016話
僕がこの世界に来た理由。
正確にいうと、女神アナベルが、僕をこの世界に降ろした理由。
それは、ずっと言っている事ですが……。
ズバリ!観光です。
この世界、オールスラントを見て廻る事が目的。
ただ見るだけなら、ぶっちゃけ天界にいてもできるんだけどね。
実際、この世界を管理している女神アナベルは、天界にいるし。
でも僕は生まれたての新米神族、少し変わった経緯で神族になってしまった為、天界にとってはイレギュラーな存在らしい。
そこで、姉心が出た女神アナベルは気を利かして、父に僕が下界に降りる提案をし、意外にも承認されたのだ。
確固たる理由もなしに、天界人が下界に降りることは、禁則事項に当てはまりソレを犯すと、最悪天界からの追放となってしまう。
それなのに、今回許可されたのには勿論ちゃんとした理由があるワケで。
それが、観光という名の視察。
オールスラントを見て廻った後で、父にレポートを提出&報告する事になっている。
天界では、見る事はできても触れる事は出来ない。
実際に、経験したことや感じたことや改善点などをレポートに纏めるのが、僕の役目だ。
女神アナベル自身、比較的問題の少ない、このオールトラントの管理を、将来的には僕に任せたいと考えている。
その為の布石として、今回の観光を思い付いた。
レポート&報告の結果次第で、一足飛びに男神の役職に付けるという算段らしい。
そして、僕1人では何かあったら困るだろうと、守護天使のイリスが同行することになった。
補足すると、期限のしばりはないから思う存分観光を楽しんで良いと言われている。
「……という、わけです」
「なるほどのぅ」
この世界に来た理由を話し終えると、目を閉じながら静かに聞いていたゲイツさんは、腕を組みながら深く頷く。
僕はその様子を見て、思わずホッと息がこぼれる。
良かった。
理解はしてくれたみたい。
「カナタ殿は、苦労しているのだのぅ」
………はい?
見ると涙を流しているゲイツさんがいた。
えっと。
今の話から、僕がどうして苦労していると思ったのかなぁ?
苦労は全くしていないよ。
ただ流されてココに来ただけなんだけども。
「カナタ殿!万事、儂に任せよ!」
なんでっ!?
僕の話のどこで、ゲイツさんの心に火を着けたの!?
「良かった。なのです♪」
いやいや!?
イリスさんのホッとした理由が、僕には理解出来ないから!
「しかし、イリス殿が天使だったとはのぅ」
「えへん!なのです」
えっ?
何で、2人とも意気投合しているのかな?
お願いだから、僕を置いていかないで下さい!
「「ハハハハッ!」」
……はぁ、もう勝手にして。
「――カナタ殿」
「え?何ですか」
「後ろへ。なのです」
話をしながら歩いていた為、気付くのが遅れてしまったようだ。
どうやら、魔物にロックオンされたらしい。
「アレは何ですか?」
「あれは、ボアじゃのぅ」
ボアかぁ。
見た目、猪だなぁ。
ドッドッドッと重い音ともに、コチラに向かって走って来るボアの群れ。
猪突猛進って、この事をいうんだよね。
へぇ魔物って、白目なんだぁ。
「あれの肉は、少しクセは有るが、そこそこ旨いでのぅ、駆け出しの頃は、よくお世話になったものじゃ。懐かしいのぅ」
そう言いながら、僕達の前に立ち、杖を構えるゲイツさん。
駆け出し時代のゲイツさんかぁ。
そうだよね。
誰にでも、最初はあるんだ。
初心、忘れるべからず。
「氷の矢雨」
ボアの群れの頭上に氷の矢が降り注ぎ、次々とボアが倒れていく。
先ほどゲイツさんは、ボアの肉が旨いって言っていたけれど、全く狩るつもりはないみたい。
ボアの体のあちこちから、勢いよく血が吹き出しているし。
いやぁ、圧巻だねぇ。
でも、これってオーバーキルなんじゃないのかな?
イリスだったら、1匹?1頭?に対し一太刀で充分だと思うけどな。
「うむ、終わったのぅ。火よ燃やせ」
ボアが火に包まれ、あっという間に炭化になって、魔石が姿を現す。
「それじゃあ、魔石集めよっか?」
「はい、なのです♪」
しかし、魔石を取りに行こうとした足を止めた。
人の気配がするのだ。
しまった。
ボアに気を取られて遅れた。
そう思った時には、僕とイリスは囲まれていた。
ゲイツさんとは少し、距離が開いている。
僕は大丈夫。とアイコンタクトを送るとゲイツさんは小さく頷いてくれる。
しかしと、僕は思わず顔をしかめてしまう。
できることなら、その経験はなるべく遅い方がよかったのにって。
身なりから察するに、野盗のようだ。
男達の手には各々、剣や斧をもっている。
手入れはしていないらしい、彼らの武器の刃には汚れがこびりついた状態。
その汚れの元は、魔物の血か。それとも……。
体も洗っていないようだ、顔や服が煤けて汚れているし、あぁ見るからに臭そう。
「へへッ、坊主。悪ぃなぁ、ここにある魔石俺たちが貰うぜぇ」
どうやら、僕の顔が恐怖で歪んだと、彼らは勘違いしてしまったらしい。
「ついでに、ガキ共は人質として利用させてもらうぜぇ!」
僕とイリスに向かって、一斉に飛びかかって来た。
「「「「「痛ぇぇぇ!」」」」」
しかし、同時に男達は、勢いよくお互いの頭をブツけ合って、悶絶している。
「何なの?馬鹿なの?死ぬの?なのです」
僕とイリスは、男達の背後に立っていた。
「ココから、僕達のターン!ってね」




