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11.高速移動

ブクマ有難うございます!


「なぁ、スマツの画面を確認している間だけさ、お前の背中に乗せてくれよ。歩きスマツは危ないだろう?」

「スマツってスマートツールのことですか? あの、それだと私が確認することができないのですが」

「大丈夫。俺が見ながら実況してやるから」

「……仕方ない。今回だけですよ。その代わり私のすぐ後ろはマスターが乗ってください」


 ルージュの許しを得た俺たちは、彼女の背中に乗せてもらえることになった。

 これでしばらく楽ができる。


「わ、悪くないですか、ルージュさん?」

「ちょっとこわいかも……」


 春川さんとレンは、少しビビり気味だ。

 一般人の感覚からすると、デカい蜘蛛の上に乗るというのは怖いのかもしれない。

 そう言うと、俺が一般人ではない変態のように聞こえるが。

 しかし俺も乗られたことはあるが、乗ったことは無い。

 俺は当然怖くなかった。どちらかと言えば期待している。毛もふさふさしているし、乗り心地は悪くなさそうだ。


 レンに怖いと言われてルージュが落ち込みだしたので、俺が率先して乗って見せることにした。


「レン、全然怖くないぞ。むしろ馬とか象より乗りやすい」

「八雲さんは、馬とか象には乗ったことがあるんですね」


 春川さんが少し珍しそうに言う。

 象は確かに珍しいかもしれないけど、馬ぐらいないだろうか。

 俺は割と何度かあるけど。


「ぼくはのったことないよ」

「はは、良かったじゃないか。初めて乗る動物が蜘蛛なんて、なかなかないぞ」

「マスター、私は動物ではないんですが」


 そうか、ルージュは虫だった。

 でもそれを言っても怒られそうな気がするので、黙っておこう。


 春川さんとレンも意を決してルージュの背中に乗った。

 しかし三人も乗るとちょっと狭い。

 おかげで俺はルージュの背中とかなり密着してしまっている。いや、背中ではない。尻だ。ルージュは常に立っているような体勢なので、顔に尻が当たってしまう。


「先に言っておく。わざとじゃないから」

「な、何のことでしょう? わ、わ、私にはわからないので、気にしないでください」


 俺は気になる。しかしここは、気にしつつ気にしない方向で行こう。


「ルージュさん、やっぱりその場所変わりましょうか? 私かレン君が一番無難だと思うんですけど」

「むむ、そうやってマスターを私から泥棒猫するつもりだな。ふっ、だが私は奥様と違い隙などないぞ。マスターは縛り付けてでも私の後ろにいてもらう!」

「とりあえずちゃんとお前の後ろにいるから。屁だけはこくなよ」


 ルージュが俺を振り返ってきた。すごくいい笑顔だ。

 そして白くて細いしなやかな指を俺に伸ばし、俺の頬をつねり始めた。


「いひゃい! 悪かったから! 俺が悪かったから!」


 結局座る位置は変わらず、後ろから、糸で固定されたレン、ほとんど後ろから俺を抱き締めているような春川さん、そして頬を赤く腫らして涙目な俺、という順だ。

 ちなみに俺が持っていたバックパックは、ルージュの卵のうの中に入れてもらった。

 それにしても前後が温かくって柔らかい。

 このままではダメな大人になってしまいそうなので、意識はしっかり持っておこうと思う。


「ふふ、前には逞しい八雲さんがいて、後ろには可愛いレン君がいる。もうこのまま四人で堕ちるとこまで堕ちちゃいましょうか?」


 ダメな大人は俺の真後ろにいた。


「レン、あんまり春川さんに甘えない方が良いぞ。変な病気になるかもしれないから」

「えぇっ!?」

「うふふふ、八雲さんったら面白いんだから。大丈夫よ、レン君。八雲さんの冗談だから」

「そっかぁ。びっくりしちゃった」

「……割と本気なんだけど」


 しかし俺の呟きは黙殺されてしまった。

 何とか流れを変えるために、もうさっさと出発してもらおう。


「ルージュ、出発進行だ」

「承知しました、マスター」


 ルージュが走り始めた。

 乗り心地は快適だ。

 こんなに速く走っているのに、まったく揺れる気配がない。

 だけど、うん。ちょっと速くない?


