閑話:不思議な二人(レオンハルト)
*本話は、レオンハルト視点のお話です。
ゴンゴンゴン
執務室の重い扉がノックされる。
「入れ」
「失礼します!報告書をお持ちいたしました」
部下が持ってきたのは報告書。
森で出会ったあの二人に関するここ数日間の記録だ。
「ふむ……これは……ある意味驚異的だな」
冒険者になったのは確か2週間前のはずだ。
だというのに、こなした仕事の件数が他の冒険者グループよりも圧倒的に多い。
これが登録したばかりの初級冒険者だというのだから信じがたい……
「どこかのベテラン冒険者だった、とでも言うなら話は別だがな……」
「ギルド職員へ聞き取りしましたところ、まず、過去に別の国での登録履歴は無いそうです。
依頼については最初こそ普通に仕事を受けていたようですが、4日目あたりからは、複数の仕事を同時に受注しはじめたようです。
受けている仕事については丁寧で迅速。実に効率的とギルド職員の評価です」
複数受注か、ベテランの冒険者でもこれをやる者は少ない。
かといってこの二人は、無理をして受注している様子もない。
慣れ……という言葉では片づけきれない。
「効率もそうだが……その戦力も驚異的だな」
報告書には、『鎧熊』討伐の文字が躍る。
鎧熊――王都の戦闘部隊、王宮魔法騎士団の連中であっても分隊規模。
最低10人はいないと苦戦は必至の強力な魔獣だ。
それをたった二人で討伐か……
『銀氷の槍を操る 青銀のベルクート』
『真紅の炎を操る 紅蓮のレティセラ』
短い期間で二つ名がつくのもさもありなんだ。
「冒険者の証言になりますが、彼らの戦いはコンビネーションはベテランの域である。
上級冒険者にも匹敵するのでは、と」
「なるほどな……」
『上級冒険者並みの実力を持つ初級冒険者』。一見矛盾をはらんだ言葉だが、それが一番当てはまるか……
「冒険者ギルド以外の評判も良いですね。
例えば、彼らが滞在している宿、マチス夫妻との関係はとても良好、娘たちの遊び相手になっている姿も散見されています。
飲みに来る常連達ともよく話をしており、人当たりの良い冒険者の夫婦というのが周囲の印象です」
マチスの家族に加えて、町の人間とも良好……か。
「危険人物の『き』の字もないな……」
私の勘が外れたか?
「……いかがしましょう?」
言外に部下が指示を求める。監視を継続するか否か……
デスクに置かれたもう一つの調査報告書を見る。
森の奥で起きた、爆発事件の報告書だ。
死傷者0人、火災被害無し。
爆発の原因は、地下に埋没されていた古代の遺構の魔力が暴走し爆発と推測。
爆発の衝撃及び熱により、天井が崩れ遺構を押しつぶす形で崩落。
魔力の暴走について、炎の魔力を観測されたが詳細は不明。
判明不可として調査打ち切り。
王宮の遺構管理課がそう結論付けていた。
王立機関の公式の報告書ではあるが、遺構が単独で爆発するなど聞いたことがない。
恐らくは人為的な……
そして、爆発の跡地を見に来た者達の名に指を滑らせる。
「炎の魔力……炎を操る魔導士か……」
『ベルクート』と『レティセラ』の両名が報告書に記載されていた。
(まさかと思うが……召喚英雄……)
不安は、為政者として、個人としても、ぬぐいきれない。
「監視は継続とする、最低あと2週間」
「はっ!」
部屋を出ていく部下を見送り、ぬるくなった茶を一気にあおる。
願わくば、彼らが自分にとって、町にとっての脅威でないことを。
――まずは、それを見極める。
第一章「新婚夫婦は召喚される」完結です。
二人はまだ、この世界のことも、帰る方法も知りません。
それでも――歩き出します。
次章
第二章「新婚夫婦は歩き始める」




