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猫が好き!  作者: 山岡希代美
第3部 やっぱり、猫が好き! 

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6.全部見せて



 停電の謎を問い合わせに行った瑞希が、うしろに人を従えて帰ってきた。シンヤだ。

 ちょうどエレベータを降りた直後に停電に遭ったらしい。降りた後でよかったと笑いながら部屋に入ってきたシンヤは、真純の姿に気付き驚いたように立ち尽くした。

「あ、真純さん。いたんだ」

「うん」

 気まずそうに立ち尽くすシンヤを瑞希が促し、真純の隣に座らせた。

 停電の原因は、ビル全体の電源をハルコが強制的に落としたかららしい。直後に自家発電装置が作動したため、すぐに復旧したようだ。今はすでに通常通りになっている。

「なんか気になるな。どうしてそんな事したんだろう」

 目を伏せて考え込んだシンヤに瑞希が問いかけた。

「それより、ゆうべの詳細を聞かせてちょうだい」

「あ、はい」

 シンヤは返事をしながら伺うように、チラリと真純に視線を向けた。

 ハッキングの経緯などを話すのだろう。自分がいては話し辛いのかもしれない。

 そう思った真純は席を立った。

「私、先に帰るね」

 瑞希が意外そうに見上げた。

「あら、一緒に帰ればいいのに」

「うん。でも難しい話、私が聞いてても分からないし。仕事もあるし」

「そう。多分もう停電はないと思うけど、気をつけてね」

 真純は頷いて応接室を出た。

 瑞希は大丈夫だと言ったが、やはり途中で止まると怖いので、真純はエレベータには乗らず階段で下りた。

 家に帰った真純は、まっすぐ仕事部屋に向かいパソコンを立ち上げた。持って帰った書類を広げ、早速データ入力を開始する。

 少しして頭の中は、あさっての方へ飛んでいた。シンヤと瑞希がどんな話をしているのか気になって仕方がない。

 集中しなければと自分に言い聞かせて、努めて入力に専念するものの、少しするとうわの空になる。

 入力ミスがあってはまずい。真純は一つ息をついて、作業を中断した。

 こんなに気になるなら、余計な気を遣わずにあの場に残ればよかったと思う。

 不安でたまらないのに、平気なふりをして黙っている。けれど瑞希やシンヤには丸わかりで、かえって気を遣わせている。

 本当は全然強くもないくせに、強がったりするからだ。

 春にケンカをして以来、シンヤは真純を不安にさせないように、過剰なほど気を遣っている。

 今シンヤがやっている事は決して正しいことではないが、真純を不安にさせると思って気まずく感じているのだろう。

 瑞希に命令されたことだし、以前とは目的が違うのだから、シンヤが後ろめたく思う必要はない。

 自分の抱く不安にばかりとらわれて、シンヤに気を遣わせすぎだ。

 どっちが年下で子供なんだが――。

 シンヤが帰ってきたらちゃんと話そう。目を背けているから不安になるのだ。

 時計を見ると、もうすぐ昼になろうとしていた。ちょうどシンヤから「今から帰る」と連絡があったので、二人分の昼ご飯を作るために台所へ向かう。

 食卓へ置いたおにぎりはなくなっていた。ちゃんと気付いて食べてくれたようだ。おまけに、おにぎりを乗せた皿もきれいに洗って片付けられている。

 相変わらずシンヤは、妙なところに律儀だ。

 十二時の時報と共に、昼食の支度が整った。「よし」と内心拳を握っていると、玄関の扉が開き、いつものようにシンヤがバタバタと駆け込んできた。

「真純さん、ただいまーっ」

 シンヤはその勢いのまま、思い切り真純を抱きしめる。これもいつもの事だ。

「昼ご飯があるって聞いたから、急いで帰ってきちゃった。三食とも真純さんのご飯が食べられるなんて超嬉しい」

 そこまで喜ばれるほど大したご飯は作っていないが、そこまで喜んでもらえると素直に嬉しい。

 二人で食卓に向かい、他愛もない話をしながら昼食を摂る。普段から互いに仕事の話はしないが、今日は特にシンヤがその話題を避けているような気がした。

 昨日真純が不安を露わにしたからだろう。

 本当ならついさっきの瑞希とのやり取りを話すのが普通だ。真純は途中で帰ってしまったし、真純も内容を知っている仕事なのだから。

 けれどこの場では、あえて追及しなかった。ご飯は楽しく食べたい。

 何事もなく普通に食事を終えて、シンヤは自室に引き上げた。

 真純は後片付けを終えると、仕事部屋には行かずに、二階にあるシンヤの部屋を目指した。

 まだほとんど仕事は終わっていないが、まずはシンヤと話をしない事には、どうせ仕事が手につかないと思ったからだ。

 ノックしてシンヤの返事を待ち、扉を開ける。シンヤは少し焦った様子で、パソコンの画面を隠すようにその前に立ちはだかった。

 シンヤの後ろを覗くように首を傾けると、シンヤはさりげなくそちら側に体を傾ける。

 少し引きつった笑顔を浮かべるシンヤを、真純は見上げた。

「話したいことがあるの」

「何?」

 シンヤは相変わらず、わざとらしい笑顔を張り付かせている。それを見据えて真純は告げた。

「隠さなくていいよ。シンヤが今やってる事は昔とは違う。ハルコを守るためでしょう? 全部見せて。それでおまえを嫌いになったりはしないから。裏も表も全部見たい。知らないから不安になるの。おまえの事、全部知りたい」

 シンヤから笑顔が消えた。両腕を真純の腰に回して引き寄せる。

「オレも、真純のこと全部見たい」

 心なしかシンヤの瞳と声が艶を帯びているように感じる。真純は少し焦って身を退こうとした。

「そ、そういう意味じゃないから」

 しかしシンヤは真純を離さない。

「オレはそういう意味も含めて真純を全部知りたい」

 見上げるシンヤの表情は黒シンヤじゃない。これは計算ではなく、シンヤの本音だと悟る。

 シンヤが少し首を傾げて尋ねた。

「真純は? まだオレの事怖い? 信じられない?」

 真純は黙って首を振る。シンヤの両手が真純の頬を包み、思い切り上向かされて口づけられた。

 少しして唇を離すと、シンヤは真純を軽々と抱き上げた。そしてそのままベッドへ横たえ、覆い被さるようにして再び口づける。

 外はまだ燦々と日が降り注いでいる。瑞希も会社のみんなも、仕事をしているのに。

 そんな事を考えながらも、真純は抵抗するでもなく、黙ってシンヤに身を委ねた。




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