

「ダメだよ、シンヤ」

 今相手を刺激して暴挙に出られては、取り返しのつかない事になる。

 真純の声にピクリと反応して、シンヤの手はキーボードの上で止まっていた。その手を掴もうと手を伸ばした時、目にもとまらぬ早さでシンヤがキーを入力し送信ボタンを押した。

「シンヤ!」

 手を引いて掲示板に目を移す。何事が起きたのかと勝手な憶測で賑わっている掲示板に、シンヤの発言が表示された。



シンヤ:必ずおまえを阻止してみせる。



 それを見届けてシンヤはブラウザを閉じ、真純に縋りついてきた。真純の肩に顔をうずめ、痛いほどにきつく抱きしめる腕は震えている。「ちくしょう」と小さくつくぶやく声が耳元に響いた。

 失敗した上に小馬鹿にされて、怒りをぶつける事もできない悔しさがひしひしと伝わってくる。

 真純はシンヤの背中に腕を回し、なだめるようにポンポンと叩いた。

 しばらくそうしているうちに、シンヤも落ち着きを取り戻したようだ。やがて腕をほどき顔を上げると、気まずそうにつぶやいた。

「ありがとう。止めてくれて」

 シンヤは立ち上がり、ベッドの上に放り投げておいた携帯電話を拾った。

「課長に連絡しなきゃ。真純さん、悪いけどそのツール閉じておいて。角の×ボタンで閉じるから」

「うん」

 返事をしてパソコンに向き直ったものの、簡単な事が案外簡単でもない。シンヤのノートパソコンには、マウスが接続されていないのだ。

 放浪生活をしていたシンヤには、持ち歩くのに邪魔だからマウスを使わないのだろう。

 ノートパソコン特有のタッチパッドの使い方は真純も知っている。だが慣れていないので、カーソルが思うように動かない。

 ようやくウィンドゥの角に位置づけてクリックボタンを押した途端、カーソルが角から外れた。しかもなんだかダブルクリックになってしまったようで、ツールの下にあったアイコンが起動し始めた。

「あぁっ!」

 思わず大声を上げると、電話を終えたシンヤが歩み寄ってきた。

「どうかした?」

「ごめん、シンヤ。こっちの隅にあったアイコン、なんか開いちゃった」

 画面を指さしながら、シンヤを見上げて苦笑する。シンヤは画面を見つめて不思議そうに首を傾げた。

「なんだろう、これ」

 真純の肩越しにシンヤは画面をのぞき込んで身を乗り出す。

 デスクトップに貼り付けてあったアイコンなのに、シンヤ本人が知らないというのも妙だ。怪訝に思いながら画面に視線を戻す。

 シンヤと顔を並べてのぞき込む画面には、テキストファイルが開かれていた。



20XX/12/15 2:00 シンヤ、あなたの名をかたる者が、あの掲示板に現れました。あなたと間違えて警告しようとしたわたしは、危険なプログラムを受け取ってしまったようです。ウィルスと断定し、分析と駆除を行います。このことを辺奈博士に伝えてください。


20XX/12/17 20:00 未知のウィルスは、システム領域を侵すものではないようです。わたしの学習用記憶領域に干渉しています。


20XX/12/18 20:00 領域の八割がロックされ、学習用記憶領域にアクセスできません。ウィルスの駆除方法がわかりません。


20XX/12/19 20:00 シンヤ、助けてください。


20XX/12/20 20:00 help me.


20XX/12/21 9:35 492062656C6965766520796F75202020686F7065



 それはハルコからシンヤに送られたメッセージだった。




Copyright (c) 2012 - CurrentYear Kiyomi Yamaoka All rights reserved.



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