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014話



 村の朝は早い。


 朝日が昇る頃に目を覚まし、田畑や狩り、果実や薬草の採取などへと出掛けて行く。


 ゲイツさん曰く、朝食の習慣はこういう村ではないらしい。


 僕は、ゲイツさんの話を聞きつつ、のんびり朝食を食べながら、村の様子を眺める。


 ちなみに、今日の朝食メニューはロールパンとベーコンエッグとシーザーサラダ。


「僕は、朝昼晩の食事が、当たり前な生活を送ってきたけど、この世界では違うのかぁ」


「だが、王族や貴族などの上流階級や、金銭的に余裕のある者などは、朝昼晩食べているのぅ」


「結局は、格差社会って事かぁ」


 食後のミルクティを飲みながら、ゆっくりと今後の事を話そうとした時、遠くからチリリリリーンと音が聞こえてきた。


「――何の音?」


「はて、カナタ殿の部屋の方から聞こえるのぅ」


 イリスも同意するように、僕を見て頷く。


 僕は自室へと戻ると、2人が言った通り音の発信源は、確かに僕の部屋にあった。


「――何で、鞄から?」


 僕は不思議に思いながらも、取り敢えず鞄を開けて中を覗いてみるが、当然ながら真っ暗で何も見えず、仕方なく手を入れると、何かが僕の手に触れた。


 ソレを掴み取り出すと、感触で予想していた通り、それは1通の手紙だった。


 僕は手紙と鞄を持ってリビングへと戻り、2人に報告する。


「音が止みました。なのです」


「……手紙ですのぅ」


 ソファの自分の定位置に座り、手紙の封を切った。


 送り主は、アナベル・スフレール。


『私の可愛い弟・カナタへ

さっきは本当にごめんなさい。貴方に喜んで欲しくてサプライズを仕掛けたのが、反対に貴方を傷付ける形になってしまって。今度からは気を付けるわね♪ところで話は変わるけど、ゲイツさんの事について、キチンと説明してなかったから、教えようと思います♪きゃはっ♪優しい姉をもってカナタは本当に、天界一の幸せな弟ね♪』


何だろう?

この目が滑る感じ。


 今度から気を付けるって、今度からもなにもサプライズは止めて下さい。


『それで、ゲイツさんの事。私が処方した薬の効能は、1つは若返り効果ね、本人が望んだ年齢に戻れるわ。そしてもう1つは長寿ね、コレには多少の個人差があるけれど、最低でもこれから100年は余裕で生きられるわ』


えっ!?

なにソレ?

最低でも100年って事は、200年って事もあるって事なのかぁ!?


『取り敢えず、この事は早めに伝えた方が良いと思って、速達で送ってみました。ゲイツさんにはこの手紙を見せるか、カナタが話すかは貴方の自由よ。それじゃ、お手紙頂戴ね♪アイテム作成の依頼でも良いから、お手紙待ってます♪』


最後の手紙の催促いらなかったぁ。


 2回書いてあるって所が、本当に欲しくて仕方ない感じが伝わってきて、何かイヤだ。


「アナベル様は、なんて?なのです」


「――それがさぁ……アレ?ゲイツさんは?」


 手紙を読み終えて顔を上げると、ゲイツさんの姿がないのに気付いた。


「ゲイツさんは、お風呂に行きました。なのです」


「風呂かぁ」


「家のお風呂を楽しみにしていたのに、結局ソファで寝てしまったとかで、先ほど行かれました。なのですよ」


 昨日のゲイツさん、家の中を見ていた時風呂を見てテンション上がってたもんねぇ。


 こちらとしても、少し時間が欲しかったから、ゲイツさんが風呂に入りに行った事は好都合だ。


「なんじゃこりゃあぁぁぁぁ〜!?」


 突然のゲイツさんの絶叫が、家中に響き渡る。


「今度は、なんだよぅ」


 僕とイリスが風呂場に向かうと、脱衣所で頭を抱えているゲイツがいた。


「――どうしたんですか?」


 僕が声をかけると、ゆっくりこちらを見ながら、ある1点をゲイツさんは指をさす。


 指し示した先には、鏡があった。


「――儂、若返っておる!」


「……昨日、そう言いましたけど?」


…………。


「……あれ?そうじゃったかのぅ?」


…………。


「風呂、早く入って下さいね」


 僕はそう言って、イリスと一緒にリビングに戻った。


 暫くして、サッパリした様子のゲイツさんが戻ってきてソファに座る。


「いやぁ、久しぶりに風呂を満喫したのぅ」


「それは、良かったですって。あれ?……髭」


 胸元までのびて長かった白い髭が、顔のラインに沿って揃えている。


 そのついでなのか、眉毛も揃えていた。


「似合っています。なのです」


 イリスが言うように、伸びっぱなしだった髭や眉毛を短くしたおかけで、清潔感があって紳士なオジサマに変貌を遂げたのだ。


「ハハハッ。せっかく若返ったのだからのぅ」


あ、話し方は変わらないんだ。


「それにしても、目の前に知らぬ若造が現れたと思ったら、それが儂自身だったとは驚いたのぅ」


 快活に笑うゲイツさんを見ていて、僕はある事を思い付き鞄の中に手を入れてそれを取り出す。


「便箋なのです」


「うん。姉さんに手紙を書こうと思ってね」


 そう言って僕が書き始めると、風呂上がりのミルクを飲んでいたゲイツさんが反応する。


 風呂上がりに腰に手を当てて、ミルクを飲むという光景を、まさか異世界に来ても見られるなんて思わなかったな。


「そういえば、アナベル様からの手紙には何と書いてあったのかのぅ」


「あ、忘れてた。はい、これ」


 僕は、ゲイツさんに姉さんからの手紙を渡す。


「……儂が読んで良いのですかのぅ?」


「えぇ。だって、手紙の内容はゲイツさんの事だから僕の口から話すより、ゲイツさんが読むべきだと思いますから」


 僕は、そう言って手元に視線を落として、再び手紙を書き始めた。

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