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あなたの色に染まりたい~ハズレスキルでしたが王子様に見初められました  作者: 伊織ライ


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ハズレスキルの出来損ない

お読みいただきありがとうございます!

「お父様、お母様、見てください! こんなに大きなファイアボールが出来るようになりましたわっ!」

「おお、凄いではないか。流石、ヴィクトリアは我がデュラン侯爵家自慢の娘だ。その調子で誰より強い火魔法を使えるようにこれからも精進するのだぞ」

「偉いわ、ヴィクトリア。本当に貴女は私たちの誇りよ」

「うふふ、当然ですわ! だって私はお父様とお母様の娘なのですもの! これからもデュラン侯爵家の娘として恥ずかしくないよう、精一杯魔法の練習をいたしますわね!」


 隙間風の入り込む小屋の窓から、開けた庭を覗き見る。以前、私が()()の様子を伺っていることに気付いた姉から巨大なファイアボールをぶつけられたことがあるため、くれぐれも見付からないよう気を付けながら。あの時は私の縮れた髪の毛と頬の火傷を見て、侍女のフロラが悲鳴を上げていたっけ。

 スキルの訓練と称して彼らが踏み荒らす足元には、私が丹精込めて世話をしていた野菜の畑がある。わざわざこんなところでやらなくても、専用の立派な訓練場だってあるはずなのに。あえてあの場所で魔法の訓練をするのは、きっと私に見せつける意図があるのだろう。出来損ないの娘に、己の立場を思い知らせる罰だとでも言いたいのだろうか?

 そんなことより私は、彼らが駄目にしてしまった畑の方がよほど気にかかるというのに。あの様子ではもう、食べるのは難しいかもしれない。もうすぐ収穫のものもあったのに……今から畑を作り直したとして、本格的な冬が来る前に収穫は間に合うだろうか? 根菜の類だけでもなんとか生き残っていてくれたら嬉しいのだけれど。

 魔法でお腹は膨れないのだから。


 ◇


「──かつて、周辺国から理不尽な侵攻を受け苦しむ民たちがおりました。彼らを哀れに思った女神様は自らの力を分け与え、我々に慈悲をくださったのです。中でも、正義感に溢れるひとりの若者は特別大きな力を授かりました。全てを押し流す水、何もかも焼き払う火、鋭く切り裂く風、そそり立つ壁や大穴を自由に作り出すことが出来る土。誰より強大な魔法を授かったこの若者の手により、圧倒的な力をもって敵の軍勢は退けられたのです。この国の民と領地を守った黒髪赤目の英雄──これが、彼の伝説の始まりでした。英雄王オーギュスタンについては皆もちろん知っていますね? そう、この国の王家の始まりです。それから現在に至るまで、我が国の民は皆この洗礼式において魔法のスキルを授かるようになりました」


 いつもより少しだけお洒落をして、両親と出向いた大神殿。五歳の洗礼式の日、優しそうな司祭様が切々と語りかけてきた。居並ぶ同年代の令息令嬢たちは皆期待に目を輝かせ、その説教を真剣に聞いている。

 

「オーギュスタンの遺志を継ぐ我々は、常にその強さを第一義としています。貴方たちも、貴族家に生まれた者としてその家門のため国のために強く誇り高くありなさい」


 代々強力な火魔法を授かって来たデュラン侯爵家の次女として生まれた私も、当然のように火魔法のスキルを得るのだと思っていた。両親も、二歳年上の姉も、そして私自身でさえそれ以外の可能性を考えもしなかったのだ。

 

 けれど……その日私に与えられたスキルは、火魔法ではなかった。


 色変えスキル。その名の通り、触れたものの色を変えられる魔法だ。

 私の洗礼を担当していた神官からその内容を聞いた母は小さく悲鳴をあげて倒れ、父はそんな母の身体を支えながらもこめかみに青筋を浮かべ呟いた。


「──我がデュラン侯爵家からハズレが出た、だと……」


 周囲の人々の様子に言い知れない不安を感じた私は、父の足元に縋りついた。けれど嫌悪感も露わにこちらを見下ろした父は、それを力いっぱい払いのけたのだ。軽い身体が地面に転がり、おろしたてのドレスが嫌な音を立てる。お気に入りのスカートが土に汚れ、小さな手のひらには細かな小石がたくさん刺さっていた。

 

 私たちの様子を見て駆け付けた司祭様は、先ほどまでの優しい表情は幻だったのかと思うほど冷たい眼差しでこちらを見下ろしてくる。転んだ私に手を差し伸べてくれる人は、誰ひとりとして存在しなかった。


「せめて鑑定や契約の能力であれば、非攻撃スキルでもそれなりの仕事があったのですが……。ただ色を変えるだけしか出来ない貴族令嬢に任せられる仕事も価値もありません。当然そのような存在を妻に望む貴族家だってないでしょうし……まあ顔立ちは然程悪くないので、裕福な商家の後妻がいいところでしょうか。それにしても、あぁなんて嘆かわしい……歴史ある名家の子女でありながらハズレのスキルを授かったのは、貴女の祈りが足りなかったからに他なりません。今更遅いかもしれませんが、今後はきちんと女神様に感謝の祈りを捧げなさい。でなければもっと酷い罰が下りますよ? 心労をかけたご両親の為にも、これ以上の迷惑をかけないようくれぐれも自重することです」


 当時五歳の私に、その言葉の正確な意味は理解しきれなかったけれど。それでも私が期待を裏切り、よくない結果が出たのだということは分かっていた。その日を境に、我が家における私の立場は使用人以下の「ハズレ」に落ちたからだ。


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