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猫が好き!  作者: 山岡希代美
第3部 やっぱり、猫が好き! 

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7.攻撃開始



 余裕だ。

 真純はベッドの上に横たわったまま、パソコンに向かっているシンヤの背中を眺めた。

 未だに熱に浮かされたように、頭はぼんやりして身体はぐったりしている。少しはマシになったようだ。

 かろうじて服は着たものの、極度の緊張から解放されたせいか、ずっとシンヤにしがみついていたからか、身体に力が入らず、起き上がるのも億劫だったのだ。

 シンヤが申し訳なさそうに、少し横になっていた方がいいと言うので、そのまま横になっているうちに眠っていたらしい。

 目を覚ますとシンヤは仕事をしていた。

 どれほど時間が経ったのか、カーテンが閉じられているので分からない。ただ、眠る前よりは明らかに暗くなっている。シンヤのいる机の上だけ、電気スタンドの灯りが点っていた。

 耳に残るシンヤの息遣いも、重なる素肌の温もりも、遠い夢のように感じる。けれど、下腹部に残るシンヤのあとが、もう妖精にはなれない事を告げていた。

 ふいにシンヤが振り向いた。真純と目が合うと、彼はいつもの人懐こい笑顔を見せた。

「あ、起きたんだ」

「うん。今何時?」

「五時半」

 随分眠っていたようだ。真純はよろよろと身体を起こした。シンヤが心配そうに尋ねる。

「大丈夫?」

「平気。ご飯の支度しなきゃ」

 真純はベッドを出て戸口へ向かう。部屋を出ようとした時、シンヤが腕を掴んだ。

 立ち止まって見つめると、シンヤがニヤリと笑った。

 黒シンヤ降臨――?

「平気なら、もう一回いい?」

「え……」

 今すぐは勘弁してもらいたい。まだ身体がだるいのだ。いや、だから今すぐでなければいいのかというと、それも微妙で。かといってイヤというわけでもない。

 シンヤはまるで宝物でも扱うかのように、優しく触れてくれた。いやいやいや、何を生々しい事を思い出してるんだ。――と自分でツッコミを入れていると、シンヤがクスリと笑った。

「冗談だよ。真純さん、まだ仕事が残ってるんでしょ?」

「うん」

 そうだった。ほとんど手を付けていない。

「タイムスケジュール狂わせちゃったね。ごめん。罰として夕飯は作らなくていいよ。僕がおごるから何かデリバリー頼もう」

「わかった。おまえの好きなもの頼んでいいよ」

 真純の身体が本調子でないことを、きっとシンヤは見抜いていたのだろう。なんとなく手のひらの上で転がされている気分だ。だが悪い気はしない。

「じゃあ、私仕事するから」

 そう言って部屋を出ようとした時、シンヤがまたクスリと笑った。

「何?」

「さっき何か思い出してた? 顔、真っ赤だったよ」

 一瞬にして顔に血が集まってくる。真純はシンヤに背を向け、慌てて部屋を出ようとした。それをシンヤが後ろから抱きしめた。

「もう、かわいいなぁ」

「からかわないで!」

 照れくさくて怒る真純に、シンヤは笑いながら言う。

「からかってないよ。本当にかわいいんだもん」

 そして声を潜めて、耳元で囁いた。

「あの時は、もっとかわいいよ」

「余計なこと言わなくていい!」

 シンヤの手をピシャリと叩いて振りほどき、真純は今度こそ部屋を出た。部屋を出る間際、シンヤがおもしろそうに笑っていた。

 やはり手玉に取られている。今度はちょっと悔しかった。




 シンヤが頼んだピザを二人で食べ、互いにそれぞれ仕事に戻る。真純が今日のノルマを果たし、仕事部屋を出た時は夜の九時になろうとしていた。

 風呂の支度をして二階に上がる。様子を見に行くと、シンヤはまだ二つのパソコンに向かって仕事をしていた。

 左のパソコンには一覧表のようなものが表示されていて、それを見ながら右のパソコンを操作している。真純自身は使う事のない、コマンドを入力する画面のようだ。

 シンヤがパソコンを操作しているのを間近で見るのは初めてだ。後ろからのぞき込むと、彼は流れるような手つきでコマンドを打ち込みながら、時々隣の画面を見ている。

 データ入力専門の自分より、はるかに早い。しかもなんだか優雅だ。

 何をやっているのか、さっぱり見当がつかない。

「何やってんの?」

「んー。バックドアがまだ生きてるか調べてる」

「何? それ」

「平たく言えば、裏口のこと」

 シンヤは手を休めて説明してくれた。

 ばれないようにハッキングしようとすると、色々と複雑な手順を踏まなければならない。毎回同じ手順を踏んでいては、時間もかかるしその分見つかってしまう危険性も高くなる。そこで手順を簡略化して次回からは短時間で侵入できるように、こっそり裏口を開けておくのだという。それがバックドアだ。

 バックドアを仕込んだマシンは簡単に侵入できるので、別のマシンに侵入する時踏み台として使えば、接続元をごまかす工作にも使える。

 シンヤはハッカーをしていた時、侵入したマシンにはすべてバックドアを仕込んだらしい。それを一覧表にして残しておいたのだ。その数、五百以上。

「え……それ全部、ひとつずつ調べてたの?」

「うん。でももうすぐ終わるよ」

「で、どうだったの?」

「ほとんど残ってた。充分使えるくらい。中小企業が多いからね。案外セキュリティ甘いんだよ」

 もう二度とハッキングをしないと誓った時、全部消して回ろうと思ったらしい。だが数が多い上に、それをやろうとするとハッキングしなければならない。

 どっちにしろシンヤの仕込んだバックドアを利用する方法は、シンヤにしか分からないので放置していた。いずれ会社の倒産やマシンの入れ替えで消えてしまうだろうと見込んで。

 それをなぜ、今になって掘り返しているのか気になった。

「何に利用するの?」

 シンヤは少し目を伏せて、悔しそうにつぶやいた。

「ハルコがダッシュの手に落ちた」

 停電の時、ハルコの電源も落ちた。ところが再び電源の入ったハルコは、外からの命令を一切受け付けないようになったらしい。おまけにネットワークから切り離されていたはずなのに、いつの間にかネットワークに接続されていた。

 本来ならハルコの挙動を監視するシステムが作動するはずだが、このシステムを搭載したコンピュータも外からの命令を受け付けなくなっている。

 ハルコのネットワーク管理は、このコンピュータが行っていた。おそらくハルコの傀儡かいらいになってしまったのだろう。

 それどころか社内のネットワークに接続されたコンピュータすべても、ハルコの支配下に落ちたとみて間違いない。

 そして同時に、インターネットに接続された全国の、全世界のコンピュータをハルコは操ることが可能なのだ。

 話を聞いて、真純は身震いした。以前瑞希と「頭のよすぎるコンピュータって困りものだ」と冗談交じりに話した事はあるが、頭のよすぎるコンピュータが言うことを聞かなくなったら更に質が悪い。

 今のところハルコに動きはないらしい。シンヤの偽物――ダッシュが、クリスマスまで待ってやると言ったからかもしれないが、それも楽観してはいられない。

「ハルコを停止させなきゃならない」

「電源を切れば?」

「すぐに自家発電が作動するよ。それに電源をハルコに押さえられてて切れないらしい」

 配電室は電子ロックになっている。それをハルコに押さえられたらしい。手動で開閉できる鍵はあるが、電子ロックが停止しているか異常がある場合にしか使用できないという。

「じゃあ、どうするの?」

「ハルコにサイバー攻撃を仕掛ける」




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