「ハーハッハッハ!」


 トリップしちゃってるし……。


「ルージュさん! もっとゆっくり走ってください!」

「ルージュ、こわいよぉ!」


 後ろの二人が絶叫を上げている。

 俺も若干怖かった。


「そうですね、調子に乗って全力疾走してしまいました。もっとゆっくり走りましょう」


 そう言ってペースを落としたのだが、それでもかなり速い。

 車で一般道を走っているのと大して変わらない速度だ。

 これだと駅まですぐ着いてしまう。

 スマツを弄っている時間はなさそうだ。


 思った通り、ルージュはすいすいと進んでいき、あっという間に駅が見えてきてしまった。

 もしかしたらレンの家もこの近くかもしれない。


「レン、お前の住んでいる家ってどこだ?」

「えっとねぇ、あれ」


 そう言ってレンが指差したのは、駅前にある高層マンションだった。


「おぉ、随分良い所に住んでるな」

「そうですね、買ったら六千万ぐらいでしょうか?」

「いや、ここら辺はそこまで地価が高くないから、多分五千万ぐらいだろう」

「マスターのボロアパートと比べると確かに凄いですね」

「……放っておいてくれ」


 凹む俺を尻目に、ルージュがレンを振り返った。


「レン、君が住んでいるのは何階だろうか?」

「ん、きゅうかいだよ」

「よし、承知した。マスター、外側から登って行きます」

「お、おお、それしかないか」


 ご近所の皆さん申し訳ありません。

 こんなデカ蜘蛛が突如現れたら、驚いて失神してしまうかもしれない。

 しかし人を襲って喰らうモンスターが現れたのだ。今更ではあるか。


 それに、ここに来るまで全く人に出会わなかった。ワニ男にもだ。

 まさかほとんどの人間が食われて死んだ、とは思えない。

 多分皆自分の家にでも引き籠っているか、どこかに避難しているのだろう。

 となると、ワニ男がいないのは、引き籠っている人間を襲っているとか、避難している人間を襲っているとか、なのかもしれない。

 ともかく、人に見られて騒ぎになる心配は、そこまでなさそうではある。


「なぁ、ルージュ。このマンションに人の気配は感じるか?」


 マンションを登りながら、ルージュが前を向いたままで首を傾げる。


「ええ、結構いるみたいですね」


 やはりかなりの数の人間が、無事生き延びているらしい。

 宇宙人が責めてくるような映画とかと比べたら、状況はだいぶましと言えるんじゃないだろうか。ただし、外を出歩いている人間には今のところ出会っていない。

 自宅、学校など、あとは何だろう? ああ、忘れていた。きっと、こういう時の定番とも言える、ホームセンター辺りにでも立て籠もっているんじゃないだろうか。

 俺たちにも食料の心配はあるが、実は俺はすでにこの後の行動を決めていた。とりあえずはレンの家に行って、それから皆と相談してみよう。


「あ、ぼくのおうちあそこだよ」


 ルージュがレンの指差した方向に近づいて行く。


「マスター、どうしましょうか? マスターの家とは違って、窓を破ると高くつきそうですが」

「俺の住んでたアパートは放っておけよ。……そうだな。この事態がいずれ収束するとも限らん。窓を外してしてしまおう。できるか?」

「はい、お任せください」


 ルージュは窓に手を掛けると、それを力技で外してしまった。

 メキョッという音がして鍵が壊れる。


「マスター、鍵が壊れました」

「……これぐらいは許してもらおう」


 窓はとりあえず直さずに、立て掛けておく。どうせ出る時にまた外す羽目になるだろうし。


 まず中に入ると、リビングだった。

 俺のアパートのリビングと比べると倍はある。


「わぁ、広いですねぇ、マスター。マスターの家と「おい、それ以上は言うなよ、糞蜘蛛」……承知しました」


 中に入って行って様子を窺うが、人の気配はしない。いや、いたらルージュが予め教えてくれるか。


「お父さんはまだ帰って来てないみたいだな。とりあえず、帰って来るまでか、帰って来なかったら、一晩はここに泊めさせてもらうか」

「パパ、かえってこないの?」

「……わからん。帰って来るといいけどな」


 きっと帰って来る、なんて適当なことは言えない。

 レンには悪いが、俺は七割方帰って来ないのではないかと考えていた。

 もし帰って来ているなら、置手紙ぐらいしただろう。

 部屋を見渡した限り、それはない。

 そして帰って来られるなら、もう帰って来ていていないとおかしいのだ。

 なぜなら、春川さんが俺の元に辿り着いているのだから。

 もちろん会社が遠くて、こっちに向かっている途中に電車が止まってしまったとか、色々考えられることはある。

 だからひとまず、一日は待ってみようと考えたのである。


「さて、とりあえず一度全員でスマツを確認してみるかな」


 全員頷き、テーブルに腰を下ろした。

 そして各々スマツを起動させる。

 レンは早くも順応したようで、使い方を完全に覚えているようだった。

 尤も、内容は俺や春川さんが説明しなくてはいけないが。


 さて、どれくらいのSPを入手し、どんな機能が追加されたのだろう。


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